チームネタ将の事前準備
2-1
たまにあることなのだが、目の前に険しい表情をした中五条さんがいる。彼女は福田さんの姉弟子で、福田さんガチ勢でもある。
「どう思う?」
「どうって……」
ここはおしゃれな喫茶店である。美人な女性と二人で来ているのは、一見幸福である。だが、中五条さんは安寧を与えてくれない。
「私、これまでも刃菜子ちゃんのこと、支えてきたつもりよ」
「あー」
そう、今回のドラフトで中五条さんは指名されなかったのだ。若手有望株でドラマなどにも出て人気があり、指名されてもおかしくなかった。ただ、絶対指名すべき、という成績でもない。
だが、中五条さんはおそらく期待していたのだ。事前に本人に頼んでいた可能性すらある。
「棚橋さんじゃなくて、私を指名するべきだったと思わない?」
「それは……たぶん、中五条さんが『ネタ将』の名前の付くチームに入らないよう配慮してくれたのでは?」
「なるほど」
適当なことを言ったら納得されてしまった。中五条さんはネタ将のことをあまり快く思っていない。それにもかかわらず妹弟子や祖父がネタ将になってしまったのである。
「今回はチーム数も6で、少なかったですからね。10チームあれば指名は確実でしたよ」
「そうよね。チーム数の問題よね」
何とか収まりそうである。よかった。
「ふう」
「ところで、他にも聞きたいことがあったんだけど」
「なんでしょうか」
「加島君、最近刃菜子ちゃんとの喋り方、変わったよね」
「え、そ、そうですか?」
「気づかないわけないじゃない」
「まあ、そうですよね……」
さすが、中五条さんには気づかれていた。というか、あからさまに変わったというか、変えられたのだ。
「何かあったの」
「はい。四段になったということで、『棋士を目指す上ではあんたが今度は先輩だから、敬語はおかしいでしょ』って」
「なるほどね」
「それで、あっちが敬語使おうとしたんですけど、あまりにもむずがゆかったのでやめてもらいました」
「聞けてよかった。気になっていたから」
表情が和らいできた。とにかく福田さんの情報を与え続ければこの人は何とかなる気がする。
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