上演中の喜劇『呪われた王子と悪役令嬢の契約結婚』だけど、明らかに私たちよね?

ムツキ

◆ 絶対身近のヤツが絡んでるでしょ? ◆


 二階三階とボックス席を展開する、広いホール、社交場としてのレストランも兼ね備えた老舗しにせ状態の劇場。

 一歩入れば歴史を感じさせる作りは絢爛にして重厚。年若い層ならば圧倒されるほどだ。


 三階ボックス席、一般的にバルコニーと呼ばれる場所の一区画に私ことシャーロット・グレイス・ヨーク、16歳はいる。


 隣にはカエルがいる。

 そう、等身大で両生類なカエルだ。高そうな服を着ているとも。一応こんなのでも第一王子だったりするし?

 別種族とかそういう話でもない。

 ただ呪われてるだけだ。魔法でヤバい呪い掛けられてるだけだ。


 正直上演される喜劇よりも喜劇じみた存在が隣にいるのだ。そうそう、劇で笑えるものではない。



 なにより、この劇の内容よ!!  何なの? この令嬢めっちゃ性格悪すぎる!! 呪われし王子がイイ人なだけに差がヤバい!!

 しかも覚えのあるエピソードだらけ!!!!



 彼は難しい顔をいしてジッと壇上を見つめている。

 この劇は私が誘ったものだ。舞台では最近流行っている喜劇が演じられており、観客からは笑い声も漏れている。

 しかし、お互いの間にはどこか緊張したムードが漂っている。


「ねぇ、チャーリー。なんでこの劇、選んだの?」


 不安そうな声で婚約者ことカエル王子が口を開いた。

 チャーリーはシャーロットという私の名の愛称だ。互いの親の薦めで愛称呼びになっている。

 だが基本、私は彼をカエル呼びだ。


「言ったでしょ? これ、明らかに私たちよ!」


 またも他の観客席から笑い声が漏れる。


「うん、まぁ。え、っと……そう、だろうね?」


 劇の内容は、呪いをかけられ蛙になった王子と性格の悪い侯爵令嬢と結婚する話だ。

 顔も服も緑にした俳優がオタオタと侯爵令嬢の機嫌を取っては冷たくあしらわれる前半、機嫌を取ることに疲れた王子が彼女を調教し、自分好みの淑女へと育てる中盤、後半にはお互い期間を決めて交互にへつらい合うと取り決めるのだが――。



 モデルでしょうが、まだ結婚してないしこんな未来はイヤだ。大体この令嬢の性格は私も認める悪さだ。

 この脚本を書いたのが誰にしろ突き止めてやって文句を言う、それが今日のミッションだ。


「よく見てよ、この劇のカエル王子に対する侯爵令嬢の対応よ。これ去年の私よね? 絶対学校の、それも同級生だと思うのよ!! よく見て考えるのよ! あんた頭イイんだから、一緒に犯人を捕まえて! 絶対、しめあげてやるんだから!」

「あぁ、そういう……」


 カエル王子は困ったように息を吐く。


「でもチャーリー、ただの劇なんだし」


 またも周囲からは笑い声が漏れている。

 殺伐とした空気のボックスはココくらいだろう。


「あんた、何も思わないわけ?! あんた笑われてるのよ、王子なのに!」

「演劇を取り締まる気はないよ。風刺とか世相を表すし、そういうのでのガス抜きも必要というか」

「あんた人間できすぎでしょ!?!? 理想の君主でも狙ってんの?! あたしと結婚するなら無理だから!!」


 叫ぶ私に、カエルは戸惑ったように付け加える。


「でもほら、チャーリーもこの劇によると改心するらしいし?」

「それ、フォローになってないからね?! 今、性格悪くて問題児って認めたようなもんだからね!?」

「あ……」


 カエルは慌てて口を両手で塞ぐ。

 舞台でも同じ様子をしている緑の男。


「……やっぱりそうよ、誰かがしっかり観察して書き上げてるんだわ。間違いないわ。なんであんた、そんなに余裕なわけ? まさか犯人知ってるんじゃないでしょうね!?」

「え、いやぁ……」


 カエルの視線が彷徨う。


「あんた、……絶対知ってるよね?!」


 年齢一桁で婚約した間柄だ。当然相手の色々をお互い知っている。このカエルの顔は確実に『知っている』顔だった。


「いや、えーっと……チャーリー。その、誘われた時点で知ってるかと思ったんだけど」

「もったいぶらないで!」


 睨みつければ、カエルは大きなため息と共に漏らす。


「ボクなんだよね」



 ボクなんだよね????



「この劇、書いたの」



 は?



「ちょうど暇な時間があったから、手慰てなぐさみに書いて知り合いの劇作家にあげたら、どんどん話が進んじゃって……。いや、でも!! 勘違いしないでほしい! ボクはあそこまでチャーリーの性格悪く書いてないからね!?」


 必死で言い募る男を見下ろし、私は蒼ざめている。

 勿論、婚約者たる男に性格が悪いと思われていた事ではない。そんなものは今更だ。

 問題は『婚約者』という事だ。


「あんた……、アレが理想の結婚生活とか言わないよね??」


 あれが理想の結婚生活だと言われたら、このカエルを殺した方がマシだ。


「もも勿論だよ! あれは喜劇じゃなくて、まぁ悲劇だよね……」

「結婚生活に喜劇も悲劇もいらないわ! 穏やかに暮らしたいの、私っ!!」


 叫ぶ。

 カエルは「そうだね」と苦笑いをした。



 じゃあ、なんでお前書いたんだ!!!!



 そうね、やられたからにはやりかえそう。

 でもどうやって彼をぎゃふんといわせてやるか、それが問題だ。いっそこの劇の終わりを改変して上演できなくしてやるか。

 私が彼を殺して終了にでも。



(了)

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