第6話 告白
「えっ?」
さすがに唐突な告白だったからか、マスターは首をかしげるのみであった。
「……ゴメンナサイ」
我に返った私はドアノブから手を離すと、顔を赤らめて席に戻る。
「ゴメンナサイ。
私、もう店に来ないって言ったのに、その最後に変な事言っちゃって……」
「いえ」
マスターはカウンター内に引っ込むと、二杯目のモスコミュールを私の目の前に置く。
「あの、もう少ししたら芽衣が」
「じゃあ、何で席に戻ったんですか?」
マスターの問い掛けに、私は返答する事が出来ず、黙り込むのみであった。
「実は言うと僕、その芽衣さんに先日告白されましてね」
私のモスコミュールを飲む様を見つめながら、マスターは淡々とした口調で切り出した。
「その日の芽衣さんは、結構飲んでいました。
で、閉店して僕が後片付けを始めた時、未だ店に残り続けていた芽衣さんは僕に切り出したんです。
『いい加減、気付いて!
アタシ、アンタの事が好きなんだよ!』って。
申し訳ないですけど、僕は断りをいれました。
芽衣さんは確かに魅力的な人ですよ。
けど、僕の好きな人は口数こそ少ないものの、そこのカウンター席の端っこで笑って僕の手料理を食べてくれる人なんです、って言って」
ここまで言うと、マスターはカウンターから身を乗り出して私に顔を近付けた。
そして、柔らかな微笑を浮かばせると、マスターは密やかな声で私の耳元に告げる。
「僕も好きでしたよ、実はサチさんの事が」
マスターの言葉に、私の視界は真っ白となった。
「実は言うと、この半年の間ずっと寂しかったんですよね。
何で、サチさん来なくなったんだろ、って」
「あの、それは……」
「どうせ、芽衣さんに何か言われたんでしょ。
私はマスターの事が好きだから、アンタは店に来ないで、って。
サチさんを連れてきたのは、芽衣さんだっていうのに」
マスターは肩をすくめると、続けて言った。
「というより、サチさんが店に来たい、と思えば芽衣さんに遠慮せず来ればいい話なんです。
僕にしろサチさんしろ誰を好きになるとか自由ですし、止められるモンじゃありません。
会社の一件もそうです。
長い人生、変に我慢をして抱え込んでいたら、ストレスが溜まって結果自分で自分の首を締める事に繋がりかねません。
失敗はあるにせよ、時には一握りの勇気を持って目の前にある崖を飛び越える事も、長い人生には必要だと思うんですよ。
さっきのサチさんの、告白みたいにね」
気恥ずかしくなった私は下を向き、何も言葉を返す事が出来なくなった。
やがて、芽衣が来店してきた。
マスターは着席しようとする芽衣に向かって、「僕、今日からサチさんと付き合う事になりました」と、ハッキリとした語調で告げた。
芽衣は私に向かって舌打ちをすると、着席を取り止め、ドアを叩きつけて店を出ていった。
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