第10話「初コンビ①」

 上司である管理部長、いや隊長となった管理神ルイの、もはや『受け狙い』とも思えるセッティングにより……


 ムサイおっさんで、元勇者のリュウ。

 超イケメンで、元魔王のベリアル。

 対照的な、そして『マングースと蛇』みたいな天敵同士のふたりが……

 天界において新たに発足した部隊、Heavenly special wrestling party、

 通称H・S・W・P、すなわち天界特別遊撃隊の初仕事でコンビを組む事となった。

 

 それも、他のメンバーである個性豊かな先輩女神達は同行しない。

 何と、リュウ達新人神、ふたりだけなのである。


 但し、格でいえば、やはりC級神であるリュウの方が上で、ルイからはチームリーダーを命じられた。

 D級神という最下級の格付けで、新たに出発するベリアルには、当然ながら面白くない。


 現在の出で立ちは、リュウは濃いえんじ色、ベリアルは濃紺の革鎧。

 ちなみに、天界のイメージカラーは白らしい。

 白とは誠実、清廉潔白、全てを清めるという事から、神々のトップ創世神様が定めたらしいのだ。

 なので、天界での制服は、全て白の法衣ローブであった。

 

 だが、下界では逆に目立ち過ぎるので、さすがに白はなし。

 色違いで同型の、地味な革鎧を着せられたふたりは、一見人間風となっていた……

 天界からの転移魔法陣で、今回の目的地の村近くまで送られた上、とぼとぼと歩いている。

 

 周囲は森で、何もない田舎道。

 ふたり以外には、通る者も行き交う者も誰も居ない。

 遠くで鳥が、のんびりと鳴いていた。

 やる事も何もない。

 

 こうなると、やはりというか、ベリアルが、ぼやくぼやく。


「同じ隊には、可愛い女子がたくさん居るってのによぉ……」


「…………」


「何でだよ? よりによって、てめぇみたいな腐れおっさんと、初仕事でコンビ組まなきゃいけないんだよぉ」


 天界で因縁の『再会』を果たしてから、もう何十回、否、何百回聞いたセリフだろうか。

 もう『お約束』なので、リュウも全く同じように返してやる。


「うるせ~、それはこっちのセリフだぜ。そのまま、てめぇに返してやらぁ」


 すると、リュウの反論を待っていたかのように、魔王が呟く。


「ふん、くそじじいが……」


 くそ……じじい?

 おっさんより、酷い……

 こうなるとまた、ふたりの口論は始まってしまう。


「何がじじいだ、魔王! 俺はたった41歳だっちゅうに! じじいとか、500歳のてめぇに言われたかぁねぇ!」


「ふん! 魔族の年齢を、人間に当てはめるな。俺は500歳でもヤングなんだよ」


「ヤング? 何だよ、それ? 俺みたいな、おっさんでも使わねぇぞ。もう死語じゃねぇか? ダサ!」


「うるせ~、じゃあ若者だよ、なら、良いんだろ? このクソおやじ!」


「あ~あ……てめぇは、邪悪な魔王から、折角、清く正しい神様になったのに、相変わらず口が汚ねぇ奴だ」


「口が汚ねぇのは、お互い様だ、おっさん! それに清く正しいじゃない! 俺の場合は、清く正しく、更に美しくが加わるだろっ!」


 と、いうフレンドリーな? 会話が暫し続いた後……

 ふとリュウが、


「でも、ベリアルって言うのか? いまさら感が半端ないけどさ……俺、お前の本名知らなかったよ」


 考えてみれば……リュウは魔王の名前を知らなかった。

 今の口論みたいに、アホとか馬鹿とか、思いっきり罵倒しながら戦っていた気がする。


 ベリアルも同様らしい。


「それはこっちも同じだ、おっさん。何だよ、リュウって、いかにもカッコつけた名前にしやがって」


「仕方がねぇだろ、親が付けた本名なんだからよ……」


 リュウの目が、少しだけ遠くなる……

 もう二度と戻れない世界……前世へ思いを馳せて……


 そんなリュウの切ない気持ちを読んだように、ベリアルの毒舌トーンが下がった。


「ふん、……お前には親が居るのか……」


「まあな、親も家族も生きちゃいるが、二度と会えない」


「どういう事だ?」


 と、ベリアルが続けて聞こうとした時。


「おい! もう無駄話はやめだ、敵が出て来るぞ」


「何!」


 リュウとベリアルの歩く、少し先に墓地があった。

 その墓から、不穏な気配がするのだ。

 

 ちなみに、この世界で埋葬は土葬オンリーである。


 この世界では、本来……遺体にある処置をしないといけない。

 しかし目的地である村の墓地の遺体は、貧困と司祭の不在故、その処置が為されてはいなかった。

 実は、それが今回のミッションにも深いかかわりがあるのだ。


 墓地の中には……

 古ぼけた石で作られた、墓碑が何本も立っていた。

 いきなり!

 墓碑の手前の、柔らかい土がむくむく盛り上がると、泥まみれな一本の手が「ぬおっ」と突き出される。


「うわ! 地上では散々戦ったけど、いつ見ても気持ちわり~。なぁ、お前は平気だろ? 元の手下なんだからよ? なぁ、ベリアル」


「…………」


 リュウは背後のベリアルに呼び掛けたが……

 返事がない。


「おい、ベリアル、どうし……」


 リュウが振り返って、更に呼び掛けると……

 真っ青な顔をしたベリアルが……身体を「びきっ」と強張らせ、固まっていた。

 何故か、微動だにしない。


「何だよ! 元魔王の癖に、元手下が気持ち悪いのか?」


「…………」


 いつもなら、悪態で返事をするベリアルが何も言わない……

 仕方なく、リュウは苦笑すると、首を左右に振った。

 

 そして、大きくため息をつくと、でかい拳を「ぐっ」と握って「ぶわっ」と振った。


「貸しだぞ、馬鹿魔王っ!」


 リュウは大きな声で叫ぶと、出現したゾンビの群れへ、突っ込んでいたのである。

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