第18話「葬送魔法」
天界に新たに生まれた特殊戦隊、Heavenly special wrestling party
通称H・S・W・P、天界特別遊撃隊。
新たに配属された新人ふたり、元おっさん勇者と元魔王が、『初ミッション』として受けた、ゾンビ退治は……
相棒のベリアルがリタイアしたから、本来の担当であるおっさん、リュウひとりで……やれ。
「救援に来た私達の、助力など無しだ」
「そうだ! その通り!」
先輩女神のふたり、グンヒルドとスオメタルから、単独の任務遂行を命じられたリュウは仕方なくというか、理屈に納得して墓地へ向かった。
リュウの行く手には、墓地から湧きだすゾンビが、まるで
女神達が救援に来てから、相当数倒した筈なのに……全然減っていない。
この狭い墓地の埋葬者を遥かに超えた数だから、常識的には考えられない。
どこの魔族か、死霊術師の仕業か、知らないし、分からないが……
やはり墓地が、ろくでもない『異界』へと繋がっているのは間違いないだろう。
発生源を特定し、完全に破壊、浄化しないと、このゾンビ共は止まらないようだ。
「相変わらず、気持ち悪いけど……ま、仕方ねぇっぺか」
リュウが諦めたように呟き、墓地へ入ると、早速ゾンビ共がわらわらと襲って来る。
しかしリュウは、拳一発で、ゾンビを次々と破砕した。
水が入った袋が破れるような音がして、ゾンビ共は次々と斃れた。
暫し経ち、仲間を大量に倒されたゾンビ共は少し下がり、リュウの様子をうかがっていた。
「ふう、ゾンビなんてやはり脆い。本当はもう少し、こういう雑魚をいっぱい倒して経験値稼ぎたいんだがな」
リュウはまた、独り言ちた。
今の状況は一見、ベリアルと一緒に居た時と変わらない。
先ほど窮地に陥った時と同じなのだ。
リュウひとりに対し、ゾンビはざっと100体以上。
多勢に無勢なのである……
しかし、リュウの表情は余裕だ。
所詮、ゾンビはゾンビ。
凄い物理攻撃も、凄まじい魔法も使うわけではない。
やたら数を頼んで、単純に獲物を襲うしか能がない。
ベリアルが言った通り、リュウにとっては、単なる雑魚に過ぎないのだから。
但し、誰かを守りながら戦うというのは、とても大変な事である。
それが、ゾンビを弱点にしている者なら尚更だ。
先ほどは消耗戦になり、窮地へ陥ってしまった。
しかしリュウには最早、ベリアルという『足かせ』はない。
ちなみにゾンビに噛まれると、噛まれた者も同じくゾンビになる……
いわゆる同族化の恐れもあったが、その心配も皆無であった。
何故ならば、ゾンビの爪も牙も勿論、同族化の呪いも、強靭な神となった今のリュウの皮膚は全く受け付けないから。
というわけで、体内魔力さえ切れなければ、リュウはゾンビなど全く平気なのだ。
そうこうしている内に、またもゾンビが襲って来た。
「しつけぇな! あ~、どっせい!」
リュウが無造作に手を振ると、
ぶしゃ!
ぐしゃ!
と柔らかいゾンビの身体が、あっさり破砕される。
だが、ゾンビの数は圧倒的に多い。
リュウの攻撃のペースが間に合わず、遂にゾンビは、リュウに鈴なりとなった。
「がじがじ」とリュウを容赦なく
「もう、仕方ねぇなぁ、3分だけなら噛らせてやらぁ……まあ俺の身体にお前らのやわな歯は通らねぇ、一応カッコだけな」
全身をゾンビにたかられ、気持ち悪いのを我慢しているのもあり、リュウの顔が少し曇った。
おおがかりな魔法は、発動と効果発揮にある程度の時間を要する。
これからリュウが使う葬送魔法も同様だ。
3分と、リュウが言ったのは当該葬送魔法の所要時間なのである。
集中して、言霊を唱えなくてはならないので、その間、リュウは無抵抗。
ゾンビへ、反撃する事が出来ない。
「ええっと……大元の魔法陣はどこだっと……ああ、あった。あそこだ」
リュウが見やったのは、墓地の一画である。
不気味な黒い瘴気が立ち上っており、次々とゾンビが湧き出ていた。
「よっし、じゃあ、早速仕事に取り掛かるとすっぺ」
覚悟を決めたリュウは、体内魔力をあげるべく、集中する。
あっという間に魔力があがり、発動の準備が整う。
独特な言霊が、リュウの口から放たれる。
死者を弔ったり、不浄なる存在の呪いを断ち切る、聖なる魔法と呼ばれる葬送魔法だ。
いわば、天界御用達魔法と言って良い。
リュウが葬送魔法を発動するのを、もしもベリアルが目の当りにしたら、「おっさんには、似合わねぇ」と毒を吐くのは間違いない。
「魂よ、天に還れ! 肉体よ、大地へ還れ!
詠唱が終わり……
リュウの身体が、魔法光により眩く輝く。
遂に、葬送魔法が発動したのだ。
彼にとりついていたゾンビ達があっという間に塵となり、土に戻って行く……
「異界からの邪悪な門よ、閉じろっ!」
葬送魔法、
勇者時代から散々行って来たから、手慣れたものである。
やがて……
リュウから発生した白光は大きく広がり、墓地全体に満ちたのであった。
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