003 厚顔無恥な古株芸能人の性悪弄りに怒る被写体の少女
『虹和ショッピングモール アルカ=ローズガーデン』
「正直いって、ここにフランスの有名ブランド『ストリングス』の支店があるとは、思いませんでした」
私が『ストリングス』の最新モデルの品定めをしながら口にする。
「仕方ないわよ。一応は、有名店の支店がいくつかあるけど、世界的って言えるのは、ここくらいかしらね? まあ、お値段もかなりのものだけどね」
キヨさんは、値札を見て少し引いています。
「触って大丈夫? 弁償なんか出来ないよ?」
怯えているシーさんに私は、苦笑します。
「天夢家と言えば虹和市の名家ですよね? この程度の金額は、大した事ないんじゃないんですか?」
私の所にある報告書が正しければこのメンバーの家で一番資産保有しているのは、天夢になる筈です。
「天夢は、あくまで地主で即金になる資産は、殆どないです。両親も世界中を無駄に飛び回っているので食費だけでも厳しいんです」
シーさんの言葉は、表面上は、両親の無駄使いが原因って捉えられますが、その実は、桁違いの食費が原因だと思われます。
最初の頃のファミレスでの支払いが百万円を超えていますから、その予想は、そう外れていない筈です。
「シーって本当に大食いだからね。そのうち天夢の資産全部食いつぶすんじゃないの?」
冗談半分のキヨさんの言葉にシーさんが手を握りしめて強い意志を籠めて宣言します。
「そうならない為にも色々と頑張ってます」
色々と頑張っているいくつかを知っていますが、『尾具』を使えばいつでも巨万の富を得られるのに、収入の大半が『尾具』を用いないネット受注での形代での作業なのは、尊敬に値するとも思います。
気に入った服を買って、この場で着替えます。
「わー、その額の服をその場で着ますか……」
感心したって顔のキヨさんと違い普段より距離をとるシーさんの行動に苦笑する。
「安心してください。万が一にも汚しても弁償なんて求めませんから。それよりそろそろ時間では?」
私が時計を指さすとキヨさんも頷きます。
「いくら座席予約してあるからって直前に行って慌てるのも嫌だしね」
今日は、ショッピングモール内の映画館に話題の映画を観に来ています。
座席予約が出来る映画館だった為、時間までの時間でショッピングをしていました。
「今回のは、続編だけど大丈夫かな? 続編の奴は、つまらない場合が多いじゃない」
キヨさんの言葉に私も頷きます。
「確かにそれは、言えますね。私としては、前作のお金を懸けていないですが拘りのある演出が気に入っていますが、成功から予算が増えてそういった良さが失われていないと良いのですが」
これから観る映画の話をしながら歩いているとシーさんが私の腕を引っ張ります。
大きな水の音が聞こえてきました。
幸い、シーさんの御蔭で私は、殆ど濡れませんでしたら、私を庇う様に立っていたシーさんの服がびしょびしょでした。
「シーさん、大丈夫ですか!」
駆け寄ろうとする私に対して必死に止めるシーさん。
「その高い服濡らしたらダメ!」
「そんな事は、関係ありません!」
私は、濡れるのも構わずシーさんに近づきます。
「あんた達、何のつもりなの!」
キヨさんが声を追及に対して、私達に対して水風船を投げてきた数人の男性の後ろからボードを持った一人の男性が現れます。
「そんな怒らないでよ! ドックリカメラなんだからさ! 凄くドックリしたでしょ!」
「なんですかそれは?」
男性達を睨む私に対してシーさんが説明してくれます。
「ドッキリとビックリを合わせたテレビの素人相手の悪戯番組の造語です」
「そうそう、君たちのリアクションは、実に良いよ。きっと放送されると思うよ」
男性の言葉に私は、はっきりと答えます。
「テレビなどに興味は、全くございませんからお断りいたします」
私がはっきり言うとキヨさんも続く。
「右に同じ。元々悪趣味で嫌いだったからね。そんな事より人の服を濡らしておいて弁償しないって事は、ないよね?」
そんな私達の態度に男性は、舌打ちをします。
「テーションが下がる。これだから素人は、嫌なんだ。テレビに出してやるんだから少しくらい濡れるぐらいいいだろうによ」
「なんですって!」
私が更に睨むと男性は、頭を掻きながら財布から三千円をとりだす。
「一人千円あればクリーニング代になるだろ。これって経費でおちるよな」
謝罪の言葉も無いその態度に私は、諦めました。
「これ以上、話しても不愉快になるだけです。キヨさん、行きましょう。シーさんを早く着替えさせないといけないですから」
「そうだね。映画は、次の回に予約し直すわ」
キヨさんと共に近くの洋服やにいってシーさんに庇ってくださったお礼として替えの服をプレゼントするのでした。
『私立虹和学園中等部二年の教室 アルカ=ローズガーデン』
「えーあの続編、そんなに酷かったの!」
『瓢箪』の薬種の効果で傷跡一つなく無事回復し、初登校のタルさんが残念そうな顔をします。
「そうそう。ヒロインと舞台を変えただけの完全な前作の焼き直しだったよ」
不満たっぷりに同意するキヨさんに私も続けます。
「前作の見どころだったシーンも大金を掛けただけのCGになっていて興ざめしました」
「うー、次の休みに観にいこうと思ってたのにな」
タルさんがため息を吐きながら何かを思い出したように言います。
「そういえば、アルカさんは、昨日ドックリカメラ見ましたよね? まさか知り合いが出てるとは、思わなかったよ」
キヨさんが不機嫌そうな顔をします。
「あー、ケチの付き始めは、そこかもね。それで誰が出てたの?」
キヨさんの問い掛けにタルさんが不思議そうな顔をします。
「誰って、アルカさんにキヨ。背中が見えてたのは、シーでしょ?」
「それ本当ですか!」
詰め寄るキヨさんにタルさんが頷きます。
「特徴的な三人を見間違えないよ」
私が拳を握りしめる。
「お断りしたつもりだったのですが。日本のテレビ関係者は、こんな事をするんですか?」
キヨさんも嫌そうな顔をしながら言う。
「マスゴミって表現があるくらいだからな」
そんな時、シーさんが教室に入ってきます。
「シー、知ってるか? 昨日のドックリカメラにあたし達が出てたんだって!」
シーさんは、平静を装った顔で言います。
「知ってる。それでなんだけど、アルカさん、次の休み時間、上で内緒話したいんだけど?」
「解りました」
私としては、シーさんとの話ならばこの後のホームルームを欠席してでも優先したいのですが、真面目なシーさんは、無理なので従います。
『私立虹和学園の屋上 アルカ=ローズガーデン』
「どのような要件ですか?」
そう私が問いかけた時、携帯が震えます。
タイミングからして、シーさんが合図を送った形代を使っているソーさんからのメールだと判断し、即座に開きます。
そこには、簡単な経緯とそれを証明するいくつかのアドレスが記述されていました。
確認の為にそのアドレスを辿るとドックリカメラで撮られた私の姿が大反響を呼んでいました。
「魔法結社の構成員としては、あまり喜ばしくない状況ですよね?」
シーさんの指摘ですが、これは、あまりというより決定的に悪い状況です。
「直ぐに火消しを行わないといけませんね」
「今回は、事情が事情だけに食事代って原価だけでソーが処理しても良いそうです」
シーさんからの提案を私は、素直に受ける事にした。
『天夢家 アルカ=ローズガーデン』
少し肌寒い部屋に大量のコンピューターがあり、複数の画面が次々と様々な情報を表示している。
その前に在るのが眼鏡を掛けたドラゴンの縫いぐるみを形代にしたソーさんです。
他のドラゴンの縫いぐるみと違い、長い尻尾が複数存在して、それらを使って高速でキーボードを叩いています。
暫くそんな状況が続いた後、ソーさんが振り返り、部屋のスピーカーから声が聞こえてきます。
『ネットに繋がっている情報は、全部消去しました。繋がっていない物に関しても、繋がる状況になれば消えるウイルスを仕込んであるので問題ありません。残るのは、テレビ局にあるマスターテープだけの筈です』
「今回は、ありがとうございます」
私は、素直に頭を下げます。
『服を買って貰ってますし。それに和牛A5ランクのステーキのオマケつきですから』
今回、ソーさんが使う『尾具』、『双鏡』使用コストに関しては、私の個人資産から支払う事にしたのですが、単純にエネルギー回復だけでは、流石に申し訳ないため、最高級の和牛ステーキ肉も用意しました。
『ステーキが焼き上がった様ですし、食堂に行きましょう』
ソーさんに促され、私は、食堂に向かうとそこには、既に六体の縫いぐるみが食事をし続けていました。
「はーい、ステーキが焼けましたよ!」
本体を使うシーさんが『真剣』を変化させただろう物で九枚のステーキを皿を運んで来ました。
変わる筈のない縫いぐるみの目が光った気がする中、置かれていったステーキを全員で食べ始めます。
私の前にも置かれたので、ナイフとフォークを使って食べて驚きます。
「お弁当を見てましたからある程度の料理が出来るのは、知っていましたが。お店に出せるレベルですね」
「量を作ってますから。否応なく上手くなります」
そう答えたシーさんもニコニコ顔でステーキを口に運んでいます。
ステーキを食べ終えて満足したのかシーさんが話しかけてきます。
「流石にマスターテープをどうこうする事は、出来ませんでしたけどどうしますか?」
「正式に訴えて処分させるつもりです」
私のその答えに、口の周りを拭いていたソーさんの尻尾が私に触れました。
『それは、あまりお勧め出来ない。裁判沙汰になればマスターテープを複製される恐れがある。その上、騒動になれば嫌でも人の記憶に残ってしまう。そうならない為に業界関係者を通じて内々に処理をすませるべきです』
接触心話に少し驚きながらも私が苦笑する。
「流石に、日本の芸能関係となると伝手がありません」
「それだったらあちき達の保護者をしている雨宮(アメミヤ)雀(スズメ)さんが芸能プロダクションをやっているからそこから交渉してみればどうですか?」
シーさんの説明に私が首を傾げます。
「保護者って言いますが。確かご両親は、健在ですよね?」
「お母さん達って今どこに居るんだっけ?」
シーさんの感慨が全く感じられない質問に対して、食堂に設置されたディスプレイに世界地図が表示されて、アメリカのハリウッドの『O』が表示され、そこに向かって『T』の文字が接近を続けている。
「こんな感じでいつも家に居ないのでお母さんの親友の雀さんが保護者代理をしてくれています」
シーさんの説明に私は、あえて深く踏み込むのは、止めました。
「それでは、その雨宮さんへの紹介をお願いします」
『雨に唄えば芸能事務所 アルカ=ローズガーデン』
問題の芸能事務所は、天夢家の敷地にありました。
「いらっしゃい。貴女がアルカちゃんね? 私が雨宮雀。節操無しのおっぱいレズの第一被害者よ」
その自己紹介に流石に答えに戸惑う私の横でシーさんがはっきりと言う。
「そこは、誰も否定しないと思いますから本題から入っていいですか?」
「シーちゃんは、お姉ちゃんに犯されていない? 天夢家の最大の良心である貴女の貞操だけが今の一番の心配事よ」
まだ続ける雨宮さんにシーさんが遠目をします。
「何とか防いでいます。今さっきも、トラップを駆使して部屋に隔離しておきましたから」
「そうそれは、良かった。この後は、仕事で一週間戻れない予定だからゆっくり羽を伸ばしてね」
雨宮さんは、そう笑顔で語る。
「あのー、出来ましたら私の話を……」
私が会話に入り込もうとすると雨宮さんは、表情を変えずにこちらを向きます。
「それで二番目の心配事は、貴女かしらね?」
表情は、変わっていない。
しかし、瞳の光が明らかに変わっている。
「私も『扇子』の継承者でね、透さんからは、色々と聞いているわ」
天夢家の関係者である以上、『尾具』の継承者の可能性を想定しておくべきでした。
「『ローズガーデン』は、決してヤマタノオロチに対して不利益になる行為は、行いません」
そう答える私を暫く観察した後、雨宮さんが頷かれます。
「その言葉、今の所は、信じてあげるわ。話は、ソーちゃんから聞いているわ。ドックリカメラの関係者、それの上の方とは、一応にコネは、あるわ。正直、後ろ姿とは、いえこっちのシーちゃんを勝手に使った件で文句も言いたかったから、一緒に行きますか?」
「同行させて頂ければ幸いです」
私は、そう当たり障りの対応をとります。
『ジフテレビ会議室 アルカ=ローズガーデン』
あの後、とんとん拍子で問題の番組制作している局の会議室で対応を話し合う事になり、私も同席させて頂ける事になりました。
「この度は、申し訳ございませんでした」
番組のプロデューサーが頭を下げてきます。
「解って頂ければそれで良いんです。それでマスターテープの該当部分の処分は、確約して頂けますよね?」
雨宮さんの確認にプロデューサーは、即答する。
「勿論です。今すぐにやらせて頂きます」
そういって会議室を出て行った。
「上手くいったのですか?」
私が確認すると雨宮さんは、出されたコーヒーを口にしながら首を横に振る。
「誤魔化しに入ったわね。放送した番組のマスターテープの処分なんて一プロデューサーが即決出来る訳がないわ。きっとこっちがそこ等辺の知識が無いと思って対処したふりを見せてくるわ」
「雀さんを相手に随分と度胸ありますね?」
シーさんの言葉に私は、戸惑う。
「雨宮さんは、こちらの世界では、それなりの力があると言う事ですか?」
雨宮さんが苦笑する。
「正確に言えば発言力ある大物とのコネがあるのよ。私経由でそっちに文句が行けばプロデューサーがレベルでは、致命傷でしょうね。まあ、これからの対応でどうするかは、決めるわ」
余裕の態度に安心すら覚える中、シーさんが眉を顰める。
「ダミーを作り始めました」
大きなため息を吐く雨宮さん。
「本気で小手先の対処で終わらせるつもりね。どうしましょうかね?」
相手の偽装行動等、シーさん達にすればいくらでも監視ができたのだろう。
暫くしてプロデューサーがあの時の失礼な対応をしてきた男性を連れてやってくる。
「こちらがマスターテープです。誠意の証としてそちらにお渡しします。それとこいつが直接謝りたいと」
差し出されたダミーのマスターテープを受け取りながら雨宮さんが問題の男性を見る。
問題の男性は、その雨宮さんの胸に視線をやっていたが、プロデューサーに肘でつつかれ慌てて頭を下げる。
「本当に申し訳ございませんでした」
シーさんが下に視線を送るので見てみると『真剣』の刃が鏡の様になって頭を下げている男性の顔を映し出していました。
一目で解る謝る気が一切ない、その場鎬の謝罪の顔だった。
「これがドックリカメラスタッフの誠意と思ってよろしいのですね?」
雨宮さんが最終通告を突きつけた。
「はい。これが私達の謝罪の気持ちです」
「よく解りました。それでは、失礼します」
雨宮さんがそれで席を立つので私もそれに追随します。
『ジフテレビ会議室 高田純一』
デカパイのクレーム女が去ったのを確認した。
「これでよかったんでしょ」
俺は、頭を掻きながら言うとプロデューサーは、ニヤリと笑う。
「そうそう、一々クレームなんてまともに取り合ってられないからね」
「だったらどうして? こんあ手間がかかる事をしたんですか?」
態々呼び出されて頭を下げる羽目になった事への不満を向けるとプロデューサーが肩を竦める。
「あの女が『雨に唄えば』プロの社長だからだよ」
「『雨に唄えば』? あまり聞いた事がない弱小プロの社長なんて逆にこっちから威圧してやればいいじゃないですか?」
俺の指摘に対し、プロデューサーは、手を横に振る。
「あそこは、夢宮(ユメミヤ)瞳(ヒトミ)の所属してるから、あんまり無茶が言えないんだよ」
「へーあの瞳ちゃんの所属プロダクションですか。でも瞳ちゃん以外に碌な芸能人が居なかったでしょ? それだったら下手に出る必要は、無かったんじゃないんですか?」
俺の疑問にプロデューサーが苦笑する。
「確かに芸能人自体は、数いないけど、曲作りのカリスマ『AS』との唯一の窓口だ。大物歌手に多くのコネがあるんだよ」
「ASって言えば、この時代にミリオンヒットを連発しているカリスマじゃないですか。どうしてそんな売れっ子がそんな弱小プロを窓口にしてるんですか?」
俺が驚き尋ねるとプロデューサーは、肩を竦める。
「最初は、夢宮瞳だけの曲を作っていたが、彼女を経由で何人かの歌手に楽曲を提供、それでブレイクした。雨に唄えばプロ以外に会ったこともないから引き抜き交渉すら行えないって話だよ」
「囲い込みっすか。でもそれならこっちが騙していたのに気づかれたらヤバくないっすか?」
俺がそう確認するとプロデューサーは、本当のマスターテープを見せて言う。
「さっき言ったろ。ASを引き抜き交渉したい芸能関係者は、いくらでもいる。そっちに雨に唄えばがこのテープを欲しがっているってもっていけばどうなる?」
「プロデューサーも悪代官ですね?」
ニヤリと笑う俺に対してプロデューサーが高笑いをする。
「安心しろ、馬鹿正直にルールを守って何も出来ない連中が多い今、ルール無視してやれるお前は、これからも使ってやるからよ」
「ありがとうございます。これからもついていかせてもらいまーす」
俺は、自分のスタッフを見る目の確かを確信する。
『雨宮雀運転の車 アルカ=ローズガーデン』
「って事を話していたと光学迷彩で隠れて監視していたヤーからの報告です」
シーさんからの伝聞に私は、苛立ちさえ覚えます。
「性根が腐っています」
雨宮さんが微笑みます。
「前から素人相手に訴えられかねない事を何度もしてた奴等だから期待していませんでしたが、ここまでクズだと始末する良心の呵責がなくていいわね」
「誠意の無い相手でしたら、私の魔術で奪い取ってもかまいませんが?」
私の提案に雨宮さんは、含み笑いをする。
「そんな単純な手で終わらせると思ったの? この業界から完全抹消してやるに決まってわ」
私は、思わず視線を向けるとシーさんが視線を逸らす。
「あの人達の会話でもあった様に、今までだって大御所から圧力があったよ。でもね、いまでは、誰も圧力をかけてこない。それが答えだと思って下さい」
これ以上ない答えでした。
『ジフテレビ控室 高田純一』
「今回も素人さんを弄って楽しもうぜ!」
俺の言葉にADがビビる。
「ですが、前回も素人相手にやり過ぎだって、クレームきてたんですよ? 少しマイルドにしては……」
「馬鹿いってるんじゃねえよ! 事前告知済み素人のわざとらしいリアクションで数字がとれるかよ!」
俺は、番組ボードを指で弾く。
「これさえ見せとけば、素人なんてテレビに出られるって、逆に喜ぶんだ。やり過ぎの方がうけるんだよ!」
俺が自信をもってそう断言するとAD達も黙って部屋を出ていく。
「それにしても今回も酷い仕掛けだぜ」
俺は、これからビックリに使う肌色タイツを見る。
「露出狂の噂が出ている場所で、これを履いてコートを広げればモノホンが出たって叫ぶだろうぜ。その上で肌色タイツだって説明して恥ずかしがる所を弄りまくってやるぜ」
これからの計画に俺がニヤニヤしているとドアがノックされた。
「はいはい、勝手に入って」
どうせADが小道具でももってきたのだと適当な対応していたが、入ってきたのは、様々な番組に引っ張りだこでドラマに歌に大活躍の実力派、夢宮瞳ちゃんだった。
「高田さん、おひさしぶりです」
頭を下げてくる瞳ちゃんに俺は、立ち上がり、近づいていく。
「おひさー! 瞳ちゃんもここで撮り?」
「はい。それで高田さんも入ってるって聞いてあいさつに来ました」
笑顔でそういってくる瞳ちゃんに俺が満面の笑みで応える。
「嬉しいね。俺も一流かな?」
「そんな、高田さんは、元から一流……じゃないですか」
一瞬小声になったが肯定してくれる瞳ちゃんに気分がよくなる。
「瞳ちゃんにそう言ってもらえると本当に嬉しいよ」
高笑いをあげる俺の座ってた椅子に瞳ちゃんが持っていた不細工な縫いぐるみを置く。
「以前、あたしがもっていた縫いぐるみが可愛いっていってくれたじゃないですか。その話を妹にしたらぜひ、近くで見てほしいってこの縫いぐるみを預かってきたんですが邪魔ですかね?」
俺は、オーバーリアクションで縫いぐるみを褒める。
「とんでもない! ずっと近くで見てみたかったんだ。本当にありがとう大切にするよ」
「そういってもらえたらあたしも嬉しいです。収録が終わった後に受け取りに来ますのでそれまでお願いします」
瞳ちゃんは、そういって控室を出ていった。
「プレゼントじゃないのか……まあ、元からこんな縫いぐるみを貰っても困るだけだったしな。後で食事に誘うチャンスが出来てかえって良かったかもしれないな」
俺は、そういって適当に縫いぐるみを置いてトイレに向かうのであった。
『人気の少ない路地 高田純一』
「結構寒いんだからとっとと誘導して来いよ」
俺がそうADを焚き付けながら待っていると、合図がかかる。
コートの前を閉じてターゲットの素人が来るのを待っていると、どこか警戒したJKがやってくる。
OLより楽しめそうだと思いながら、隠しカメラにしっかり映る様にコートを広げる。
「俺のビッグマグナムを見ろ!」
後のJKの文句には、シャツのビッグマグナム絵柄の事だとおちょくるのも計画の内だ。
さて今回も楽しませて貰おうぜ。
「キャー変態よ!」
顔を覆って叫ぶJKに俺が更に近づく。
「ほらほら、恥ずかしがらないでもっと俺のビッグマグナムを見てくれよ!」
「近づくな変態!」
視線を逸らしたままバックを振り回して来るが、そんな物を避けるなんて朝飯前だ。
「こんな凄いビッグマグナム見た事ないだろ? もっと顔を近づけてみたらどうだ!」
JKは、ついにしゃがみこみ泣き出してしまう。
「流石にやり過ぎじゃないですか?」
後ろからボードを持って来たADが言ってくるが俺が小声で返す。
「こんくらいやんなきゃ今時数字は、とれねえよ」
そういってボードをJKに見せようとした時、警官が駆け込んで来た。
「そこのお前、公然わいせつ罪で現行犯逮捕だ!」
「ま、待って下さい! これは、テレビ、テレビ番組の撮影なんですよ! ほら観たことありませんかドックリカメラ!」
俺が慌ててボードを見せるが警官は、拘束を解いてくれない。
「撮影だろうが、犯罪は、犯罪だ!」
「違う、ほら俺は、ちゃんと肌色タイツを履いてる! アレを露出なんてしてねえよ!」
俺の主張に対して警官は、呆れたよ言う顔をしてくる。
「どこをどう見てもその履いているタイツは、透けているだろうが?」
「どこってどう見たって……」
俺が下半身を見た時、履いた筈の肌色タイツの色が消えていた。
「な、何かの間違いなんだ! 俺は、確かに肌色タイツを履いていたんだよ!」
「その人、自信たっぷりに『ビックマグナムを見ろって』言ってきてました!」
JKの泣きながらの訴えに俺は、着ていたシャツを見せる。
「それも誤解です。俺が言っていたのは、シャツの絵柄の事で、アレの事を言ってた訳じゃありません!」
「お前のシャツのどこにビッグマグナムが書かれているのだ?」
そういった警官が指さす先を俺は、確認し、言葉を無くす。
「嘘だ! 確かに俺のシャツには、ビッグマグナムが書かれていたんだ!」
「卑猥な横文字が乱舞したシャツのどこにもそんな物は、ない! とにかく事情は、署で聞く。無論、今までの事件との関連性も含めてだ!」
警官がそういって俺をパトカーに押し込もうとする。
「おいAD、お前も弁護しろ!」
俺の言葉に何処かに電話していただろうADが首を横に振った。
「まさか、俺一人に罪を擦り付けるつもりか! Pの指示だな!」
奴ならやりかねない。
「俺一人、しっぽ切りになんてさせないぞ! お前等みんな道連れにしてやるからな!」
俺がそう叫びながら連行されていく。
『ジフテレビ会議室 アルカ=ローズガーデン』
『聞かせて貰えるかしらね、これが何なのか?』
雨宮さんは、前回渡されたダミーテープを番組プロデューサーに見せる。
『それは……』
言葉に詰まるプロデューサーに対して雨宮さんは、笑顔で追及を続ける。
『聞いたわよ、高田純一がドックリカメラの撮影中に公然わいせつで逮捕されたって話。それを踏まえて、ドックリカメラが放送倫理会が再検討される。だからこのテープが必要になるかとジフテレビの担当部署に問い合わせたら、ちゃんとマスターテープは、全部あるって話じゃない。私は、これがマスターテープって聞いていたのだけどどういう事かしらね?』
『色々と事情がありまして……』
言葉に詰まるプロデューサーを笑顔で見続ける雨宮さん。
『申し訳ありません。私も騙されていたのです。私にそのテープを渡した部下がそれをマスターテープだと偽っていたのです』
そう嘘八百を並び立てて頭をさげるプロデューサーに対して雨宮さんは、頷きます。
『そう、貴方も被害者なのね?』
その言葉にプロデューサーが救われたという表情を見せる。
『そうなのです、あのバカが勝手に台本にも無い事をやっていたのを、数字がとれるからと現場スタッフが黙認していたのが原因でして。私の与り知らない事だったのです!』
立て板に水と言わんばかりに自分が被害者で全ての責任を現場の人間に押し付ける言い訳に終始した。
雨宮さんは、途中何度も頷いたりしながら聞き続けた。
だが聞いていたのは、雨宮さんだけじゃない。
眼鏡を掛け、髪を二本の三つ編みにしている体を使っているソーさんが隣接での雨宮さんとプロデューサーとの会話をリアルタイムでこちらの会議室に居た番組スタッフと内部監査室の人に公開していた。
既に番組スタッフの大半が映し出している画面でなく、未だに荒唐無稽な言い訳を続けるプロデューサーの声が漏れてくる壁の方を睨んでいる。
「部外者に無断でマスターテープを供与したのは、社内規定違反になると思いますが?」
ソーさんの問い掛けに怒りを堪えた笑顔で内部監査室の人が答える。
「当然です。例えそれが結果的に偽物だったとしても、立派な懲戒解雇の理由になりますよ」
ソーさんは、テレビ局から借りた端末を返却し、頭を下げる。
「記録等は、とっていません。隣に仕込んである隠し撮りの機器につきましては、そちらで回収してください。それでは、部外者は、退散させて頂きます」
「この度は、本当にご迷惑をおかけしました。問題のマスターテープに関しましては、上層部に掛け合い、出演者の了承がとれていない部分に関しましては、完全な形での破棄を行った上でその詳細をご報告させて頂きます」
内部監査室の人の謝罪を受けて私達は、会議室を後にした。
『雨宮雀運転の車 アルカ=ローズガーデン』
「これであのプロデューサーは、業界から完全に抹消されるわ」
笑顔でハンドルを握る雨宮さんを他所に携帯回線を繋ぎノートパソコンを弄り続けるソーさんが言う。
「今まで被害にあっていた人達にもあの二人がどんな目に罰を受けるのか伝わる様にしておきます」
「それにしても『尾具』には、『糸巻』なんてあるのですね」
私は、私の膝の上にあるソーさんの縫いぐるみと同じように複数の尻尾をもち、その先に糸巻を付けたイーさんの形代を見る。
「イーの『糸巻』は、触れたものを糸状に巻き込み、自由に動かすって一見すると地味な能力だけど、応用性が高い。今回は、番組で用意した肌色タイツとシャツを巻き込み、一度糸に戻してから元の形に復元、タイミングを見て、肌色タイツは、透明に見えるように細工、シャツの柄を変化させただけですからこの間の食事のあまりの力で十分間に合いました」
ソーさんの説明に私が身震いをする。
「確かに神霊を自在に操ったり、なんでも切ったりと違って地味の様に見えますが、その実、人の手では、絶対に生み出せない物を作り出せる権能ですね」
「そうそう、他にも核爆弾を糸状にして運搬、目的地にて編み直す事だって可能なのよ」
雨宮さんが物凄い物騒な例えを口にしてきます。
ヤマタノオロチの『尾具』は、どれ一つとっても人類とっては、桁違いに物騒な事を再認識しました。
「一つだけ、あの襲われた女子高生だけには、申し訳ない事をしました」
私の内省を聞いて雨宮さんが笑い出します。
「まだまだ現役JKでも通りそうね」
「どういう意味ですか?」
私が聞き返すとソーさんが言います。
「あれ、今撮影中のドラマでの女子高校生の衣装って聞いてる」
「女子高校生の衣装って、まさかあの女子高生って!」
私が驚きの声をあげると雨宮さんが信号で止まった所で笑い過ぎで零れた涙をぬぐいながら答える。
「予想通り、我が雨に唄えばプロが誇る夢宮瞳ことソーちゃん達のぶっ壊れシスコン姉、天夢一恵が激ラブな妹に水をぶっかけた奴を陥れるんだって自主的にやってくれました」
なんともいえない気分になる私でした。
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