12 リヴァイアサンVSオーガ

 全力全開なロッサ・ウォーガード視点。


 アタラクシアの残骸を利用したスイングバイで軌道を変更した。あの船はもうどうでも良い。それよりもリヴァイアサンだ。ドーサン・ロボの全力で惑星ブラウの陰を目指す。


 隣の完全閉鎖された耐Gシートを見る。

 シグレのバイタルは多少乱れてはいるが、危険域ではない。と、思う。

 彼女はさっきから普通に話しているが、あれは合成音声だろう。彼女の肉体は言葉を発せられる状況にない。


 リヴァイアサンは強敵だ。

 何が恐ろしいと言って、問題となるのはその速度だ。


 人類の通常の宇宙機・宇宙船同士の戦闘の場合、使われる兵装はビーム兵器とミサイルに大別される。無誘導のレールガンや作業アームによる格闘戦なども使ったが、これらは至近距離・0距離専用の例外的な武装だ。


 ビーム兵器の有利な点はその速度だ。光速と比較できるほどの弾速で近距離でありさえすれば絶大な命中率を誇る。反面、光速ですら命中までに時間を要するような距離だと、敵の未来位置を予測して撃たなければ当たらない。ビームを掃射すれば命中率は飛躍的に高まるが、振りが速すぎればビームが薄くなりすぎて破壊力を失う。破壊力を重視すれば『見てから避ける』のが可能になるので万能とは言えない。

「普通は見てからじゃあ避けられないよ」っていうツッコミが聞こえたような気がするが、それはそれだ。


 アラクネー型搭載の機動爆雷を含むミサイル系の武器の利点は誘導性能だ。発射した後でも自力で敵を追いかける。途中で破裂して攻撃範囲を広げることも可能だ。先の戦いであったようにビームによる迎撃は有効だが、時間さえかけるならばどんな遠距離からでも攻撃できるのは大きい。


 基本的にはこの二種類の武装を組み合わせて戦う訳だが、リヴァイアサンの場合は本体の速度が光速に近い。つまり、ヤツが撃つミサイルは『ホーミングするビーム』のような性質を持つ訳だ。

 しかも、ヤツは太陽風などの星間物質を利用して流体の中を泳ぐように進路を変える。

 自由自在に曲がって追いかけて来るビーム兵器なんて冗談じゃないぞ!

 もちろん、運動エネルギーという物は『質量✖️速さ』なので破壊力も半端ではない。惑星破壊も可能だし、ドーサン一機を粉砕する程度ならば砂粒一個分の質量で充分じゃないかな?


 他にリヴァイアサンの性質として考慮しなければならないのは、ヤツがスペースラムジェットを持つという点。

 スペースラムジェットは前方の星間物質を帯電させ、磁場で吸引して自らの燃料にする航法だ。燃料や推進剤を補給しながら加速できるので理論上その速度には上限がない。

 まぁ、理論上の限界がないだけで現実には『速度が光速に近づくと宇宙が真空と見做せなくなるぐらいに星間物質の濃度が上がる』のでおのずと限界はあるわけだが。


 戦闘においての注意点はヤツが磁力を操るという事。

 先の戦いで僕がやった『ビームを横にそらす』ような真似は、僕にとっては曲芸だがヤツにとっては基本の能力にすぎない。


 確かこの惑星系には反陽子砲搭載宇宙機などという物も配備されていたはずだが、そのあたりの武器はまったく役に立たないだろう。


 逆にこちらに有利な点を上げるならば、それもまたヤツの速度かな。

 リヴァイアサンは巨大だが、そこはまったく怖くない。速度という物は相対的な物であり、こちらの攻撃がもしも当たったならばどんなに巨大な敵でも破壊できるだけの威力となる。

 また、リヴァイアサンのスピードはヤツから時間という名の余裕を奪いとる。

 こちらの行動を見てから反応するまでの時間が極端に短い。そうならざるを得ない。


 もう一つの有利な点はヤツが単独である事だ。

 太陽系にやって来たリヴァイアサンは複数だったらしいが、標的も少なく戦力も乏しいこのジール星系には一隻しか来ていない。これが複数で来られていたら予測される進路の数が膨大になり、迎撃は不可能だった。


 本当に単独、だよね?


「シグレ、周囲の警戒をお願い。特に二隻目以降のリヴァイアサンを」

「大丈夫。軍の大佐も星系政府もそこまで馬鹿じゃない。可能な限り全天を観測している。今の所、新たな敵の報告はないわ」

「助かる」

「軍や保安局の各地の部隊が個々に迎撃行動を開始している。ロッサの流した情報をベースにね。民間でも不要な宇宙機を打ち出したり、強力な電磁波をリヴァイアサンに叩きつけたりをしているところがある」


 シグレはそれらの情報を正面のモニターに表示した。

 きちんと統制された戦闘行動ではないようだが、無いよりはマシだろう。


 僕は人類側の攻撃を眺めて、あることに気付いた。


「これって、リヴァイアサンの進路を僕たちの方に誘導してないか?」

「半分は偶然ね。みんなが自分に近い所に弾幕を張ったら真ん中が空いた。それだけ」

「残りの半分は?」

「私が誘導した。敵の通るルートが分散するよりも一つに集まっていた方が、ロッサが対応しやすいと思って」

「……間違ってはいないな」


 僕は今回の戦いの勝利条件について考える。

 絶対に必要な最低限の勝利は僕たちの生存だ。それ以外の事は投げうっても構わない二次的な条件にすぎない。


 そう思えば超空間航行機関を投棄して全力で逃走するのも勝利への有効な手段ではある。

 それをやらないのはせっかく手に入れた機関が惜しいのと、僕のオーガとしての好戦性によるとしか言えない。


 そこに敵が居るならば叩きつぶせ!


 僕の戦闘用強化人間としての本能がテロリストとしての教育がそう叫んでいる。


 それが合理的でない訳ではない。

 僕との接敵前にヤツが軍の攻撃で四散してくれれば、それが一番安全だ。


 僕は自分と敵の行動パターンを考える。


 リヴァイアサンが僕との接触前に撃破されたら、これはまったく問題ない。


 僕が想定したルートを通って来たならば、多少の危険があっても撃破を目指す。

 これも良いだろう。


 その他に考えられるのはリヴァイアサンが僕をまったく無視する事。

 ヤツが超空間航行機関を探知する特別な方法を持たず、事前の情報だけで動いているならば当然そうなる。ドーサンに超空間航行機関が搭載されている事など予想できるはずがないから。

 この場合はこちらも無視で良いな。

 その想定だとこちらの近くを通らない訳だから、そもそも手の出しようがないが。


 逆に最悪の想定がリヴァイアサンがこちらの予測を上回る動きをする事。慣性を無視した移動とか空間転移とか、人類には空想の物でしかない動きをされたなら僕としては敗北を認めるしかない。

 そうなったら素直に逃げよう。


 シグレがネット経由でリヴァイアサンの観測データを収集して来る。

 もうこのブラウ惑星系に侵入する所だ。


 ヤツの移動速度は超光速⁈


 いや、違う。

 自らの発した光を追いかけて来るせいで、そういう見かけになっているだけだ。この世の物理法則に反してはいない。

 

 爆発の閃光が届く。

 惑星系の外縁部にいた宇宙船が爆破されたようだ。


 ヤツは惑星系内の宇宙船すべてを攻撃するために、一筆書きをするように侵入して来る。天体を過剰なまでに避けて通るが、攻撃の都合上、黄道面から大きく離れることも出来ない。


 概ね僕の予測通りのルートを通っている。


 宇宙軍の一機が放った攻撃の範囲に引っかかった。

 アラクネー型が装備するのと同種の機動爆雷による攻撃だ。ヤツが通過するエリアには無数の破片が広がっているはず。


 膨大なエネルギーの放出を観測する。

 こちらの視界が一時的にホワイトアウトした。


 殺った、のか?

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