第17話 撃ち落とした日

 パワーアーマーの放った弾丸が爆発し、あたりは煙に包まれた。


「リンハイ!! キリナちゃん!!」


 俺は叫び近づこうとする、がそれをパワーアーマーは許してくれない。


『無駄な足掻きをするからだ黒スーツ!! おとなしく俺に殺されていれば、お仲間に恨まれずに済んだのによ!!』


 ギャハハと下卑た笑いを俺に浴びせながら、左腕の銃口を次のターゲットである俺に向けてくる。同時にパワーアーマーの背中から大量の空気が排出された。


「クソッ!!!」


 俺はせめてもの抵抗で、パワーアーマーに向かって銃を乱射する。が、やはりダメージが通っている様子は全くなくビクともしていない。


『無駄無駄ァ! アーマー値が伊達じゃねえんだよコッチは!』


 どうすればいい。


 リンハイとキリナちゃんがやられた今、俺にできることは逃走することだけだ。しかし砲撃がまたすぐにできるならば、逃げようとしたところで背中から撃たれて終わりだ。

 俺は戦意を喪失していた。

 もう守る者もいないなら死んでもいいのではないだろうか?

 そうだそれがいい。

 次の砲撃を受けて、またはコイツのパンチを受けて、死亡しよう。


 俺は次の攻撃を受け入れることにした。


『あ? 潔いな』

「ああ。もう守る人もいない。俺が頑張る理由はないからな」

『じゃあ死ね。最後までイラつく奴だ』


 パワーアーマーの銃口が俺の眼前に向けられる。

 カチリという機械音が鳴り響き、次の瞬間に俺は吹き飛ばされるであろうと予想できた。

 その瞬間。


「【鎧通し】!!」


 ガキィン!という金属音と、生重い音が鳴り響く。


『んだァ!?』


 同時にパワーアーマーの中から、悲痛の声が漏れ出した。

 男が前によろめく。

 その背後に立っていたのは……リンハイだった。


「辛気臭い顔すんなよ。アキ君」

「リ、リンハイ……!」


 さらに後方で俺に向かって、キリナちゃんがピースサインを掲げていた。


「やりきりました!!」

「ふ、二人とも……なんで!」


 死んだはず……と言葉が出る前に、リンハイの明るい声がさえぎった。


「ラッキーな事に、死にぞこなったよん。キリナちゃんのおかげでね」

『馬鹿な!!』


 リンハイの声に困惑の叫びをあげたのは、パワーアーマーだった。


『確実に砲撃で死んだはずだ! 撃つ前にお前は倒れていたし、そっちの小娘だけじゃどうにもならなかったはずだ!』


 ヒステリックじみた焦りと怒りが混じった声でパワーアーマーはうろたえた。

 癪な話だが、俺もこのパワーアーマーと同じ意見だった。あの状況下から、どうやって生き延びたのか本当にわからなかった。

 その問に答えを返したのはキリナちゃんだった。


「砲弾、打ち落とさせていただきました!」

『は?』

「え?」

「だから、着弾する前にこれで撃って爆発させたんです!」


 キリナちゃんはアサルトライフルを持ち上げてみせた。

 ……そんなことできるのか?

 いや、実際できたと言っているのだからできたのだろう。今日ゲームをはじめたばかりの初心者であるキリナちゃんが、高速で発射させる砲弾をあの銃で打ち落としたのだ。


「……ははは、マジか」


 俺からは乾いた笑いが出た。

 仮にできると思っても、それを実行に移す胆力はすさまじい。普通の人間なら迫りくる砲弾から逃げようとするはずだ。しかしそうせずに、砲弾に向き直り、立ち向かい、そして打ち勝った。


『ありえない……そんな馬鹿な……』


 パワーアーマーが放心した様子でそういった。


「さてアキ君。決着をつけようか」


 気が付けば隣に立っていたリンハイに手を差し伸べられる。


「決着……勝てるのか?」


 そういえばさっきパワーアーマーから攻撃が通ったかのような声が漏れ出したのをおもいだした。あれはリンハイのスキル【鎧通し】が発動した直後だった。


「さっきのスキルか?」

「うん。でもそれだけじゃ決定打にはならない」


 俺はリンハイの手を取る。


「だからもう一回手伝って、相棒」

「……わかった。全力でやろう、相棒」


 最終決戦が幕を開けた。

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