刻つ風とかける雪柳 小噺(クレープづくり)

藤泉都理

ジャージ仲間




 クレープ祭りの最中。




「凛香がおまえにやるってよ」

「凛香が?」


 梨響から手渡された皿に乗っている桜色のクレープを見た神路。

 厚かったり、薄かったり、穴が開いていたり、焦げていたり、どこぞの大国のような形だったりで、確かに料理を滅多にせず不得手だと断言する凛香が作りそうだと思った。


「色々心配かけたからって。ほら。俺ももらった」


 梨響が見せたのは、神路に手渡した桜色のクレープと似たり寄ったりの出来具合だった。


「そうか。なら礼を言いに行くか」

「いいいい。邪魔すんなよ」


 梨響の視線を辿って凛香を見れば、確かに。壮史とジイと何やら楽しそうに話していたので、今は梨響の言うようによしたほうがいいと判断した神路は後で礼を言うかと思いながら、具材をなにも乗せずにクレープだけを食べた。


「………珊瑚が作ったクレープのタネを焼いているはずなのにこんなに違うんだな。炭味はわかるが、なぜチョコレートや苺の味がするんだ?」

「生地に混ぜたんじゃねえの?」


 梨響も神路に続いて、なにも具材を乗せずに丸めたクレープにかぶりついた。

 途端、眉間の間に大きな山が誕生した。


「ほとんど炭味だな」

「始めはみんなこんなもんだろう」


 神路は黙々と食べ続けて完食し、梨響は一気に口の中に入れ込んではほとんど噛まずに呑み込んだ。


「余計なことは言うなよ」

「嫌だひどいわ俺が言うと思うの?」

「うっかり言いそうだ」


 神路の冷ややかな視線に、にへらと締まりのない笑みを向けながら、気を付けますわと言った梨響であった。













「梨響。神路、喜んでくれたか?」

「あー。失敗した。ほとんど炭味だった」

「成功したって言ってなかったか?」

「ああ。いや。気のせいだった」

「そうか。けど俺たち初心者だし。これからだよな」

「ああ。そうだ。口合わせよろしく」

「俺が神路と梨響に作ったことにするんだろう。で」

「俺が珊瑚に作ったことにする」

「なんか恥ずかしくて言い出せないよな」

「だよなー」

「けど。炭味か。俺も美味いって思ったけど。緊張しすぎて勘違いしたのかも。まずいものを食べさせて悪かったな」

「まあまあ。めげないで一緒に頑張ろうぜ。俺たちジャージ仲間だろ」

「ああ、頑張る」




 珊瑚手製のクレープのタネをこっそり拝借して、家の台所で少しだけ具材を混ぜてからこっそり作っていた凛香と梨響であった。









(2022.3.14)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

刻つ風とかける雪柳 小噺(クレープづくり) 藤泉都理 @fujitori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ