第2話

 「百鬼夜行? 何ですか、それ……?」

 「妖怪が夜中に列をなして歩くこと。出くわすと死ぬって言われている。君は昨日の下校時、百鬼夜行のそばを通ったんだ。百鬼夜行のそばは妖力(妖怪が持つ力)が強いからね。悪影響が及んだんだ。だから、足の機能が停止した。このままだと、すべての機能が停止して死ぬよ」


 理解できない。この人、本当に何を言っているの? 混乱してきた……。


 「……まあ、大体で理解しておいてくれればいいさ。そこまで重要なことじゃないからね。ここからが本題だよ、葵」

 「本題……?」

 「そう。君は、あと一週間くらいしか持たないだろう。そこで、君が死ぬ前に一つ願いをかなえてあげるよ。母親にお金を残したいとか、やり残したことをやり遂げたいとか、何でもいい。俺はそのために早めにここに来たのだからね。聞かせてよ。君の願いは何?」


 そう言って、彼は笑みを浮かべた。彼の言葉の意味を理解するまでにかなりの時間がかかったと思う。


 この人って魔法使いか何かなの?


 「おーい、聞いてたー? なんか言って欲しいんだけど? 黙ったままだとわからないよ?」


 色々と思考を巡らせていたら、いつの間にか顔を覗き込まれていた。


 ち、近い……。


 「願いなんて……特にありませんけど……」

 「え? ないの? じゃあ、まだ一週間あるからその間に考える?」

 「いえ……心残りは特にありませんし、やり残したことはないので……」


 私の今の思いを口にする。そうしたら、琥珀さんが驚いたように見つめてきた。


 本当は何も考えられなかったから適当に言っただけなんだけど、そこまで驚くようなことだったのかな……?


 「ぷっ……はははははっ!! そんなことを言ってくる人は初めてだな! 面白い」


 へ? 初めて? そ、そうなんだ……。


 「しばらく考えてごらん。それまでずっとここにいるから。まあ、君の魂を回収しない限り俺は戻れないんだけどさ。見つからないならそれでもいい。でも、ちゃんと期日まで考えてみてよ。見つかるかもしれないじゃん?」

 「はあ……わ、かり、まし、た……」


 言葉がとぎれとぎれになってしまった。


 さっきから近いんですけど……。緊張する……。琥珀さんがくすくすと小さく笑った。なんで笑うの……?


 『こはく……?』


 ふいに、誰かが小さくつぶやいた。視界が暗転する。暗い。何も見えない。しばらくあたりを見渡すと、女の人の後ろ姿が見えた。よく見ると、体全体が透けている。


 まさか、幽霊……?


 「どうかした?」

 「え……? ふぇ? わ、私、今、なんで……?」


 琥珀さんの声が聞こえたとたんに、あたりが明るくなった。慌ててまわりを確認すると、いくつものベッドとそこで寝ている人たちの姿が見えた。


 あれ? さっきのは何だったの……?


 混乱していた私は、


 「見つけた……。やっと、君の願いを叶えることができそうだ」


 と、琥珀さんがつぶやいたことに気付かなかった。

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