第6話 新たな出会い

「いやぁ、昨日は休校になってラッキーだったなぁ」

「そうだな」


 鬼退治を済ませた翌日。ヒーローたちによって出現したモンスター全てが討伐されたことで、無事にモンスター警報が解除された。

 よってまた普段の日常が戻ってきた。学校も普通に再開され、今は昼休み。いつものように友人たちと弁当を突つきながら、どうでもいい雑談を交わす。


「あー、でもアレだよなぁ。振り替え授業は面倒だよなぁ」

「それな。土曜登校とかやってらんねぇよ」

「ま、そんな文句を言っても、先生たちから大学受験の前に〜なんて説教が飛んでくるだけなんだけどねぇ」

「だろうな」


 そうしてくだらない話が続いていく。だがやはりというか、話題は昨晩のセンセーショナルな事件に自然と移っていった。

 ……そっちの話題にいかないよう、さりげなく話題を逸らし続けていたのだがな。流石に無理があるか。


「で、昨日の夜はどうだった? お前ら避難した?」

「俺は自宅が範囲外だった」

「あー、ザマッチちょっと遠いもんな。俺は範囲内だったけどしてねぇな。だってレベル2だろ? 家に篭ってればする必要なくね?」

「あ、やっぱり? そうだよなぁ。俺もカズと同じで範囲内だったけど、避難はしなかったな。流石にレベル2で避難は大袈裟だし」


 ……クソがッ。よりにもよって最悪の内容になりやがった。

 一応友人とは思っているが、それはそれとして今の台詞で、一気にコイツらに対する好感度のようなものが急落した。


「……何で避難しねぇんだよ。しろや」

「え、何よザマッチ。急に不機嫌になってどしたん?」

「何か気に障る部分あったん?」


 俺の中では決して譲れない内容だったがために、普段のような態度を取り繕ったそれではなく、思ったままの言葉を吐き出していた。

 当然ながら友人たちはギョッとした表情を浮かべているが、この点に関しては引くつもりはサラサラなかった。だから誤魔化すことなく本音を告げる。


「お前ら馬鹿かよ。それでモンスターに襲われたらどうすんだよ。後悔するのは自分たちだし、尻拭いに命を懸けんのはヒーローなんだぞ」

「いや本当にどしたんよザマッチ。そんなにキレる部分あった?」

「そーそー。そりゃザマッチの言ってることは正論だけどさぁ。言うてレベル2よ? 危険度なんて熊ぐらいなんでしょ? それでわざわざ隣町の避難所まで行けってのはダルいだろ。しかも夜だし」


 面倒。ダルいなどと言って笑う友人たち。その姿がとても腹立たしくて、ついに我慢の限界がきた。


「ッチ……。気分悪い。気晴らしに飲み物買ってくる」

「……何かすっごい不機嫌そうになってるけどさ。流石に意味分かんねぇだけど?」

「そーそー。マジで意味不明なんだけどザマッチ。ちょっと情緒不安定すぎね?」

「……俺の弟は十歳の時にモンスターに殺された。逃げ遅れた奴らの巻き添えで、助かるはずだった命を落とした」

「え……」

「だから俺は、モンスターを甘く見る奴らが大っ嫌いだ。何かアレば誰かに、ヒーローに助けてもらえるなんて考えてる奴らは、全員黙って死ねば良いと思ってる。……じゃあな。気分が悪いから今日は絡まんでくれ」

「ちょっ、ザマッチさん……!?」


 友人たちが何か言おうとしていたが、それを無視して教室を出る。


「……あー、クソっ……」


 舌打ち。譲る気もなかったし、本心を語ったつもりではある。だが同時にやってしまったなぁという気持ちも湧いてくる。

 相変わらず拗らせている。急な身の上話なんて寒いにもほどがある。

 アイツらからすれば青天の霹靂だろう。そんなところに話し相手の地雷が埋まってるなど普通は思わないのだから。

 引く気はなかったとはいえ、そういう意味では悪いことをしてしまったとも思う。


「これからどうなるのかねぇ……」


 気まずくなるだろうなぁとは思う。好感度のようなものは急落したが、それはそれとしてまだ友人だとは思ってるのだ。関係修復はしたいし、コレを切っ掛けにクラス内で腫れ物のようの扱いをされるのも避けたい。

 だが同時にこうも思う。コレで疎遠になるような関係性ならそれはそれだ。それにアイツらがあの考えを改めることがないのなら、その時点で俺はアイツらとの友人関係を耐えられないだろう。クラスメートに関しても同じ。

 こっちから歩み寄るつもりはもちろんあるが、それでも結局はなるようになれ。その果てにボッチにでもなったのなら、それは受け入れるべき──


「っぬお!?」

「わっ!?」


 人とぶつかった。考えごとに熱中していたせいか、角を曲がってきた人物に気付かなかった。


「っと、すいません。ボーっとしてました」

「あ、こっちこそすいません!」


 ぶつかったのは男子生徒だった。男子生徒は後輩、上履きの色からして一年か。……小柄かつ凄い童顔なので、一瞬中等部の生徒かとも思ったが。


「あー、本当に失礼を。完全にこっちの不注意でした」

「いえいえ! ボクの方も余所見をしてて。先輩相手に本当に失礼しました……」


 お互いに頭を下げる。後輩だろうが非は俺の方にあると思っているので、その辺りはキッチリする。

 と、そこで気付く。俺の足元に一枚のカードが落ちていた。生徒証だ。俺のではないので、必然的に目の前の後輩のだろう。


「キミ、これ。多分落としたのでは?」

「ああ! 重ね重ねすみません!」


 拾った生徒証を渡すと、後輩は凄い勢いで頭を下げる。先輩相手とはいえ、知らない相手に対してやけに腰の低い後輩である。

 チラリと見えた生徒証に記され名前からして、もっと胸を張っていても良いと思うのだが。


「生徒証の名前が見えたけど、四条っていうんだね。ってことは、もしかしてキミが噂の現役ヒーロー?」

「えっ!? あ、その、はい……」


 俺の問い掛けの対して後輩、生徒証いわく四条一星君は恥ずかしそうに頷いたのだった。

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