第4話

 「おまえは何を考えている! こっちが手一杯なのは知っているだろうが! なんで一週間もここにとどまっているんだ! おかげでおれは疲れがたまっているんだぞ!」

 「うるさいですよ先輩。耳がやられる。それに、葵が戸惑っているではないですか」

 「人手が足りないのに何をしているんだ!」

 「それはすみません。というか、さぼっているやつ他にもいましたよね? そいつらはいいんですか?」

 「あんなやつら役に立たんわ!」


 「あの……、母に聞こえてしまうので、静かにしていただけますか? さすがに、独り言では済ませられないので……」


 言い争う二人に、小さな声で抗議をした。

 

 さすがにこれ以上続けられたら苦情が来るかも……。あれ、琥珀さんたちの声って聞こえていないんだっけ?


 「あぁ……すまなかったな。それで、なぜここまで寿命を伸ばした?」


 一度落ち着いてから、常盤さんが琥珀さんに聞いた。


 「その前に一ついいですか? そろそろ出てきてくれると思うので……」


 琥珀さんの言葉の意味が分からない。他に誰かいるの?


 「もういいだろう? 出てきなよ、紫苑しおん



 その直後、さあ……、というかすかな音とともに、私よりも少し背が高い女性が姿を現した。背中にチョウのような羽が生えている。だが、全身が透けていた。この人に見覚えはある。急に視界が暗転した時、いつも後姿が言えていたあの人だ。


 『久しぶりね、琥珀』


 彼女が声をかける。その声は、私とあまり変わらなかった。


 『そしてあなたははじめましてね、葵さん。やはり転生してもあまり姿は変わらないのね』


 「へ……?」


 紫苑と呼ばれた女性の言葉に、呆けたような声を出してしまった。この人は私を知っているの?


 「どういうことだ? そいつは死んでいるのか?」


 常盤さんも戸惑いを隠せない様子だ。


 「彼女は君の前世の紫苑だよ、葵。そして、事故で死んだ俺の婚約者だ」


 琥珀さんの言葉に、息をのむ。


 前世……?しかも琥珀さんの婚約者……?


 『ようやく願いをかなえてくれたわね。遅かったじゃない。待ちくたびれたわ』

 「ごめん。忙しくて時間が取れなかったんだよ」

 『まあいいわ。元気そうでよかった。一週間、とても楽しかったわ。ありがとう』

 「どういたしまして。……というか、もう行くつもりかい?」

 『ええ。いつまでも葵に迷惑かけるわけにはいかないもの。願いはかなえてもらったし、満足だわ。元気でね』

 「ああ」


 琥珀さんの返事を聞いて満足したのか、紫苑さんはふわりと浮かび上がった後、消えてしまった。何がどうなっているの?


 「本当に自由だね、紫苑は」


 つぶやくように、琥珀さんは小さな声で言った。そして、彼はゆっくりと語りだした。

 

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