第16話「サムライ好き?」
リュウは、救援に駆け付けた女神メーリに回復して貰い、そして励まされ、出撃。
おぞましいゾンビが、わらわらと
助けに来たのは、メーリだけではない。
天界特別遊撃隊の先輩女神、グンヒルドとスオメタルも戦いに参加していた。
嫌になるくらい無尽蔵に湧き出るゾンビに対し、女神グンヒルドは凄まじいパワーで無双していた。
幅広武骨な大型剣で切り刻み、巨大な盾のシールドバッシュで弾き飛ばし、豪快な蹴りを使い粉砕する。
元巨人族の女神だけあって、力で敵を制圧するやり方を徹底しているらしい。
飛び散った腐汁を顔に浴びてもなんのその、グンヒルドは一気にゾンビをなぎ倒すと、駆け付けたリュウに晴れやかな笑顔を見せた。
「はははははっ、さすが、元勇者だ、リュウ!」
「いえ、こんな奴らに力及ばず情けない。助けて頂きありがとうございます」
元勇者と言われたリュウが恐縮して、頭を下げると……
グンヒルドは、手をひらひらと振る。
「なんのこれしき! それよりもお前はやはり気持ちの良い男だ、惚れ直したぞ」
「え?」
「ポカンと致すな、リュウ! 私は、お前に惚れ直したと申しておる!」
真っすぐにリュウを見つめるグンヒルド。
美しいブラウンの瞳がキラキラと光っていた。
これは……マジだ。
リュウは、「どぎまぎ」してしまう。
グンヒルドははっきり言って、リュウの『好み』ではない。
でも彼女ほどの美人に好きになられたら、「嫌いだ!」という男の方が少ないのではないだろうか?
なので、リュウは……
「惚れ……って、い、いや光栄です」
噛みながら、何とか言葉を返したリュウへ、グンヒルドは賛辞を惜しまない。
「うむ! いくら普段はいがみあっていても、大切な仲間を救う為には、自らの命を捨てても良い覚悟を見せるとはっ!」
「い、いえ……そんな大層な事では」
まるで褒め殺しとも思えるグンヒルドの物言い。
遂には、
「いや、リュウ! お前はな、私の好きな、ウエスギと一緒だ」
「へ? ウエスギ?」
いきなり出た、前世の苗字。
一体誰?
リュウは混乱してしまう。
そんなリュウを見て、グンヒルドは不満げに鼻を鳴らす。
「ふん! 知らんのかっ、サムライをっ! 中でも私が好きなのは、名だたるサムライ、ケンシンなのだっ」
「ケンシン、ウエスギって、……ああ、上杉謙信ですか」
「そうだっ! ケンシンは長年争った宿敵にも、塩を送ったそうじゃないか?」
やっと話が見えた。
どうやらグンヒルドは上杉謙信のファンで、例の塩を送った逸話も知っているらしい。
何故、天界の、それも巨人族出身の女神様が上杉謙信のファンなのか?
リュウには全く分からなかったが、ここで詮索しても意味がない。
しかもグンヒルドは、更に熱く語っている。
相当なサムライオタクらしい。
「そうそう、敵とはいえ困ったら手を貸す。義に生き義に死す……サムライは最高だ! うん! 男と生まれたからには、そうあるべきだ」
サムライ好き……なら、リュウも一緒だ。
話も合わせた方が良いだろう。
「ああ、サムライなら、俺も大好きです」
「おお、本当に趣味が合うなっ、それに私の戦果を見よ、戦いとはまさに力! 圧倒的なパワーだなっ!」
「はい!」
と、リュウが大きく頷き、同意したその時。
どっごおおん!
凄まじい爆発音が鳴り響き、リュウとグンヒルドの周囲に居たゾンビ共がバラバラになって飛び散った。
「待て、何が戦いとはパワーだ、戦いとは魔法、そして効率に尽きるのではないか」
いきなり上空から、女の声が降って来た。
この声には聞き覚えがある。
見上げたリュウが、女の名を呼ぶ。
「あ、スオメタル様」
リュウが呼んだ通り、10mほど上空に腕組みをした痩身の女スオメタルが浮いていた。
アールヴ仕様である、萌黄色の革鎧に身を固め、腰から細身のミスリル剣を提げている。
飛翔か、浮遊の魔法を使っているようだ。
スオメタルに持論を否定されたのが、グンヒルドの癇に障ったらしい。
遠回しに、反論したのである。
「おお、スオメタル。魔法などという子供の火遊びは良くないぞ」
いかにも、『とげ』のある言い方であった。
当然スオメタルは怒るというか、むきになる。
隊長である管理神ルイによれば、性格的に正反対のふたりはしょっちゅう口喧嘩しているらしい。
「グンヒルド! な、何が子供の火遊びだっ! それにもっと敬意を払えっ! 私はお前より年上ではないかっ」
「年上? さほど変わらん」
「な!?」
「くだらない! 年上とか、年下とか、そんな表面的な算数より、私は真実を言っている」
「な、何ぃ! 真実だとぉ!」
真実を言っている?
目を丸くしたスオメタルは、空中に浮かんだまま、大声で怒鳴っていたのであった。
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