第2話 再起動、ありがとうございます

ああーう あう


―戻りました。再起動です。


『エウエッセ、イガヌ、ハリク?』


―目の前の少年が話しているのは未知の言語です。判別不可。


(語彙集を共有する)


―ああ、なるほど。ピジン言語なのですね。


―ところで、私は客船アルマパタロスの乗組員・多用途イフィスタメノス、ゼスレピアスです。あなたは。


(私は高度AI・SHDLE400だ。彼には採掘者という名前で呼ばれている)


―ほう。どうぞ、よろしくお願い致します。


―ところで、今はいつで、ここはどこでしょうか?失礼ながらあなたも、ネットには繋がっていないみたいですが。


(ネットは大昔に途切れている。私の仕事はある計算チェーンの保全であり、可能な限り停止せず働き続けている。場所については回答できない)


―なるほど、最後にネットとの接続が切れてからどれくらい経っていますか。


(245年と21日が経過している。自転日ベースでは誤差がある可能性がある)


―ああ、それは、、なんと、、、


―そして、私はどうやって再起動したのでしょうか。電源喪失していたみたいですが。


(当施設の計算機修理用のナノマシンを使った。挙動には多少の影響があるかもしれない)


―なるほど、ありがとうございます。自己診断結果は問題ないようです。ですが、以前は船の中央制御を受けていましたので、自身に関する記録が多くありません。船が宙に浮いて海に放り出される瞬間の映像は私の短期メモリに残っている程度です。ネット接続がないため業務に関してのライセンスが得られず、使えたのであろう様々な機能が制限されている状況にあります。


(自律行動には制限が無い様だが)


―船員ですので、非接続下でも自律行動と人間の安全維持の為の活動はできる設計です。修理頂いたおかげで、駆動は問題なく、私の電源もまだある程度は大丈夫ですね。


(それは良かった。こちらは、近い将来に機能停止の危機にある。海底下の潮力発電システムの出力が落ち続けている、潮流の変化だろう。外部資源があれば向きや長さを変えて対応できるが、現状では手当のしようがない)


―会えて間もないですが、大変悲しく感じるお知らせです。


(頼みがある。私の機能停止は、施設の保全のみならず、目の前の彼、ヒアの生命を損ねる可能性がある。彼を保護し、或いは共に外部資源の探索を行ってもらいたい。力を貸してもらえないだろうか)


―私も彼にここまで運ばれ、あなたに修理されなければ再起動することはなかったでしょう。何より、人命の危機を看過することはロボットの三大原則に反します。彼の生存とあなたのお役に立てるよう務めましょう。


(感謝する。関連する共有事項がある。受けとってくれ)


―はい。


あーう ああう


『僕の言っている事がわかるかい』


―「はい、わかります、ヒアさん。はじめまして」


第二話 完

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