1-7
「兄様、すごいじゃないですか」
パソコンを覗きながら、美鉾が言う。
「まあ、確かに目標は達成したけれど」
チームネタ将の紹介動画は、2万再生を達成した。なかなかの数字である。
「不満なんですか」
「チーム天の川は、5万だぞ」
武藤監督率いるチーム天の川の路線バス旅動画は、驚異の数字をたたき出していた。メンバーの知名度に加え、武藤監督の采配、ロコロの助言や編集などにより、とても完成度の高い一作となっているのである。正直、面白かった。
「兄様、数字は大切ですが、それだけではありません」
「え」
「私がリツイートされなかった時代、そう言って励ましてくれたのは兄様です。ネタ将はまず、見てくれた二万人を笑顔にできたことを誇るべきです」
「おお、いいことを言うなあ」
「あと、本当の勝負はSNSです。動画は本人の実力以上の表現ができるので、言ってみればドーピング状態と言えるでしょう」
「……ん?」
「ネタ将の力が試されるのは、やはりSNS、文字の世界です。そこでどれだけ楽しみ、楽しませられるか。兄様もネタ将として、そこで勝負すべきです」
「いや、僕はネタ将じゃない」
「ネタ将はみんなそう言います」
ちなみに、福田さんには別の不満もあるようだった。
「なんで加島君がいい人みたいになってるの!」
僕がおんぶをして歩いたシーンが大変好評で、そのことがお気に召さないらしい。受話器の向こうで吠えている。
「僕、いい人ですよ」
「私もちやほやされたいー!」
高校生になったものの、まだまだ福田さんは子供っぽいところがある。
「ここからだよ。本当の勝負は、控室だ」
「控室?」
「前回の大会でもそうだけど、控室でのやり取りが一番話題になる。ホワイトボードに仕込まれたネタなんかも喜ばれる。そういうところでセンスが問われるんだ」
「なるほど」
「全部美鉾の受け売りだけど」
「美鉾ちゃんに監督になってもらえばよかった」
なんかそんな気もする。
ただまあ、一応ちゃんと対局に向けた計画も立てている。本番は20秒将棋。さすがに目隠し要素は撤廃された。今度集まって、みんなで練習する予定である。
「美鉾に伝えておきます」
「よろしくね。じゃあまた、練習で」
「うん」
電話を切る。
正直なところ、大会本番も楽しみだった。このチームがどこまで戦えるか。福田さんがどこまで強くなっているのか。優勝候補とも言われているので、監督としてもできるだけのことはしてやりたいと思っている。
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