第13話 ツイてる日
俺は全身についた埃をはらいながら、足を速める。
リンハイとキリナちゃんはどうなっただろうか。リンハイは負けることなんてないだろうが、キリナちゃんはとにかく心配だ。
それにPKが言っていた「個人配信者を徹底的にボコる」という言葉も気になる。
もしかしたら今回の襲撃は、気分屋のPKが単独で動いたわけではなく、誰かの思惑が介入しているのかもしれない……。
だが、それを考えるのは後だ。
「はぁ……なんとかなった……」
PKからの攻撃を受けたあの時。爆弾が目の前で爆発する寸前で、俺は映画のワンシーンを思い出していた。
主人公の男が、着ていたコートを爆弾と自分の間に投げこみ、破片の威力を殺しながら爆風と一緒の方向に跳び……難を逃れるという現実にできるかどうかわからない気の狂ったシーンだった。
現実世界でそんなことができるかはわからないが、俺には【回避】のスキルがあった。【回避】のスキルはなんらかの攻撃を回避する際に身体が素早く動くというもので、これを利用して件の映画のワンシーンを再現してみたのだ。
結果は多少のダメージこそ負ったものの死亡を免れる事に成功したのだった。
まさかできるとは思わなかった。だが、チャレンジしてみて正解だった。
「ゲーム作った人も、あの映画見てたのかもな……」
ともかく俺は無事生き延びることができ、PKの一人を退治することができた。
となると、すぐにリンハイかキリナちゃんに加勢しに行くべき……だが、どうやらリンハイのほうはカタがついていたようだ。
戦いが起こっているであろう破壊音がする方向に走っていると、物陰からリンハイが飛び出してきたのだ。しかもほぼ無傷でだ。
「リンハイ、そっちは終わったのか?」
俺がわかりきった質問をすると、リンハイはピースサインを俺に向けながら言った。
「あたぼうよ。アキ君も、やれたみたいだね」
「ギリギリだったけどな。運がよかった」
実際、転んだ俺に対して爆発物だけではなく、追い打ちでアサルトライフルを撃たれていたら俺は確実に死んでいた。
それをしなかったのは相手が間抜けだったのか、俺の運がよかったのか……解釈が分かれるところだが、まぁ運がよかったという事にしておく。
「あはは、運も実力のうちだよ」
「イマイチ信じ切れない言葉だよ、それ」
こうしてリンハイと軽口をたたきあえると、なんとなく安心する。さっきまでひりついた戦いをしていた分、心が休まる感じがした。
だが、休まってばかりではいられない。
今この時も、キリナちゃんがパワーアーマーをひきつけてくれているはずだから。
「まだ音がするってことは、キリナちゃんは無事みたいだね」
リンハイが付け加える。
確かに、倉庫に鳴り響く破壊音は未だにやまない。それどころか、音の間隔が短くなっているような気がする。
「急ごう!」
俺の言葉にリンハイもうなずく。
コンテナの角を曲がると、そこには滅茶苦茶に物が散らばった空間が広がっていた。
空間の真ん中に立っているのは巨大なパワーアーマー。そしてそれに対峙するようにキリナちゃんがアサルトライフルを構えて立っていた。
『しつけえなぁ!!もう!!』
パワーアーマーの男が叫び、巨大な腕をキリナちゃん目掛けて振り下ろす。だがその攻撃を、キリナちゃんは間一髪のところで避けた。よく見るとその全身はボロボロになっており、目立った外傷はなさそうには見えるが、かなりのダメージを負っていることが見て取れる。
「キリナちゃん!」
俺とリンハイは急いでキリナちゃんに駆け寄り、パワーアーマーとの間に入る。
リンハイは刀を抜刀しており、俺も二丁の拳銃を構えた。
『な、お前ら……! パイオツとヤクラは!?』
パワーアーマーの男が俺達を見て困惑する。出てきた名詞はおそらく俺とリンハイが倒したPK達の名前だろう。
「倒したよー。手ごたえなかったねー」
リンハイがふふんと鼻をならし答える。
その態度に、キリナちゃんが嬉しそうに言った。
「お二人とも、無事でよかったです!」
「キリナちゃんも無事でよかった! ひどいことされなかった!?」
俺はキリナちゃんに駆け寄って状態を確認しようとするが、リンハイに首根っこをつかまれてしまう。何するんだ!と言い返そうとしたが、今の状況を思い出し納得する。
そんなことしている場合じゃない、このパワーアーマーを倒し切らなければ、俺達には安全はないのだ。
「さてと、じゃあパワーアーマーの解体ショーといきますか」
リンハイが意気込む。
だが、簡単に事は進まないのだ。
パワーアーマーは現状このゲーム中最強の装備と言われている。
その理由は、搭乗者を完全に覆い隠す超強力なアーマー値を兼ね備えた装甲と、標準装備の高火力武器、更に通常プレイヤーでは出せない腕力や脚力といった身体能力、そのすべてを同時に備えているからだ。
しかも銃や刀と違って、搭乗者には難しい知識が要求されない。パワーアーマーを入手し装備しただけで、周囲のプレイヤーと一線を画す能力を手にすることができるのだ。
まさに公式チートであり、早急な弱体化が希望されている悪魔の装備なのである。
「で、どうするリンハイ」
俺はリンハイに小声で耳打ちする。俺達はパワーアーマーと戦ったことはないし、弱点もしらない。どう戦えばいいか、正直見当もつかない。
「ひとまず打ち込んでみよう」
「無茶じゃないか?」
「大丈夫だって。キリナちゃんがまだ無事なのがその証明」
「……なるほど」
俺とリンハイがPKを片付けている間、ずっとパワーアーマーと対峙していたキリナちゃんはダメージを負ってこそいるが死亡していない。彼女は初心者で、射撃能力こそあるが銃弾を避けたり相手の出方を読んだりといった技術は使えない。
にもかかわらずまだ死亡していないということは、このパワーアーマーの男がわざと手を抜いて戦っていたか、キリナちゃんに致命傷を与えたくても与えられなかったかのどちらかなのである。
「手ェ抜いてたら“しつけえな!”なんて言葉つかわないって」
「……舐めプならもっと余裕があるだろうな」
この男は俺達が到着した時、怒りながら声を荒げていた。
手を抜くほどの余裕がある男が、果たして怒り声をあげたりするだろうか。楽しむことはあっても、不快感をあらわにすることはないはずだ。
つまり、舐めプではないのだと推察できる。
考えに至った俺とリンハイは、互いを見合ってうなずきあうと、パワーアーマーに向かって走り出した。
俺は左腕側、リンハイは右腕側に分かれて左右から攻撃をする算段だ。
『まぁいい。人数有利とられたところで、俺の優位性はかわらねえ……』
そういいながらパワーアーマーの右腕があがり、走っている俺目掛けて振り下ろされた。
巨大な拳が迫りくる。当たれば、その質量からして確実に死ぬだろうということが見てうかがえる。
……が。
「おそいな!」
余裕で回避ができた。
パワーアーマーの動きはびっくりするほど緩慢で、その攻撃は先の銃弾や爆発の回避とくらべると止まっているかのようだった。
俺は攻撃を開始して、即座に二丁拳銃でパワーアーマーに攻撃をする。狙う場所はひとまず胴体だ。
『んー? なにかしたかぁ!?』
だが銃弾はその強固な胴体にはじかれてしまう。どころか、傷もついていないように見えた。システム的には間違いなくノーダメージだろう。
「硬すぎるだろ!」
俺は次の攻撃に備えて回避の準備姿勢を取る。
一方でリンハイも刀でおもいっきりパワーアーマーの右腕に斬りかかっていた。だが、その攻撃もダメージを与えるまでに至れていないようだった。
「硬ッ!!」
『ハハ、ハハハハ!! 黒スーツ共の攻撃もはじける!! 最強だ!!』
その結果を確認してから、パワーアーマーは高らかに笑い始めた。ご丁寧に左手を額である部分に当てながら。人間のような振る舞いで。
つまり現状はこうだ。
攻撃は避けれるが……こちらの攻撃も一切通らない。
「さぁ……どうしようかな……」
俺が悩んでいると、リンハイがにっこり笑い、そして高らかに宣言した。
「よし! 決めた! アキ君! キリナちゃん!」
俺とキリナちゃんがリンハイに向き直ると、リンハイは今から実行する計画についてたった一行で説明した。
「逃げる!!!」
「え?」
「お?」
計画は素晴らしくシンプルだった。
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