第11話 中二病シンドローム

「えー、今日は数学担当の先生がお休みなので、一限目の授業はありません」


 授業が始まったかと思うと、いつもの数学担当の先生ではなく、ぽっちゃりとした先生が教室に入ってきては、そう告げた。

 周りからは「よっしゃぁ!」や「まじかー……」など、様々な感想が飛び交う。


「ですが、少しだけ課題に似た物をやってもらいます」


 先生が言うやいなや、周りから「えー……」と、残念そうな声が聞こえてくる。

 そんなクラスメイトの反応を無視して、先生は話を続けた。


「皆さんはそろそろ、高校生活が一週間を迎えますね。まだ慣れていない人もいると思います。だからこそ、今日はこれをして貰います」


 そう言って、各列の最前列にいる人に紙を渡していく。その際「裏向けたままで後ろに回してください」と言った。

 そして、俺のもとに小さな白紙が回ってくる。


「今から隣の人とペアを作り、ゲームをして貰います。負けた方にはペナルティがあるので、頑張ってください」


 いや先生よ、いきなり過ぎるのではないのか? 周りの皆も困惑してるし、隣の人とペアを作れと……。

 そういえば、俺の隣って藍音だったよな? よかった……本当によかった……。


「知ってる人もいると思いますが、今から皆さんには『NGワード』というゲームをして貰います」


 聞いたことがあるゲーム名だ。ルールは知らないが。


「ルール簡単。まずは、白紙に単語を書きます。お互い、単語が書かれた紙を交換し、紙を自分が見えないように頭の上に乗せて、それを言わないように、他の人のにはその人の頭の上の単語を言わせるように話すといったゲームです」


 なんとご丁寧に分かりやすくルールを教えてくれる先生なんだ。とても助かる。

 要するに、藍音が言いそうな単語を書き、言わせたらいいんだよな? トゥーイージーだ。


「鷹宮が言いそうな単語かー……なんだろう」


 藍音がそう呟くと、ハッと何かをひらめいたかのように表情を変え、何かを書き始める。俺も脳内で藍音が言いそうな単語を探し……発見した。


「黙るのはなしですよ? 私も合コンでこのゲームをしましたが、その時に『黙れば勝てるんじゃ……?』と思い、実践してみたら、そのあとは……うっ」


 そんな先生の体験談を聞いたクラスメイトの皆は、ドッと笑いだした。

 俺もそれをしようと考えてたが、やめておこう。ゲームとして面白くない。


 俺と藍音は単語を書いた紙を交換し、自分からは見えないように頭に持っていく。藍音がフフンと鼻を鳴らし、いかにも余裕そうな表情を作った。


「では皆さん──始めてください」


 それを合図に、周りが話始める。

 皆の頭には「お菓子」や「日本史」、さらには「ざまぁw」などあった。……「ざまぁw」?


「あー……よう七咲」


「くくく……我が眷属よ。己が身分をわきまえるがよい。いつから我と貴君が対等だと思っていた?」


 誰だこいつ。本当に藍音なのか? というか、いかにも魔王の様な立ち振る舞いだな。

 確かにいつもの口調を変えれば、NGワードを言わなくて済む。これは厄介だ。


 ──ならば俺も。


「くっ、俺の〈虚闇滅極眼ダークアイズ〉を直視するな。死にたいのか? 滅びたいのか? ならば消え失せろ」


「鷹宮って、そんなキャラだったんだ。ううん、良いと思うよ?」


「おい、七咲のキャラ設定はどこいった?」


 これでは俺が、痛いやつだと思われてしまうではないか。別にカッコつけたいとかそんなんじゃ……ない、はず。


「コホン──まぁよかろう。貴君に話す権利をくれてやる」


「では、単刀直入いう──お前は雑魚だ」


「ふむ……我を愚弄するか、小僧。我が最終奥義〈死閃光力波フラッシュウェーブ〉を喰らわせてやろう」


「だっさ……七咲のセンスねえな」


「うるさいうるさい! 私だって考えて言ったんだから! 鷹宮よりカッコいいし!」


 俺の方が圧倒的にセンスある。やっぱり、男が一番こういうのを分かっているんだ。別に、俺はそんな中二病じみたことを考えて生きてるわけではないが。


「コホン──お前の技は弱い。俺の〈焉爆三聖征点陣セイクリッドポイント〉を以てすれば、余裕で防ぐことが可能だ」


「残念だったな、小僧。トラップ発動!〈流転輪廻之往昔エンドレスループ〉! 貴様は永遠に死と生の間を彷徨うことになろう」


「な、んだと……?!」


 謎のやり取りに熱が入り、なんとなくでノリに乗ってみる。少し楽しいと思うのは気のせいだろうか?


「闇に飲まれる前に聞こう──貴君の名はなんと申す?」


「……鷹宮蓮斗。元勇者で、闇に惹かれ〈黒蔘淵側ダークサイド〉に落ちた者だ」


「はい鷹宮の負けー! このゲームは私の勝ちー!」


「──?!」


 俺はまさかと思い、頭に持っていってた紙を見る。そこには──「鷹宮」と書かれていた。


「……まじかよ」


「最後に偽名を使ったらよかったのに。──それで私は……」


 藍音は俺が頭にあった紙を自分の目線に持っていき、「あー、これかー」と頷く。


 そこには「あほみや」……と、書かれていた。


「それにしても〈流転輪廻之往昔エンドレスループ〉か……カッコいいな。あの時、すぐに作ったのか?」


「もちろんそうだけど……どうして?」


「いや、なんでもない」


 あんな一瞬でカッコいい技名を考えれるとは……凄いな。藍音にはそういう才能があるのかもしれない。……役に立つ才能かは知らないが。


 周りは終わったのか気になり、見渡してみれば、何故か全員が俺と藍音をガン見していた。先生まで目が釘付けだ。


「あの二人って、そういうキャラだったんだ……」


「鷹宮君はよしとして、七咲さんが……」


「カッコいいじゃねえか……」


 なんか変な印象を持たれてしまった。それより皆、終わるの早すぎないか? そういうものなのか?


「えー……戦いが終わったみたいなので、負けた人には提出期限が明日までの課題をあとで配ります。……〈虚闇滅極眼ダークアイズ〉……くふっ」


 やめてくれ先生、笑うのは。物凄く恥ずかしいから、死ぬから。明日から学校にこれなさそうだわ、これ。


 ──残り時間は雑談タイムとなり、俺と藍音は話に花を咲かせた。



 





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