第17話「女神だって喧嘩する」

 主張した意見が劣っていると言われ、大声で文句を言ったスオメタル。

 しかし、グンヒルドもけして負けてはいない。


「良く聞け、スオメタル! 力なくしては全てが机上の空論。何も果たせぬ。力とはそれ自体が正義なのだ」


「ふざけるな、グンヒルド! 魔力と知性、それらに伴う美しい言葉も必要だろうがぁ! お前みたいな女を脳キンというのだ」


 脳キン……

 天界でも、使う名称なのだろうか?


 リュウは思わず笑いそうになった。

 一方指摘を受けたグンヒルドは、何故か、スオメタルから視線をそらした。

 そして、


「無視! ……何も聞こえぬ」


 と、華麗にスルー。

 「スオメタルの主張にも実は納得」……だったらしい……


 グンヒルドの反応は、いつもの『手』のようだ。

 スオメタルは、空中で地団駄を踏んでいる。


「あんだとぉ! グンヒルドぉ、貴様ぁ! 都合が悪くなると、いっつも耳が急に遠くなりおって!」

 

 反撃のタイミングを心得えているのだろう。

 グンヒルドが改めてスオメタルを見据え、声を上げる。


「良いか、スオメタル。力とはな……鍛え抜かれた肉体から生み出される崇高なエネルギーだ。力こそが正義を支え、大望を果たす事が出来るのだ」


「黙れっ、グンヒルド! 魔法を生み出す魔力こそ魂の力。魂とは我々の根幹、崇高なエネルギーならこちらの方だ」


「はははははっ! スオメタル、確かにそれも正論だが、言行不一致にもほどがある、片腹痛いわぁ」


「な、何だと! 言行不一致だぁ?」


「心当たりがあるだろう? 貴女はな、都合の良い時には魂を貴ぶ癖に、普段は男の見かけだけに拘る浅はかな女だ」


 グンヒルドの見事なロジック。

 確かに……

 イケメン好きなスオメタルが、肉体よりも魂の尊さを語るには矛盾がある。


 ぷつん……


 リュウは、何かが切れた音を聞いた気がした。

 もしかしたら、幻聴かもしれないが……


 スオメタルはと見れば……やけになったのか、開き直っている。


「何だとぉ! カッコイイ男は最高だ! 面食いのどこが悪いのだっ!」


 開き直って、大声で叫ぶ、スオメタル。

 が、しかし!


「この! 愚か者っ! 男は顔ではないわっ! 見よ、このリュウを!」


 負けじと、グンヒルドの一喝。

 それも事もあろうか、リュウを引き合いに出していた。

 だがスオメタルは反論する。

 

「はぁ? リュウなど、ただのムサイ男! きわめて不細工な、足の臭いおっさんではないかっ!」


「…………」


 これが、スオメタルの本音……なのだろう。

 だが、先輩女神に反論するわけにはいかない。

 リュウは自然と、無言になってしまった。


 そして意外にも、


「その通り! 私もそう思うっ!」


「…………」


 グンヒルドまでが同意していた。

 それも激しく熱く……

 リュウはもう、完全に何も言えない……


 だがスオメタルは、グンヒルドの同意を聞き、突破口だと思ったらしい。


「グンヒルド、やはりお前も同意見じゃないか! ならば! やはり男は顔だっ」


「だからっ! スオメタル! 貴女は駄目なのだっ!」


 これまた意外な、グンヒルドのリアクション。

 スオメタルは、もうわけが分からなくなってしまったようだ。


「はぁ?」


「スオメタル、貴女は私と共に水晶球で見ていた筈だっ! リュウは仲間を助ける為に自らの命も投げ出そうとしたっ。これぞ、私の大好きなサムライ魂、武士道だっ! 男とは本来こうあるべきだという、素敵な見本ではないかっ」


「くう!」


 あまりにも……

 素晴らしい、『まとめ』であった。

 ここまで言われたら、スオメタルは『とどめ』を刺されたと言って良い。

 

 そろそろ、喧嘩?を終わらせる頃合いであろう。

 そこでリュウは、任務遂行の提案をする。


「まあまあ、おふたりとも、今は敵を倒しましょう。こいつらの発生源である墓場で葬送魔法を使って頂けませんか?」


「ふむ……この猛き戦女神いくさめがみグンヒルドが、葬送魔法を使うのか?」


「偉大なるアールヴの魔法剣士スオメタルへ、葬送魔法を使えと?」


「は、はい!」


 リュウの仲裁で、平和的に、解決したように見えた論争であった。

 が、しかし!


「断る!」


「私も断る」


 これまた、想定外!

 グンヒルドも、スオメタルもきっぱり断って来たのだ。


 驚くリュウ。


「え?」


「リュウ! この馬鹿者! ちまちました地味な葬送魔法など、私はNGだっ!」


「え、NG?」


「このグンヒルドを、まだ理解しておらぬのか? 私はな、こうやって敵と真っ向から派手に戦うのが好きな女なのだ」


「このスオメタルもだっ! こうなったらグンヒルドに負けてはおれん。力と魔法、どちらが数を倒すか、勝負っ!」


「あの……そういう問題じゃあ……」


「「黙れっ」」


 言い掛けたリュウに、ふたりの女神はまたも一喝した。

 そして、


「今回のミッションは、元々お前とベリアルが命じられたもの。男なら自らの力で完遂してみせいっ」と、グンヒルド。


「グンヒルドの言う通りだ。リュウ、良いか? 分かっているだろうが、ベリアルは今日、もう役には立たぬ。ならばお前ひとりで責任を持ち、解決してみるがよい」と、スオメタル。


 最後にふたりの女神から言われた理屈……

 確かに筋は通っている。

 仕方ない、リュウひとりで任務を完遂するしかない。


 だが、このH・S・W・P……天界特別遊撃隊……チームワークは皆無、ゼロだ。


 こんなんで、これからやって行けるのだろうか?


 リュウは「がっくり」し、殊更大きなため息をついていたのであった。

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