〈星語りのダーシュ〉4
かつて〈銀河の最果て〉と呼ばれ、今は
その星の銀河の中洲に、今、溢れんばかりの植物が蔓延っていた。緑の草葉はもちろん、様々な花が咲き綻び、朝日にさらされている。
──白、紫色のノギク、黄色のノゲシ、濃い赤紫の蝶が舞うようなハギ。ススキ、オギ、エノコログサが風になびき、フジバカマ、ナデシコ、オミナエシの可憐な花々が揺れる。オナモミ、ジュズダマ、カラスウリの実がはじける。ヒガンバナ、ワレモコウ、キツネノカミソリはまるで小さな赤い火が灯っているよう。もちろん、老女が珍しいと言って摘んできた青紫のリンドウも凛と咲く。その旺盛なこと、奔放なこと、濃密なこと。そして時折、金緑の糸が、秋の草花の間から幾筋も吹き流れた。
秋の野花が狂い咲く中洲で、魔女は狼狽えていた。わ、な、ひゃ、と足をばたばたと跳ねさせる。九十九人の同胞を殺した魔女には不似合いな可愛らしい悲鳴ではあった。
「なんだいこれは、どうして、花なんか、」
絡みついてきたのか、払い除けるふうに腕を振るい、
「あんたが来てからこの惑星は滅茶苦茶だ!」
未知なるものへの恐怖からか、魔女は怒鳴ってくる。
「私は開拓星の権益を守る
博士にも伝えた生業を伝える。
今、私から眺める河辺は、六割ほど植物で埋められていた。たった半日で急速な成長だった。河辺だけでなく、
「馬鹿なことを、どうして鳥たちを追い返していたと思う、この惑星の命運はもう決まっているんだ、この星は──」
「天体衝突は起きません」
私はさらりと断言した。
〈銀河の最果て〉初代責任者──星語りではレムとした──の観測施設を引き継いだ博士の危惧もそれだったのだろう。見学のため長期滞在を申し出たら、ひどい剣幕で拒否された。隕石か、彗星か、そう遠くない将来起きる大災害に巻き込まないため。
それは、魔女が鳥たちを追い払う行為とも同じ。
連邦政府は知っていて素知らぬふりをしているのだろう。いや、むしろ利用しようとしている。表に出すと都合が悪い〈缶詰〉を溜め込んで一気に片を付けようなんて。
「どうして断言できるんだい、いい加減なことを」
「私がこの星を
寸暇、魔女はこちらを見上げてぽかんとしていた。
その間抜け面を堪能しながら、私は着込んでいた立襟コートのボタンを外す。下はごく普通の開襟シャツで、さらにシャツの第二ボタンまで外す。
多少の距離はあるけれど、明るくなってきたので見えただろう──首から胸元にかけてびっしりと蔓延った、緑色の曼荼羅じみた文様が。
「……寄星虫症?」
そう。寄星虫による毒素への反応であり、とある惑星では『蔓草病』と呼ばれていた。人の場合、一般に若い女性が罹りやすい疾患である。私は生物学上オスではあり、またさして若くもないが、そも範疇の外なのだろう。
蔓草病が発症すると、恵みの雨を降らせ、作物は豊かに実り、子は健やかに生まれ育つ──宿主の人命と引き換えに。直接の因果関係は解明されていないが、症例としてはいくつも挙がっていた。
「あなたはもう鳥を追い払う必要はありません」
微笑んで語り掛ける。良かったですね、という具合に。
愛した鳥の故郷であるかつての〈銀河の最果て〉に渡ってくる同種の鳥たち。いつか起きる天災から引き離すべく、〈星休み〉中も追い払っていた。けれど、もう、天災は起きない。
──だから、安心して。
猟銃を構えて、繚乱の島の真ん中で膝を折った
「・・・・・・あんた、目が赤いね」
銃を向けられているというのに、どこか呑気な指摘だった。肩の荷を下ろせると思われるのは癪だが。
「兄の仇であり、私を殺し、父を欺いた魔女よ」
タンタンタンタン、タンタンタアーン
躊躇いなく引き金を引くと、鳥たちが一斉に羽ばたき、小柄な黒い姿を掻き消す。
弾は十分に用意してあった。逃げ場のない中洲で、鳥という人質もいる。
星のめぐりに委ねるまでもなく、己の手で片をつけるため、引き金を引く。
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