第5話
「俺は夢魔――夢を叶える事で相手から魔力を貰う悪魔の一族に生まれ、自らも蝶に変化し、数多の蝶を生み出し操る蝶使いの一族の娘である紫苑と婚約していた。だけど一緒に出掛けていたら事故にあってね。紫苑は重傷だったけれど、俺は即死だった。気が付いたら冥界にいた。死神に選ばれたって言われてさ、驚いたな。まあ、おもしろそうだったから受け入れたけど。最初のターゲットが紫苑だった。彼女のもとに行ったら、願いを叶えてほしいと言われたんだ。その願いが、自分が生まれ変わったら会いに来てほしい、ということだった。俺の一族は夢の中で相手の願いを叶える一族であり、願いに縛られる一族だったから、それを利用した願いだったよ。だからずっと、夢魔の能力――相手に夢を見せる能力を生かして魂の回収をしながら、紫苑が転生するのを待っていたんだ。まさか百鬼夜行の影響を受けて寿命が縮まるとは思わなかったけれどね」
そう言って、彼は言葉を切った。
何も言えない。そんなことがあったの……?
さらに琥珀さんは続ける。
「紫苑のような妖怪や、俺らのような魔族は、強い思いや願いがあると転生しても意識が残ることがあるんだ。紫苑の場合も願いが強かったから、葵の中に紫苑の意思が残った。その意思が時々出てきてしまって、戸惑ったよね。ごめん」
「あ、急に誰かの声が聞こえて、視界が暗転することがよくありましたけど、あれは紫苑さんの意思の影響だったんですか?」
「そう。一時的に表に出てしまっていたんだよ。まあ、もう消えてしまったからそういうことはなくなるよ」
そういった琥珀さんは、悲しそうに笑っていた。
「そうか……。あの幽霊の姿は意思が形になったものだったのか……」
納得したように、常盤さんがつぶやいた。
コンコン、と不意にドアがノックされた。
「はい……?」
「葵、お茶を持ってきたわ。お友達も一緒にどうぞ」
お盆の上に三つコップを乗せ、母が入ってきた。
「机に置いておくわね……ってあら、葵一人なの? 男の子の声が二人分聞こえたと思ったの
だけど……」
その言葉に、琥珀さんが眉をひそめた。
「なぜ……? 俺らの声は、ターゲット以外には聞こえないはず……」
私も不思議だった。今まで声が聞こえていなかった母がなぜいきなり?
「離れろ! 悪霊にとりつかれている!」
突如、常盤さんが叫んだ。
「は……はい……?」
訳が分からない。とりつかれている? 琥珀さんは少しの間固まっていたが、すぐにペンダントを大鎌に変化させた。
死神二人が鎌を構える。私の肩に一羽の鳩が止まった。
「巻き込むなよ」
常盤さんが短く鳩に命じた。鳩は小さく鳴き、私の周りを守るように旋回し始めた。
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