雲のような君と手を繋ぐ
久遠の語部
序章
後から思えば、その日は朝からおかしかった。周囲の空気はやたらピリピリしていたし、街の見回りをしている警官達も忙しなく動いていた。いつも通り学園に行って、いつも通り他の学生達に絡まれ、いつも通り、つまらない授業にうんざりしながら外を見ていたから気付かなかったけど。昼食を食べて退屈な午後の授業が始まるかと思ったら、先生達が何か別件で手を取られたらしく、休校になった。一緒に帰ろうと声を頻りに掛けてくる学生達を無視して、暇つぶしがてらにお気に入りの場所である灯台に行く。
「……はぁ」
ああ、毎日がつまらない。魔法の鍛錬も日常的に行っているが、どうも一人では限界が来る。だからと言って、絡んでくる他の学生は大した力も無ければ、私という学生に絡むことで評価を上げたいだけだ。そんな学生達だからこそ、絡んでくるくせに魔法でまともに競い合おうなどともしない。だからこそ、私は……乾いていた。
「…………」
結局、これから先も似たような日々を過ごすんだろう。いや、それは当然か。私にはもう、戻る場所なんてないんだから。
「……なーんて、ね」
変にシリアスを気取った所で何の益にもならない。それなら、夕ご飯のことでも考えよう。確か、家にはまだ食材があったはずだけど、スーパーに行ってみよう。何か、手頃な食材があるかもしれないから。
結局、店を冷やかしただけだったものの外を見れば夕焼け空。良い時間になので帰ろうとした時、街を歩く人の少なさからようやく街の異変に気付いた。それと同時に。道端には僅かな血の跡、火薬のような臭い。そして、周囲には銃を構えた集団。
「──!」
反射的に魔法で私を守るように氷の壁を張る……その直後。
──ガガガガガガガガ!!
姿を見せた武装集団が、一斉に私に向かって銃を放ってきた。
「────痛!」
銃は銃でもライフル銃なのか、咄嗟に貼った氷壁が破られた上に一発だけ掠ってしまった。幸い、皮一枚程度の傷だけど、やられっぱなしじゃあいられない。
「吹き飛びなさい!」
視線の先にいる集団に向かって雷を落とせば、彼らは散り散りになって逃げていく。
「全く、何だって言うのよ!」
──全くもう、イライラする。
これで終わるはずがない。この学院都市の外では、魔法使いを気に入らない者が多い。特に学院都市から離れた場所にある首都ではその傾向が強いという。
恐らくあいつらは、現体制を嫌うその誰かはが率いたテロリストなのだろう。
数年ごとではあるが、学院都市を襲撃することが度々あったという。
私がターゲットになったのは仕方ない。先ほど反射的に氷の壁を張ったからだ。あいつらは魔法が使えない一般人ではなく、私のような強い魔法使いをターゲットにしているんだから。
「っ痛!」
油断しないように気を張っていたつもりが、意識していた方向外から響く銃声が響く。腕に少し掠ったらしく焼けるように熱い痛みに耐えながらもう一度雷を落とす。
彼らは感電したのか、反撃の銃声は上がらなくなった。
「……全く、ツイてないわね」
国が私達魔法使いを優遇しているからか、一般人も要職に就こうとした時に露骨に難しさが違うらしい。それを聞いたことがある身としては、多少の反発があるのは理解できる。しかし、彼らのように銃火器を持ち出して襲撃するのはお門違い、と言うものだ。
「……あー、もう」
さっきの襲撃で、お気に入りの服が破けてしまった。新調しないとなぁ。魔法で粗方のことが出来るといっても、無くなってしまった部分の修復なんて私には出来ない。
「……さっさと帰ろう」
そうして歩いていた最中、灼けるような痛みと衝撃がお腹に響く。
「……え?」
まだ、動ける奴がいたのか。そいつの撃った銃弾が私のお腹を射抜いたらしい。
「あ……」
痛みに耐えられず、膝を付いてしまう。誰かが、私の方に近付いているらしい。このまま、死んじゃうのかな。お父さん、お母さん──もうす……
「────」
蜂の巣になって死んじゃうのかと思っていたけど、次の銃声はない。誰かが倒してくれたのだろうか。──あぁ、良かった。
「……あ」
気が抜けたからか、段々と目がぼやけてきた。誰かが歩いてくる……ダメだ、誰かすら分からない。
……だめ、もう意識が、保てない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます