第19話「リスタート」
リュウがゾンビ共の発生源、村の共同墓地を浄化した後……
A級女神であるメーリの指示で、天界特別遊撃隊は、出撃していないルイ隊長を除く、全隊員が平穏と静寂を取り戻した墓地前に集合、整列していた。
メーリの顔は、いつもの愛らしい幼女ではない。
まるで、どこかの軍隊の鬼軍曹といった趣きである。
それもそのはず彼女はルイから、天界特別遊撃隊H・S・W・Pの副隊長を拝命していたのだ。
メーリは何か、ひどく怒っているようだ。
とても厳しい表情を浮かべ、鋭い声で後輩の女神達を呼ぶ。
「スオメタル! グンヒルド!」
「はい……」
「は、はいっ、副隊長!」
呼ばれたふたりは、メーリを新しい役職で呼び、何とか返事をしたものの、力なく俯いていた。
予想通りというか、続いて、メーリから叱責が飛ぶ。
「貴女達、いい加減にしなさいっ」
「わ、悪かったわよ」
「も、申し訳ありません」
さすがに素直に謝る女神ふたり……
「ふたりとも、仕事を全部リュウに丸投げした挙句、自分のみで戦う方が好きなんて、個人の趣味に走っちゃ駄目でしょ」
そんなメーリの叱責に対し、スオメタルが何とか反論を試みる。
「しかし、メーリ様! そもそもルイ部長……じゃなかった、隊長が最初に指示を出したのはリュウとベリアルのふたりじゃないのよ。私達は単なる応援でしょ?」
しかし!
メーリは「キッ」と、スオメタルを見据える。
「黙りなさい、スオメタル」
「は、はい!」
「隊長から出た、次の命令を一緒に聞いていた筈です。全員で協力して事にあたれと」
「はい、それは……仰る通りです……」
「もう! そんな事だから、貴女はいつまでもA級神になれないのよ」
「う! い、痛い所を……」
スオメタルが大袈裟に顔をしかめた所を見ると、彼女は常日頃ランクアップの壁に悩んでいるらしい。
だが、更にメーリの叱責は続く。
「それにスオメタル! 貴女は女神になる前、アールヴの時、自分の美しさを鼻にかけ、非常に高慢だった。その悪癖を神になっても引きずっているなんて……許されませんよ」
「そ、それは違います……そっちは、このスオメタル、反省し、しっかり改善したつもりです」
「へぇ、反省して、改善したつもり……ねぇ」
「ですっ! 絶対に、改善しましたっ!」
「ならば! 私はイケメンだけ好きよ、なんて言い、後輩のリュウを顔恰好で差別してはいけません」
「はぁい……でも、それはあくまで個人的な趣味だから、ちょっと違う気がするけどなぁ……」
「違いません! いくらリュウが、イケメンではない単なるおっさんでも、女神なら、けして差別してはいけないのです」
「…………」
「…………」
言い込められ、黙ってしまったスオメタル。
同じく、メーリにまで「イケメンではないおっさんだ」と駄目押しされ、黙ってしまったリュウ。
リュウの傍らでは……完全回復したベリアルが、必死に笑いをこらえていた。
メーリは次に、グンヒルドへ向き直る。
「そしてグンヒルド!」
「は、はい!」
「貴女も、個人プレーが過ぎます! もっとチームの一員たる自覚を持ちなさい。ルイ隊長の命令には絶対服従です」
「は、はい! メーリ様」
「ふたりとも良い? 隊長と私の命令は絶対服従、そして協調性を持ち、仲間を大切に……良いですね?」
「「はいっ!」」
「では……今後の段取りを説明します。私メーリとグンヒルドはリュウと合流、このままミッションを完遂します。スオメタルはベリアルを連れ、天界へ帰還。暫し彼を訓練場で鍛えるように、能力は勿論、甘っちょろい精神面も全てっ!」
「了解しましたっ、副隊長っ!」
「了解ですっ!」
グンヒルド、リュウが大きな声で返事をした。
続いて、
「……スオメタル、ベリアルを連れて帰還します」
「……ベリアル、了解でっす」
と元気なく返事をしたふたりに向かい、メーリはパチンと指を鳴らした。
すると、スオメタルとベリアルはあっという間に消え失せた。
メーリが神速で転移魔法を使ったのである。
と、その瞬間。
メーリの表情が激変した。
そしてリュウの逞しい腕に手を伸ばすと、思いっきり飛びつき、その小柄な身体をぶらさげたのである。
「わぁい、パパぁ、ぶらんぶらんしてぇ」
「…………」
「…………」
固まってしまったリュウとグンヒルドの見守る中……
リュウの腕にぶら下がって遊ぶ、子供のようなメーリの声が、楽しそうに響いていたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます