第25話「メーリの怒り」

「お前らぁ、くそ王国の回し者かぁ!」


 深夜の、古城に響く男の声……

 この地の、領主を見つけようと来たリュウ達ではあるが……

 その領主本人なのか、それとも……

 果たして、一体何者であろうか?

 「リュウ達が王国の回し者!」とか、言っている意味がさっぱり分からない。


 不思議に思い、リュウは問いかける。


「何を言ってる?」


「はあ、てめぇ、俺の言葉が分からないのか? くそ王国から頼まれて来たかって聞いてるんだ」


 またも男は「王国から依頼されたのか?」と繰り返した。

 リュウは、ますます首を傾げてしまう。


「おい、何わけの分からない事言ってんだ? 俺達は王国なんかに頼まれて来てねぇ」


「嘘付けぇ! 王国以外、俺の城を攻める理由のある奴なんか、他には居ねぇ」


 王国以外居ない……

 この城は、王国の領地の筈なのに?

 リュウは、完全にわけが分からなくなってしまった。


 ここで、助力を申し出たのがメーリである。

 当然、リュウへの会話は外部に漏れない念話であった。


『うふふ、パパ、私に任せて』


『え? メーリ』


 驚くリュウを他所に、メーリは闇へ呼び掛ける。

 凛としながらも、凄みのある声である。


「人の道を踏み外し者よっ、私達の前に姿を見せなさいっ!」


「何ぃ!」


 いきなり少女の声が、自分に向けられたと知って、驚く男。

 メーリは更に、きっぱりと言い放つ。


「私達は天より遣わされし者! 無礼は許しませんっ」


 いきなり、メーリは自分達の本当の『身分』をカミングアウトした。

 いろいろと、状況を考えてオープンにしたのだろう。

 

 『神様にデビューしたて』のリュウには、まださすがに、その絶妙なタイミングと微妙な力加減は分からない。


「な、天からだとぉ!」


 リュウ達が天界の者だと聞き、案の定、男は驚いていた。

 相変わらずリュウ達から、男の姿は見えないが、きっとポカンとしているのだろう。

 混乱しているであろう男へ、ルーリは更に畳みかける。


「そうです! 貴方のように姿を見せず、私達と話すなど無礼極まりないです」


「ふ、ふざけるなっ! このガキぃ」


 男が怒鳴ったが、口調は弱々しかった。

 ゾンビがあっさり壊滅させられ、屍食鬼グールも全く歯が立たない。

 リュウ達の、圧倒的な力を感じているからにほかならない。


 相手の心情をしっかり読み取り、メーリは更に言う。


「私達は、ふざけてなどいません。醜くおぞましい人外共を従え、領民へ害を為すお前こそふざけています」


「俺が大事な領民に害を与えているだと? このガキ、馬鹿な事を抜かすなっ」


 男が、訝し気に思う波動が伝わって来た。

 会話が、微妙にかみ合わなくなる。


 だが、メーリは手綱を緩めたりしない。


「そろそろ言葉遣いを改め、姿を見せないと……容赦しませんよ」


「へへへ、容赦しないって、何するってんだよ」


「こうする」


 まるで挑発するような男の物言いに対し、メーリはパチンと指を鳴らす。

 瞬間!

 闇に蠢く屍食鬼グール共が、数十体、いきなり消え去った。

 またも、究極魔法『大地の聖浄』がさく裂したのである。

 それも発動に必要な詠唱も予備動作もなし、メーリは恐るべき魔法の使い手であった。


「くう、このガキアマ! さっきと同じ技をやりやがったな。よくも俺の可愛い従士達をっ!」


「早く姿を現しなさい。次は……貴方を消しますよ」


「う、うぐ!」


 初めて、恐れの波動が男から伝わって来た。

 メーリの口調が、更に厳しくなる。


「さあ!」


「わ、分かったよ」


 徐々に怒りの波動を強めたメーリの促しに、やっと男は応じた。

 屍食鬼グールの群れが左右に大きく分かれ、声の主である男が姿を現したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 姿を現したこの男が、もしも領主なら名前は分かっていた。

 ダヴィド・アングラード……

 身分は、この王国の貴族、騎士爵である。

 

 だが、姿を現した男の出で立ちは微妙であった。

 この闇に溶け込むような、漆黒の法衣ローブをまとい、更に頭巾ドミノで顔を隠しているのだ。


 さて、この謎めいた男と、これから何を、どう進めれば良いのだろうか?

 リュウは途方に暮れてしまった。


 女神ふたりから、今回のミッションのリーダーは、リュウだと言われたが……

 所詮、『親子遊び』の延長である。

 このような場合の『交渉』も、『落としどころ』も、リュウには分からない。


 リュウが自分の判断で物事を進め、勝手に処理して良いのが許されれば、問題なしであろう。

 だが……天界には天界の規範がある筈であり、神であるリュウ達は、率先して守らなくてはならない。


『グンヒルド、ここもメーリに頼んで良いかな?』 


 前世の性癖から……

 『根回し』を気にしたリュウがそう言い、「まずは」と、グンヒルドへ視線を向けると、彼女は笑顔で頷いた。

 「問題ない」という返しであろう。


 グンヒルドの方は全く問題がなさそうなので、この場は、メーリに一任する事にした。


『悪い、メーリ、続いて頼めるかな?』


『了解、パパ』


 メーリは引き続き、交渉とクロージング役も引き受けてくれた。

 新米神のリュウは、メーリが行う全てが勉強となる。

 そんな『注目』の中、メーリが口を開く。


「さて……じゃあ、出て来てくれた事に報いて、こちらから名乗りましょう」


「…………」


 メーリの言葉を聞いても、法衣の男は無反応だ。

 

「私はメーリ、それと彼女はグンヒルド、そして彼はリュウ……3人とも神です」


「…………」


「名乗りなさい! ダヴィド・アングラードっ」


「う、俺を知ってるなら、別に名乗らんでも良いじゃないかよぉ」


 どうやら男は、領主ダヴィド・アングラード騎士爵のようだ。

 メーリに正体を見抜かれ、不貞腐れた声を出した。


 しかし、


「ふざけないで」 


 低くトーンを落とし、静かに言葉を返した、メーリだったが……

 彼女の顔は、今迄にリュウが見た事もないくらい、怖い顔をしていたのである。

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超イケメン魔王と相討ちになった、おっさん勇者は天界で二度目の転生を果たす! 東導 号 @todogo

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