第11話「初コンビ②」

 神様に転生した、おっさんの元勇者リュウと、イケメンの元魔王ベリアル……

 

 天界において新たに発足した部隊、Heavenly special wrestling party、

 通称H・S・W・P、すなわち『天界特別遊撃隊』に配属され、初コンビを組んだふたりが、初ミッションでゾンビと戦おうとしている。


 時間は、少しさかのぼる……

 

 出発前、リュウとベリアルは、当然ながらミッションの説明を受けた。

 仕事の流れは、以前の後方支援課と、基本的には変わらないという。

 

 そんな切り出しで始まった隊長ルイの説明は、至極簡潔であった。

 シンプルイズベスト、とでもいうような説明だ。


 いわゆる5W1Hである。


 When(いつ)

 ⇒これから、天界をすぐ出発。

 到着次第ミッション開始。

 終了後、速やかに連絡し、帰還。


  Where(どこで)

 ⇒現場は、数多ある下界といわれる人間が住む世界。

 そのうち、第17世界と呼ばれ、リュウが勇者として転生したのと同じ地球の中世西洋風世界。

 更にその世界の中の、小国アイディール王国の更に南方にあるディーノ村。

 依頼者は、そのディーノ村の村長である。

 

 先に神託で神の使徒が行く事を伝えてあるので、この村長と相談する段取りだ。

 ちなみに、村長だけが、リュウ達の正体は天界の神だと知っている。

 他の村民には、村長が雇った冒険者という設定で誤魔化すらしい。


  Who(誰が)

 ⇒C級神リュウ、D級神ベリアル

 以上新人の2神が担当する。


  What(何を)

 ⇒具体的な任務は、ディーノ村に大量発生した不死者アンデッド共を退治し、窮地に陥った村を救う。


  Why(なぜ)

 ⇒何故、不死者が大量発生したのか詳しい理由も調査するように。

 ちなみにだが、現在天界へ入っている情報では、領主が住んでいる城に人外が巣食ったという。

 

 ここで、リュウには疑問があった……

 とても不思議だと感じたのだ。

 世界……いや、宇宙の全てを見通す筈の天界が、何故?

 辺鄙な田舎の村で起こった、事件の原因を把握していないのか謎であり、違和感を覚えたのだ。


 そして、最後に……

 How(どのように)

 ⇒新たに備わった神としての能力とスキルをフルに使う。


 現場までの移動に関しては、天界の出発ゲートなる場所から、魔法陣で送る事となった。

 

 こうして……

 ルイは指令を伝えた最後に、念を押して来た。


「君達は元勇者、元魔王だけど、神へ転生するにあたって、特別な神様仕様にヴァージョンアップした。そこだけは気を付けてねぇ」


 リュウは、ルイの物言いを聞き、少し渋い顔をした。


 何が、特別な神様仕様へヴァージョンアップだ。

 全然マイナーチェンジじゃねぇか!


 入院中に、初めて自分の能力変更を聞いた時、リュウはショックだった。

 

 勇者の時に持っていた、レベル99に達した圧倒的な力は、何故か、極端に抑えられていたのだ。

 ルイには当然理由を聞いた。

 答えは、曖昧なものだった……

 現状のC級神に、相応しい能力だとか理由を付けられ、するっと、かわされたのだ。


 確かに弱点は、『ほぼ無し』にして貰った。

 それはありがたい。

 与えられた『新しい身体』は以前同様、ダメージにめっぽう強く、回復力も凄まじい。

 邪悪な呪い等も、一切受け付けない。


 膂力だって、全く変わらない。

 それどころか、底知れぬパワーが、生まれ変わった身体にみなぎって来る。

 武器も、様々な種類が万能的に使えるし、格闘スキルも健在。


 だが、能力ダウンもあった……

 

 神になったリュウは、楽に発動していた上位魔法が使えなくなってしまった。

 魔王とその配下へ、バンバン使った上位攻撃魔法『爆炎』が使えない。

 究極奥義など、もってのほかである。


 中級レベルの魔法までしか使えないのだ。

 回復魔法も同様で、行使出来るのは中級以下、それ故、酷い怪我は治せない。


 結局……

 今のリュウは使い勝手こそ良いが、それなりの『バランス型』にされてしまったのである。


 さてさて!

 リュウとゾンビの戦いが華々しく開始された。

 実際の、戦いとなったら、いつまでもくよくよしていても仕方がない。

 こんな時の、切り替えの早さが、リュウの長所である。


「とおりゃっ!!」


 鋭い動きで、リュウはダッシュ!

 雄たけびをあげ、襲いかかって来るゾンビへ、拳を思いっきり叩きつけた。

 

 お約束というか、ゾンビの身体は腐り切っている。

 耐久性などほぼない、非常に脆い身体だ。


 ぶちゃっ!


 リュウから繰り出された、強烈な拳の衝撃を受けたゾンビの腐肉が、ミンチのように潰れ、悪臭漂う汁が飛び散るのを見て……

 

 気持ち悪い手応えと共に、リュウはいかにも嫌そうに、顔を思いっきりしかめたのであった。

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