3-6

「どうですかこれ」

 おもむろに僕はパネルを取り出す。そこには、制服を着た飛び切りの美人が映っていた。

「すごい! かわいくて凛々しい」

「デビュー時の栗田町子先生です」

「私もこれは負けを認めざるを得ない」

 将棋の方は、相変わらず栗田さんが猛攻を仕掛けていた。もう、角は切った後である。監督をするにあたり昔の棋譜も並べてみたのだが、惚れ惚れするような攻め将棋だった。

「監督、形勢はどうなんでしょうか」

 棚橋さんは常に落ち着いているが、少しだけ瞬きが多くなっているのに気が付いた。普通にいけば次は出番だから、意識はしているのかもしれない。

「よくはない」

「やっぱり」

「ただ、勢いも大事だからね。この気迫を前に正しく受け続けるのは難しい」

 栗田さんは決して大きな駒音をたてたりするわけではない。けれども、佇まいだけでも圧倒する雰囲気がある。若手にとっては脅威だろう。

「ところで、私も写真を用意しました」

「え、何?」

「こちらです」

 棚橋さんが取り出したのは、僕と福田さんが映ったものだった。以前公開対局で大盤解説をしたときのものだ。聞き手の福田さんが届かないので、上の方の駒を僕が動かしている。

「ちょ、ちょっと棚橋さんっ」

 福田さんが慌てる。

「こちらの写真、ファンの方から大変好評らしくて」

「そういうコーナーじゃないから!」

 じゃあどういうコーナーだったんだ。

 改めて見ると、福田さんはとても楽しそうだ。聞き手ができたことがそんなに嬉しかったんだろうか。

 ちなみに、栗田さんは攻めが切れてしまった。仕方がない、次の棚橋さんに期待である。



 第5戦、見事棚橋さんが勝利した。これでチームネタ将は4勝1敗、あと1勝で勝利である。

「栗田さん、決めてください」

「私? 連投かと思った」

「いえ。ここで栗田さんが勝利することで、このチームは完成します」

「……わかりました」

 おそらく、最も大事な一局になる、と思った。第6戦の対局場に、和服姿のレジェンドが進んでいく。

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