第6話「おっさん完全復活」
リュウが異世界で勇者になる前、前世で普通の人間だった頃は、1日が24時間だった。
転生して勇者になった、異世界でもほぼ同じ24時間強であった。
しかし……ここ、天界における時間の流れは、あまりよく分からない。
何故か、この天界も、時間の流れは、あまり変わらないような気がする。
今、リュウが居るのは天界の病院だという……
この病院は、不思議な場所であった。
単なる意識であったリュウの前に、最初は真っ白な空間が広がっていただけなのに……
いつの間にか……
真っ白なベッド、真っ白な床頭台、白い壁、白い窓、白いカーテン……
白に統一された病室に、身体が復活したリュウは寝かされていたのだ。
この天界の病院は、リュウが今迄知る病院とは違い、医師の問診がない。
治療など全く無く、ただ寝ているだけなのである。
唯一、嬉しかったのは可愛い女性看護師が担当になってくれた事。
この看護師が、今リュウが置かれた状況を、改めて教えてくれたのである。
魂の損傷が済むまで休む事。
今得られた新たな肉体は、こうして休んでいる間にも製作進行中だという事等々……
そして、
「私、勇者リュウ様の大ファンなんです。魔王退治の最初から最後まで、天界の水晶球で見てましたっ! 逞しくてカッコイイ勇者のお世話が出来るなんて光栄ですっ」
と言う、その看護師はとても若かった。
名を聞けば、シャルロットと答えてくれる。
天界なので、人間ではない事は確かだが、見た目は10代半ばと思しき美しい少女だった。
鼻筋の通った端麗な顔立ちに、可愛い桜色の唇。
サラサラな栗色の髪を後ろで束ね、形のよい胸を持つスレンダーな体型を、真っ白な絹らしい
いつも爽やかな笑顔を浮かべる、超が付く美少女は……
青春がとうに過ぎ去ったおっさんである、リュウから見れば「眩しいよ!」としか言いようがない。
そんなシャルロットは、遥か昔にリュウが淡い想いを持った、初恋の少女のような趣きがあった。
そして、非常に親馬鹿ではあるが……前世に残したリュウの幼い娘が成長したら……
きっと!
シャルロットみたいに可愛くなる。
そうも思ってしまう。
リュウはさすがに、シャルロットの年齢を聞く勇気はなかったが……
正式の身分は、神々のトップたる創世神の巫女だという。
その巫女シャルロットが毎日来て、爽やかな笑顔で、手を「きゅっ」と握ってくれる。
マッチョが好きらしく、「むきっ」とした二の腕も「そっ」と触って来る。
声優のような、超が付く可愛い声で励ましてもくれる。
ひとりで寝かされていたリュウは、ただそれだけで、心身共に癒される。
不謹慎だが、いつまでも入院していたいと思ったくらいだ。
ちなみに、何故かお腹は空かない。
寝ては起きて、また寝て、時間は過ぎて行った。
そんな単調な日々が続いたが……
しかしリュウが『完全復活』するのには、そんなに時間はかからなかった。
「リュウ様、おめでとうございます!」
いきなりシャルロットに言われ、ある日気が付けば、見慣れた自分の身体が戻っていたのである。
「もう少し休養されれば、リュウ様は完全に復活致しますよ」
「シャルロット、ありがとう!」
「うふふ、万全な状態で復活された、リュウ様の新たなご活躍が、シャルロットはとっても楽しみです」
リュウは嬉しくなる。
自分の娘のような年頃のシャルロットなのに、彼女がとても好ましく思うのだ。
一方、管理神ルイからは新たな身分と仕事が詳しく伝えられていた。
連絡&通達は天界で使われる独特な会話、念話によって行われる。
この『業務連絡』は毎日来ていた。
なので単調な日々でも、優しい巫女の献身もあり、リュウは退屈をしなかったのだ。
これから新たにやる『仕事』も、『勇者時代』同様に、結構ハードな感じである。
「ルイ様……管理神様って、俺をとことん使い倒すつもりなんだな……」
リュウは大きくため息をつき、独り言ちた。
「ええっと、これから俺が配属されるのって、確か……天界、神様連合の後方支援課って部署だっけ……ああ、この年で新人かよ、却って新鮮だ」
リュウは教えられた知識&情報を思い出そうと、改めて記憶を手繰った。
ここは天界。
様々な神様が住まう場所。
トップは全宇宙そのものと言われ、全ての神々を統括する創世神。
そして様々な仕事をする為に、とんでもない数の役所と連なる部署がある。
「まるで人間界と同じじゃね~かよ」
思わず笑ってしまったが……
リュウが配属される後方支援課とは……
創世神の教えに基づき、天界の声を地上の人々へ授けた上で、加護を与える部署だ。
いわばサポート役なのである。
後方支援課が助けるのは、人間族に限らないという。
アールヴ(エルフ)、ドヴェルグ(ドワーフ)などの妖精族も支援対象に含まれる。
面白い事にもし魔族ではあっても、創世神を信仰さえしていれば、業務範疇に含まれるらしい。
本来悪魔を始めとした魔族は神を憎み、呪う種族だ。
しかし改心の機会は永遠にあり、完全に罪をつぐなえば、救われるというのが天界の考え方のようであった。
そして神は……
何と、等級によって、格付けされていた。
リュウに関して言えば……
前世における勇者の前職と能力が高く評価され、C級と格付けされた。
ちなみに創世神は当然だが、ランクなど付けられず遥かに頂上の別格。
一般の神々の最上級はS、全くの新人や初心者レベルはDとなっている。
実際の仕事内容はといえば、過去、現在、未来様々な時間、異界も含めた様々な世界を縦横無尽に行き交い、目一杯働くらしい。
ルイには冗談ぽく脅かされたが、やはり相当な激務のようだ。
「もしも天界が……俺の元居た、ガンガン会社の為に働け、休みなんてなし、あるわけないよ、の……ブラック企業みたいな体質だったら」
リュウは遠い記憶が甦り、「ふっ」と笑う
「また働きづめか? 神様になっても歴史は繰り返すって感じで……笑えるな。でも、勇者になって魔王を倒すくらい頑張ったから……あいつらきっと幸せになったよな?」
遥か遠い世界に居る妻子を思い、リュウが自問自答した時……
気が付けば、いつの間にか傍らに、ルイが立っていた。
「リュウ君、お待たせ。迎えに来たよ。さあ我が後方支援課へ行こうか」
「了解でっす」
ベッドに寝ていたリュウが「バッ」と起き、勢いよく「すっく」と立ち上がる。
魔王との相討ちで、破壊された筈の勇者の肉体……は、もう完全に復活していた。
リュウが力を入れると、「むきっ」と逞しい筋肉が動く。
新しい身体にパワーと魔力がみなぎって行く。
ちなみに装備だけ、新たな革鎧となっていた。
「あはは、どっかのロボットアニメの発進シーンみたいだ。宜しい!」
ルイは満足そうに笑い、「ピン」と指を鳴らす。
天界での移動は基本、転移魔法だ。
ふたりの姿は、『病室』からあっという間に消え失せていたのである。
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