漂流者たち

北京犬(英)

漂流者たち

 俺の人生、ずっと落ちこぼれだった。

学校の成績は悪く、勉強意欲もないまま反抗することが格好良い、なんて言い訳だけで生きて来た。

そんなやつが通うだけで卒業できるような底辺高校を出ても、犯罪者にしかなれない。

顔が良ければホストにでもなれば良いが、あいにく俺は平均ど真ん中の平凡な顔だ。


 だが、そんな俺のようなバカにも唯一光り輝く職業があった。

お笑い芸人。

勉強の出来ないバカでも成功すれば女にもてて贅沢な生活が出来る。

成功者となれる道。

そんな俺と同じ甘い考えの連中が、お笑い養成所という学校へと集まって来ていた。


 そこで気付くんだよ。

バカにはまともなネタも作れないって。

成功するやつらは良い大学を出てたり、元々頭の回転が速いエリートだってことに。

そして、顔は必須。ブサイクは強力な個性であり才能だってことに。


 最近は児童劇団あがりの演技の出来る連中もかなりの人数が来ている。

演技が出来ればコントにリアル感が増す。

そして、お笑い芸人として成功すると俳優への道が開ける。

あいつらは最初からそれを狙って養成所に来ているんだ。


 バカで平均的な顔の俺は、何も出来なかった。

人を笑わす? 蔑まれて笑われることしか出来やしない。


 そんな俺たちに転機が訪れた。

時空の裂け目に養成所のクラスごと落ちてしまったのだ。

所謂クラス転移だと、学のある連中が言っていた。

だが、それはラノベにあるような甘いものではなかった。


 俺たちは異世界召喚された選ばれた者たちではなく、偶然異世界に落ちてしまった漂流者だったからだ。

召喚者は、女神様からチートスキルや異世界基本セットをもらって勇者として活躍する道が約束されている。

だが、俺たち漂流者は、異世界の言葉すらわからずに何のスキルも与えられずに放り出されているのだ。


 俺たちがこの世界に落ちて来たのには理由があった。

ラフ&ピース。この世界に蔓延る魔物を倒すにはお笑いが必要だったのだ。

魔物を倒すには、奴らが知らない感情「笑い」を与えなければならない。

なぜか、そのことが俺たちの頭に浮かんで来た。

おそらくそれは、落ちて来た俺たち漂流者に対する女神様のサービスだったのだろう。


「笑いならば、俺たちの得意分野だ」


 クラスいちの有望株、在学中に賞レースの決勝に出た国立大学出のコンビが張り切る。

その知識と語彙力により、高度な話術の漫才が得意だ。


「俺たちのコントならば、爆笑間違いなしだ」


 有名子役から転進した3人組がコントを披露する。

その演技力によるシチュエーションコントが秀逸なやつらだ。


 だが、彼らは負けた。

この世界の、そもそも魔物には言葉が通じなかったからだ。


「まずい、俺たちの笑いが通じない!」


 その一言でクラス中にパニックが広がった。

そりゃそうだ。俺たちはお笑い芸人ですらない。

ただの養成所の生徒、大多数は一般人に毛が生えた、いや一般人以下の集まりだった。


 慌てたおデブが盛大にすっ転ぶ。

それを見た魔物が思わず噴き出して笑い、そして消滅した。


「リアクション芸だ!

リアクションは世界共通言語だ!

高木に続け!」


 だが、意図したリアクションは、わざとらしくて笑えなかった。

そこにも選ばれた才能が必要だったのだ。

そこに一発ギャグで対抗する男たちが現れた。


「加藤! 志村!」


 その攻撃は暫くは魔物に通じたが、マンネリを迎えてしまった。


「誰かが笑いを纏める必要がある。

そして、緩急がないとギャグが生きないぞ!」


 それは成功パターンのひとつだった。

頭の良い突っ込みが、猛獣のような個性を持つおバカ逸材をコントロールして笑いをとる。

ひとりではドン引きされる強力な個性おバカを生かす黄金パターンだった。


 そして、笑いのための下地を作る役目が必要だ。

失敗を笑うためには、ある程度の成功を見せて緩急をつけるのだ。

その役目を置く3人組はけっこういるようだ。


 その5人は即席だが、才能が相乗効果を産んでひとつの舞台を完成させていた。

俺は感動のあまり彼らを称え、こう呼んだ漂流者たちドリ〇ターズと。

そう、あの伝説のグループが異世界で蘇ったのだ。


 彼らを見て悟った。

俺にはお笑いになるための才能も覚悟も欠けていたようだ。


 俺はひとりではこの世界で生きて行けない。

良い仲間とも出会えていない。

そもそもお笑いになるための覚悟が違いすぎた。

敢えて言おう「だめだこりゃ」と。

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漂流者たち 北京犬(英) @pekipeki0329

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