どのみち俺もごめんだよ/お題:生きている極刑

 21xx年。人類はゾンビウイルスという未知の脅威によって一度は滅びかけ、その後に見事な再生と復興を果たした。

 ゾンビと聞いて眉唾にするものこそ居ないが、あの恐怖を思い出させぬためか、恐怖を伝染させないためか、一般人の間ではその存在すら殆ど語られることはない。

 しかし、この重罪人専用の監獄、並び重罪人に極刑を下すこの一連の施設の中において、それは日常にも近しいものだった。


 この場所では、人類という種族が再び生ける屍への恐怖で支配されぬよう、政府指導のもと、ゾンビへの研究と対策が秘密裏に講じられている。

 その一環として、あるいは単純な極刑として、死を下す代わりに罪人にはゾンビウイルスが投与され、研究対象として使われていた。


 そんな非人道的な行いに顔を顰めながらもデータ収集の手を止めない優秀な新人研究員はぽつりとこぼす。


「ゾンビになることで死ぬとか、俺絶対嫌だな……」


 偶然側にいた先輩の研究員はその言葉には、と笑いを返す。


「安心しろ。ゾンビになっても死ねないさ」

「……え?」


 最早感情の宿っていない目で研究員は続ける。


「研究で分かったことだが、ゾンビウイルスを取り込んだ段階でも、体の腐食が進行して元の肌色が完全に消えても、獲物を求めて徘徊することしかできなくなっても、それでも心臓だけは動いているんだ。痛覚もどうやらあるらしい。脳も…まあ一応データ上は生きてるらしい」

「……どういうことですか、それ」

「あははっ、やっぱ知らないで手伝ってたのか。まあ、なんだ、つまりはだ」


 ───これは死ねない極刑なんだよ。

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