暖かな失敗。あるいは最期の独白。/お題:寒い失敗
今この瞬間、私の意識が浮上した。誕生したと言う方が正しいだろうか。
私を誰かが見つめる。少女だ。何歳なのだろう。わからない。わからないが、白いポンポンがついた薄桃の帽子がよく似合う、愛らしい少女だ。
少女は私を嬉しそうに担ぎ上げると、赤子を抱くかのように、そっとそっと抱きしめて、焦らず走らず意識しながら、それでも結局駆け足になりながら、私を家の中へと招き入れた。
彼女の手に導かれ突然私に訪れた暖かさに、はふ、と汗が噴き出たような気がする。気のせいだろうか。
私の薄い耳に少女が母君に呼びかける声が届く。先程視界の端で捉えた玄関にはそれらしい靴は無かったことを鑑みるに、おそらく母君は外出しているのだろう。同時に、きっと父親も。
眉毛を下げる少女を宥めたかったが、なかなかどうして私の身体は薄く広がることしか出来なかった。
気を切り替えたのか、よし、と大きな声を出すと、少女は食器棚から一枚の白い皿を取り出し私をその上にそっと乗せる。
私が乗るには金箔でもあしらったものが相応しいと思うが、まあ良い。及第点だ。
少女が席について、にこにこと私を見つめてくる。よほど私の姿が気に入ったのだろう。よかろう。もっと私を崇めてもいいんだぞ。
そんな思いを込めてじっと彼女の瞳を見つめ返せば、私の想いが届いたのか、少女はむふー、と鼻を鳴らして、より一層顔を輝かせた。
そうして突然立ち上がり去ってしまったかと思うと、少女はいくつかの人形を手に私の眼前へと舞い戻ってきた。
あまり待たせてくれるな。あまり放置してくれるな。そうは思うが、余力を不満に費やす趣味もなく、彼女の行動を受け入れることにした。
どうやら人形遊びの仲間入りをさせたいらしい。小癪な。私の友人は雪空のみだと決まっている。
……なに?私はうさちゃんだぴょんなど言っていないぞ。妙なアテレコをするのはやめてくれ。
……ああもう、わかった、わかった、いいよ。その人形たちのペット役も果たしてみせよう。
よく見ていろと胸を張ろうとしたところで、ぼろ、と身体が崩れる。
ああ、思っていたより早いな。私が生きるには、どうやらこの部屋は少しばかり暖かったようだ。
そんな顔をしないでくれ、これも経験だ。そう手を差し伸べるのと同時に、いよいよ私の身体は白い皿と同化していった。
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