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「え、はい。というわけで今日は山に来ています」
紹介動画撮影の日。ぼくらは自然の中にいた。
路線バスの旅を企画して散々盛り上がっていたのだが、ロコロに連絡して凍り付いた。「あ、それすでに武藤先生からも相談受けました」と言われたのである。
おのれ武藤。やはりチームネタ将にとって、最大の敵は武藤先生のようだった。
そんなわけで急遽別の企画を考えることになり、「野営王戦」に出たことのある先生に相談したのである。野営王戦はキャンプしながら対局をする企画で、なかなかに好評だった。これをヒントに僕らは、「将棋フィールドワーク」をすることになったのである。
「いまからなにをするの☆」
「はい、今日はフィールドワークをします。地図と磁石だけを頼りに目的地に向かい、チェックポイントを経由します。そこで問題を解いてから次に進む形ですね」
「なるほど☆」
僕もフィールドワークというのは初めてだが、地図を読むのは苦手ではないと自負している。ただ。
「地図ってどっちが北だっけ」
「上ですよ」
「北ってことは太陽が……」
「太陽は少し南側を回るんです」
「そうなのね」
福田さんは年下の棚橋さんにいろいろ教えられている。ひょっとして、勉強が苦手?
「まあ、監督に任せれば大丈夫ね」
「えっ」
それでは企画がつまらないので、一区間ごとに地図係を決めることにした。最初は栗田さんである。
「私、意外と直感だけでも行けちゃうのよ☆」
そんなことを言っていた栗田さんだったが、地図を見る目は真剣だった。そして、第一のポイントまで問題なく到達できた。
「なになに……これは加島君の出番ね」
「えっ。あーっ」
問題は、『詰むんかいな詰まへんのかないな』に載っている長編詰将棋だった。見たことはあるが解けなかった奴である。
「うーん、どうしたものか」
「私が挑戦します」
そう言うと棚橋さんは問題を見つめ、三分後に「解けました」と言った。
「はやっ」
しかも、すらすらと答え始め、正解してしまった。
「すごーい☆」
「福田さん、これはタイトル獲られるね。……いった」
足を蹴られた。
「じゃあ、次のチェックポイント行きましょ☆」
この時点では、「楽しい企画」は問題なく進んでいたのである。
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