笑わないお姫様ではないわがままな私

常盤木雀

笑い話

 コメディだとかお笑いだとか、世の中の人は何故そんなに好きなのだろう。

 特に、テレビ。街中の液晶や病院の待合室で、意に反して遭遇するそれは、高い確率で笑いを求めている。滑稽な動作、わざとらしい失敗、馬鹿にする物言い、そしてその後に続く笑い声。避けてニュースを見ようとしても、アナウンサーでさえ少しの隙に洒落を入れ込もうとしている。

 私が笑いを目的としたものを好まないことを、皆は非難する。お高くとまっているとか、高尚ぶっているとか、精神的に未熟だから面白さが分からないのだとか、言葉を変えても結局言いたいことは『私が悪い』だ。仮にその批判が真実だとして、それの何が悪いのか。好きでないから見ない、聞かない。だからその話題は私以外と話してくれ。この要求のどこに問題があるというのか。虫嫌いの人に昆虫飼育の話はしないだろう。


 もしも、私が遠い昔のお姫様であったら、姫を笑わせた者には褒美を出すとか姫を娶らせるとか言われていたのだろうか。

 想像するだけで気持ちが静かに冷えていく。

 報酬を求めて道化を演じる人々。一度笑ってしまえば、その者が優れているとされてしまう。場合によっては結婚させられる。決して笑うわけにはいかないと意を固めるだろう。

 童話のお姫様は、よく笑えたものだ。本当に彼女の心を揺らしたのか。それとも、もう疲れてしまって、壊れて笑い転げたのか。人々が列をなして笑わせようとする状況を危惧して、終わらせるために無理に笑ったのか。

 ――そうまでして、彼女は笑わなければならなかったのだろうか。


 私だって、心がないわけではない。誤解されることもあるが、楽しければ、面白ければ、笑う。ビジネススマイルも使いこなせるし、本や映像を見て声を立てて笑うこともある。


 膝にのせているモルモットが、ふすんと鼻を鳴らした。

 温度の高いその体を撫でながら、私は自分の口角が上がるのを感じる。心からの笑みだって、強要されなくてもちゃんと浮かべられる。

 しかし、それでも、きっと、笑わせようとするものが好きでないのは、わがままなのだろう。


<終>

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