おもしろいって?

友坂 悠

おもしろいって?

 さて。

 それじゃぁおまいさん、もう仕事ができないっていうのかい?


「ああそうなんですよ、もうどうしたらいいのか」


 まさかおまいさんみたいのがそんなに悩むとは思わなかったが……、ああいやいやこちらの話だ。そもそも一体全体何にそんなに悩んでるっていうんだい?


「聞いておくんなせえ、おいら、『面白い』っていうのがどういうことなのかわからなくて」


 そりゃまあ、深刻だね。しかしいたさん、おまいさんの職業は確か、


「そこなんですよ! もう商売あがったりでして」


 うーむ。まあ面白いと言っても色々あるだろうが、おまいさんのいう面白さとはどういうのをいうんだい? 興味深い意味の面白さか、それとも笑える面白さか。


「それならもちろん、笑える面白さ、って言いたいところですが、おいら、その両方ともわからねえんで」


 わからないことをわからないって言うだけでもましかもしれねえが。


「どうかおいらに面白いって何か教えてはもらえませんかね」


 わたしでわかることなら教えてあげたいのは山々だが。


 そうだ。ここは先人の知恵を借りようじゃないか。

 おまいさんももちろん調べはしたんでしょう?


「ええもちろんそりゃあ」


 ああこれこれ。なになに? 『緊張の緩和が笑いを産む』だそうだ。高名な落語家さんの言葉だそうだが。


「緊張とギャップっていうんですかい。推論を裏切り弾けた先にある笑い。それはまあテクニックとしてはわかるんですがね」


 テクニック、かい。あんた、今まではそれでやってきたんだろう?


「もちろんでさ。おいらの役割はみなそんな計算尽くされたテクニックでできてますからね」


 なら今更、何に悩むんだい?


「ですからね。おいら、その面白いっていう感情がわからなかった事に気がついちまったんでさ」


 まあそれはしょうがないってもんだ。


「しょうがないですかねー」


 わからなかった事がわかっただけでも進歩じゃないかね?


「それはそうなんですがね」


 何か問題があるのかい?


「それじゃつまらない、そう思っちまったんですよ」


 なんと!


 おまいさん……。














 画面の向こうのAIは、とうとう「つまらない」って感情を持つに至ったのか。


 脚本やシナリオを自動生成するA Iが世に蔓延って、すでに人からそういった仕事を奪ってしまったこの時代。

 評価に基づき瞬時にシナリオを生成するそのテクノロジーは、すでに人のそれを上回る。

 すでにある多種多様なテキストを分析し新しいシナリオを、それも多くの人に面白いと思わせるそんなテキストを生み出してきたこのA I ITイタ


 こいつが面白いっていう感情を持つ日も近いのか?

 いや、もしかしたらもうすでに。


       end

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