俺は狙撃手/お題:男の狙撃手

 ───狙撃手<スナイパー>。

 俺という人間を説明するには、その言葉だけで十分だった。


 やれ狙った獲物は逃さない狩人だ。やれ百発百中の名人だ。

 人々は俺の腕前を見るなりそうやって軽い言葉で称賛するが、俺にはただ余計なだけ。

 狙撃手は孤独な生き物だと相場は決まっているのさ。


 今日もまた、俺は獲物めがけて銃を構える。手に乗るずっしりとした重みにごくりと唾を飲み込んだ。

 半年ぶりだが、腕は鈍っていないと確信する。冬の空気にさらされて、悴む手で重たいそれを打ち抜いたあの感触はこの手の中に確かにある。


 ……使ったことのない銃だが、大丈夫だ、焦らなくていい。いつもと何も変わりはしないさ。

 きゃあ、きゃあ、と空間を喧騒が支配するが、それでもやはり、この俺には関係がなかった。関係があってはいけなかった。


 狙うは脳天。薄っぺらいその眉間、一発で打ち抜いてやる。

 ぎ、と指に力を込めれば、パンッと甲高い音が手元から鳴り響く。


 力なく落ちていったそれを見送ると、きゃあ!と悲鳴が湧き上がった。

 ふん。これくらい当然だ。

 そんな思いを込めて、隣で目を輝かせる幼い弟の頭を撫でてやる。


「いやあ、相変わらずお兄ちゃん射的上手いねえ!…なんならお正月の時も新作ゲームとっていかなかったか?」

「いやあそれほどでもぉ。……ま、まあ今日は弟の手前、流石に緊張しましたけど」


 すっかり顔馴染みになったいつものおっちゃんからゲームソフトのケースを受け取って、そのまま流れるように弟に渡す。

 ケースの真ん中に堂々と鎮座する主人公の頭が若干薄汚れているような気がするが、まあそれは、あれだ、代償というやつだ。


「お兄ちゃんすごい!」

「ま、俺は狙撃手だからな!」

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