第4話 昼休みは一緒に

 ──時は巻き戻って現在、4月17日の月曜午後12時40分。


 俺と藍音は席をくっつけ(実際には藍音がくっつけて来たが)、今日も一緒に昼ごはんを食べていた。


 俺の家はあまり裕福とはいえないから、今日も小さな卵サンドイッチ3つだ。


 それに比べ、藍音は大きめな水色のお弁当箱にご飯6割とその他色々な具材4割が詰め込まれていた。


「……今日も卵サンドイッチじゃん」


「お昼はこれだけで十分だ。逆に、それだけの量を昼に食べると……太るぞ?」


「最っ低! 女の子に『太るぞ』とか言う男子は嫌われますよーだ!」


 そうなのか……?俺はただ、注意をしてあげただけなのに、女性からしたら余計なお世話だったりするんだな。


 幼少期から家族以外の異性とは関わりを持ったことが無かったから、嫌われる言動とか全く分からない。


「なんか……ごめんな?」


「謝ったら許されるとは思わないでよね!」


 え……女子ってこんなにも扱いづらい存在なのか?一体、俺にどうしろっていうんだよ。


「じゃあ、どうしたらいいんだ?」


「んー……そうだ! 罰として、鷹宮の卵サンドイッチ一つと、私の卵焼きを二つ交換ね!」


 卵を使った物同士で交換かよ。どうせなら、お弁当の端に添えられているタコさんウインナーが欲しかったんだけど。


「でも俺、箸が無いから掴めないし……」


「私のでよければ、貸してあげよっか? まだ使ってないから大丈夫だよ!」


 どこが大丈夫なんだよ。俺がそれを使った後に、藍音もそれを使って食べることになるんだ。普通に嫌だろ?


 いや、洗えばいいのか?それでも、女子っていうのは繊細かもしれないから、分からないな。


「いや、いいよ。俺はサンドイッチ一つやるから、七咲は何も渡さなくていい」


「駄目! 絶対に交換じゃないと!」


「でもな……」


「はぁ……もういいし!」


 何でため息を吐かれないといけないんだよ。本当に女子って、何を考えているのか分からない。


 今日、家に帰ってから妹にアドバイスを聞いてみるのもありだな。


「そういえば、さっきの相談って何だっけ?」


「あ、そうそう! 次はちゃんと聞いてよね!」


 俺がボーッとしたせいで聞き逃していたが、藍音の相談に乗っていたのだった。


「私……この高校に受かったのは奇跡と言っても過言ではないんだ! 凄いでしょ?」


「……それ、誇れることではないだろ」


 ここは、県内でも高偏差値で有名な高校で、毎年の倍率は群を抜けて高い。


 到底、奇跡で受かるような高校ではないはずだ。


「それで……ね? 最近、中学で習った内容がよく頭から抜け落ちてるの」


「それはヤバいな……」


 中学の内容すら分かっていなかったら、定期テストで赤点を回避するのは、まず無理だろう。


 最悪の場合、進級することも叶わず、中退か違う高校に行くことを余儀なくされる。


「鷹宮って確か、それなりに賢いよね?」


「俺は一度たりとも賢いなんて言ったことは無いが……」


「だって、授業中いつもボーッとして教科書を全く見てないのに、当てられたらすぐに答えるじゃん」


「……俺ってそんなにボーッとしているのか」


 自分では自覚していないが、藍音が言うのならボーッとしているのだろう。


 それより、どうして俺が授業中ボーッとしているのを知っているのだ?隣だから、嫌でも目に映るのだろうか?


「それでさ! 今日から鷹宮の家で勉強を教えてくれない?」


「勉強を教えるのはいいが、どうして俺の家なんだ?」


 勉強するなら図書館や放課後の教室とかあるのに、俺の家じゃないといけない理由でもあるのだろうか?


「いいじゃん別に! そういう細かいところは無視して勉強教えてよ!」


「んー……でもなー……俺の家、狭いしボロいからな」


「家がボロいとか関係ない! 私はただ、鷹宮の家の場所が知りた……じゃなくて、鷹宮の家で勉強したいの!」


「……はぁ、分かった。じゃあ俺の家で決まりな」


 引く気配が全く無かったから承諾してしまったが、本当に俺の家はボロいから見せたくないんだよな。


 しかも、ジュースやお菓子とか家に置いてないし、おもてなしが出来ないのだが。


「やったぁ! 今日は私と一緒に帰れるね。嬉しいでしょ? ほらほら、嬉しいでしょ?」


「あぁ、授業料として5分で1000円払って貰えるなんて、嬉しい限りだ」


「高っ! ボッタクリじゃん! もうちょっと安くしてよ!」


「だったら、帰りにハッシュドポテト奢りな」


 勉強を教えるだけでハッシュドポテトが手に入ると思えば、この機会を逃す訳にはいかない。


「それぐらいなら別にいいけど……もっと他に無いの?」


「ハッシュドポテトこそ至高であり、人々が生み出した形ある奇跡だ。あれ以上に美味しい食べ物は、この世に存在しない」


 俺は、ハッシュドポテトを初めてこの世に生み出した人をリスペクトしている。


 誰だか分からないが、もしその人に会えるのならば、俺を弟子にして下さいと懇願するだろう。


「そこまで好きなんだね……ふーん」


「なんだ? ハッシュドポテトの信奉者しんぽうしゃである俺をバカにするのか? ならば戦争だ、かかってこい」


「バカになんてしてないから! もう……」



 俺は一旦会話を区切るように、残りのサンドイッチを食べ進めていった。




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