第三章 大乱戦の大決戦

1 千客万来

* 少々思うところがあり、第三章からは書き方を変更します。具体的には一回の更新の文字数を三割程度減らします。そしてその分、話を整理して描きこみます。

 この方が面白くなると思うのですが、どうでしょうか?





 軍人に勝利して少しだけ浮かれるテロリスト、ロッサ・ウォーガード視点。


 アラクネー型宇宙機シェロブに勝利した後、イロイロと忙しい事になった。

 具体的にはシグレの大活躍が始まった。


 彼女はフーラムの降伏宣言を足掛かりにハッキングを行った。まずは軍人たちの乗るコクピットブロックを支配下に置いた。

 これは問題ない。

 降伏とは元々、このために行うような物だ。彼らの行動を監視して、こちらに不利益がある様なら制裁をくわえる。


 しかし、シグレはそこから一歩先に進んだ。

 コクピットブロックだけでなく、バラバラに分離したシェロブの四つのパーツまでコントロール下に置いた。


 その時のフーラムたちの慌てようは酷かった。生き残るために捕虜になるのは許容できても、まだ使える戦闘用装備をテロリストに渡すのは許されない。

 そういう事だろう。


 僕も、まぁ彼女にそれが出来るのを期待してはいたのだけれど、実際にやってのけたのを見ると少々呆れた。軍用装備がこちらの思いのままに動くなんて、普通ならばあり得ないよね。


 自爆した中央ユニットを除くシェロブのパーツは接続した単分子ワイヤーを巻き取ることでこちらに近づいてきた。当然ながら、これらは無傷だ。

 僕の勝利が薄氷の上の物でしかなかったことを思い知らされる。

 だってそうだろう。

 軍人たちが相打ち覚悟で僕を殺そうとしていたら、僕は勝てなかった。

 ドーサン・ロボが打ち上げ式のタンクを二つとも消費した後でこの4機が攻撃を仕掛けてきたら、僕だって無事で済んだとは思えない。


 ゆっくりと近づいて来た機体にドーサン・ロボの手足を伸ばす。ロボの肘から先、膝から先の部分に四つの機体を接続する。


 ところで、アラクネー型宇宙機を構成する五つのパーツは基本的に全て同じものだ。

 という事は、この4機にも分離可能な複座型コクピットが存在するという事で。


「移動するわ」


 シグレはそのうち一つを分離させると、ドーサンとハッチ同士を接続させた。

 僕としては今のコクピットに残っても問題ない。シグレだけ移れば良いと言ったのだが、力づくで引っ張り出された。


 え? 僕が力で負けるはず無いって?

 耳を引っ張られると地味に痛いんだ。


 そんなこんなで新しいコクピットに引っ越した。

 並列複座の広々とした空間がある。

 全身を包み込んで360度、全方向からの衝撃から身を守ることが出来るシート。これは僕にはさほど必要がないが、シグレにとっては大きな変化だろう。

 一方、操縦装置にはさほどの変化はない。人類が宇宙に進出を始めてから1000年単位の時間が経過している。その間に規格化が進んだためだろう。


 コクピットの内装や備え付けの軍用レーションの味をもう少し楽しみたくはあるが、僕もシグレもパワーアップさせたドーサン・ロボの調整に忙殺される。特に操縦系の調整をうまくやらないと、向上した性能を活かしきれない。


 新しいコクピットはロボの背中にあたる部分に固定した。

 フーラムたち捕虜の乗るコクピットは僕らのコクピットが元々装着されていた場所に取り付けようとしたのだが、その位置だけは嫌だと駄々をこねるので胸のあたりに固定して防弾版代わりにする事にした。

 装甲板がわりでも『腕の先に乗るよりはマシ』だそうだ。


「ねぇ、ロッサ。これからの予定はどうするつもり?」

「どうって?」


 シグレが作業の手を止めずに尋ねてきた。

 僕はその真意を掴みかねる。


「元々はヴァントラルの宇宙船アタラクシアを襲撃する計画よね。でもそれは物資を補給する先として。軍の宇宙機を鹵獲した今の私たちならば、危険を犯してもう一戦する必要はないのではなくて?」

「一理ある、な。戦闘開始前と比べて減少したのは推進剤のみ、か」

「あなたが自分で壊したんだけどね」

「有効活用した、と言ってほしい。代わりに手に入れたのは大量の兵器。それに水と空気と食料だな」

「水と空気はほぼ無尽蔵ね。こちらのコクピットには浄化装置がついている。さすがに食料品の培養プラントまではないけど」


 それは素晴らしい。

 僕は少し考えた。補給物資が手に入ったのは喜ばしい。けど、状況の好転はそれだけなんだよね。敵の数が減ったわけでも味方が増えたわけでもない。

 現在の状況の最大の問題はそこだ。

 目の前に現れる敵を倒すことは可能でも、最終的な勝利に向けてのロードマップが存在していない。


 すべての敵を打ち倒すことは不可能で、誰かを味方につけることは至難の業だ。


 潜在的な敵に至っては、増えてさえいるかな?

 外宇宙からやって来る亜光速宇宙船も味方とは呼べないだろう。


 イロイロと思案した上で僕は口を開いた。


「基本的にはこのままアタラクシアの撃破を目指そうと思う」

「どうして?」

「一つには対外的にそれを公言したからだ。『ヴァントラルの上層部を潰しに行くから邪魔をするな』と宣言しておいて軍の機体を倒したところで手を引いたら、軍を必要以上に敵に回す事になる。……と思う」

「その問題はすでに手遅れでしょう」

「二つ目にはヴァントラル側には僕らと敵対する理由がある。というか、僕らと人類社会が敵対することが彼らの利益になる、と表現するべきかな?」

「確かにテロリストの親玉からすれば、私たちが軍と戦ったことも彼らの得点みたいな物よね。そして彼らには独自の宇宙機を造り出したり戦闘用の強化人間の遺伝子を入手したりできるような一般社会に対する伝手もある。確かに、私たちを排斥するように社会に働きかける可能性は高いわね」

「多分、ね」

「そうするとヴァントラルの撃破が私たちが生存するための最低条件になる訳か」


 シグレはため息をついた。

 僕も生存へのハードルが高いとは思う。その分、楽しめそうだけど。


「近づいてくる亜光速宇宙船にはリヴァイアサンって名前がついたみたいだけど、こちらへの方針は?」

「そちらには何もできないんじゃないかな。精々、リヴァイアサンへの対処で一般社会の側が僕たちに手が回らなくなるのを期待するぐらい」

「そんな物よね」


 シグレが同意した時だった。

 目の前のコンソールが警報を発する。僕の知らない何かの警報。何か下手をうって自爆装置でも作動したのかとドキリとする。しかし、警報の元は外だ。このセンサーは何だ?


「空間振動・相転移を確認。何者かが超空間から復帰してきます」


 シグレのテキパキとした報告。

 僕の知らない現象はそれか。

 超空間航行は至近距離に対しては出来ないと聞いたことがある。何光年も向こうにしか移動できない航法だと。ならば、今ここに出現しようとしているのはただの偶然?


 でも、僕のうろ覚えの知識に頼ることはしない。最悪のパターンを想定する。

 アタラクシアかその仲間が超空間経由で奇襲をかけてきたと想定。

 警報の元となる座標にロックオン。

 同時に両足部分のロケットを噴射しこちらの位置をずらす。


 いきなりの加速にシグレが小さく悲鳴を上げたが、ここは許してもらうしかない。


 宇宙船が出現する。


 僕は先制攻撃での撃破を狙い、すぐに断念する。


 それは全長500メートル程度のゴツくて無骨な宇宙船だった。多分、本来の大きさはもっとずっと大きい。貨物ブロックを無数に連結させて大量の物資を輸送するタイプの船だと思う。

 武装を満載したコンテナでも接続すれば相当な戦力になりそうな船ではあるが、現状では誰の脅威にもなりそうに無かった。


 その船は大きく損傷していた。

 一体何が起きたのか? 頭の先から船尾まで大きく引き裂かれていて、エンジンブロックからバチバチと放電している。

 サンフラワー号と船名が読み取れた。


 今度は何なんだよ!


 ヴァントラルとの敵対、宇宙軍との交戦、亜光速宇宙船の襲来と続いているのに、さらにもう一つだと?


 僕の処理能力もキャパオーバーしそうだ。

 こんな難破船、さっさと片付けた方がいいかも知れない。


 僕はドーサン・ロボの右腕に接続したビーム砲の安全装置を解除した。


 もう、どうにでもなれ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る