2-5

 すっかり監督業にいそしんでいたが、僕の本業は対局である。フリークラスというところに所属しており、一定の成績を収めないと名人を目指す順位戦に参加できない。そして、ずっと上がれないと引退しなければならなくなる。

 だから、一勝がすごく大事なのだ。

 今日はテレビ棋戦の予選。早指しで、一日で三勝できるチャンスがある。そんなわけで朝から気合を入れていたのだが……

 初戦で負けた。

 ひどい負け方だった。

 知っている。ふざけているときこそ勝たないと、信頼されないということを。

 会館を出て、とぼとぼと歩く。なんか、おなかがすいている。負けたときも頭は使っているのだ。

 いつもは入らないカフェに入り、ランチセットを頼んだ。彩り鮮やかな食事が出てきたが、味なんてわからなかった。

 勝ちてえなあ。

 しみじみと思いながら、コーヒーを飲んだ。



<teamnetashow

一位は和服でした! そんなわけでチームネタ将は和服で戦います>



 アンケートの結果が出て、何とか和服が一位になった。ファンの良識に感謝である。

 一応福田さんに聞いてみたのだが、「そりゃ監督も和服でしょ」とのことだった。どう考えても買えない。そんなわけで僕は……

「塩田会長、お願いできませんか」

 連盟会長、塩田康三郎九段。ダンディなおじさんだが、若いころからイケメンで「テモ三郎」との異名がある。

「ほう、和服を」

「タイトル経験豊富な会長ならば、お持ちかと」

「うむ。確かに。いっぱいある」

「まあ、まだ僕には買えなくてですね」

「いいのかい? 俺にまた借りを作って」

「いやあ……」

 会長にはいつもいろいろなことをさせられるので、今回ぐらいは利用させてもらおうと思ったのに、なんか相手の方が上手だった。

「うそうそ。まあ、君も早く対局で着れる日が来るといいね」

「そうですねえ」

「今度うちに来て選びなさい」

「えっ、会長のうちに?」

「何ならみんなで来なさい」

「えっ、大丈夫ですか?」

「何がだね」

「浮気相手と住んでたりしませんか?」

「俺を何だと思ってるんだ。そんな人間が連盟の会長になれるわけないだろう」

 会長はがっはっはと笑った。本当かなあ。

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