腐らせるものか/お題:腐った超能力

 骨組みが剥き出しになったビルの残骸の上へ上へと逃げ込んで、ようやく一息を吐く。

 頭上の曇天模様を睨みつけて、遠方に目をやれば無数の生ける屍がコンクリートの上を闊歩していた。


 ゾンビパニック。そんなもの、フィクションの中で完結する話だと思っていた。

 それでも世界がこうなってふた月も経った以上、これが現実であると認めざるを得なくて。


 一週間前にどうにか見つけ出した缶パンも、もう間も無くそこをつく。

 己の限界がもう眼前にまで迫っているのだと虚しく突きつけられているようで、腹立たしい。


 ぎゅ、と手に力を込めればパチパチと静電気程度の刺激が走った。

 参ったな。以前よりも明らかに弱くなっている。頼みの電撃の力は、軽く見積もってあと一二発程度で終わるらしい。

 最初にこの超能力を手にした時はコミックの主人公にでもなれた気分で、それはもう有頂天になって使いまくっていたが。

 こんな事態になっては自分の身をその場その場で守り切るのに精一杯で、誰のことも助けられず、守れず、主人公とは程遠い姿ばかり描いてきた。


 ぎしり、ぎしりと、誰かが階段を軋ませる音が微かに聞こえる。

 同時に聴きなれたうめき声も徐々に近付いてきて、いよいよ命の期限を悟る。

 もう走れない。もう超能力も使えない。高いところから飛び降りる勇気も、もうない。


 俺が屍になったら、この力はどうなることやら。完全に腐り切って使い物にならないか、ゾンビの謎の生命力同様に意味もなく無尽蔵に使えてしまうのか。


「っは、くそが……」


 ───この力を誰に向けるくらいならいっそ。

 強烈な衝撃に包まれるようにして、俺は意識を手放した。

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