第9話

 テンタは一本道を渡る。

 水堀を超えるとその先は広場になっており、そこにはテンタと同じく【黒の大陸】を目指そうとしている人々が集められていた。


「思ってたよりも人がいるんだね」


 広場を埋め尽くさんばかりの人々。命を掛けて難攻不落の大陸を目指すのだから、もっと人数が少ないと思っていたテンタだったが、予想は外れた。

 人数で言えば数百人はいようか。

 この国に住む人間だけでなく、他の国からもやってきているようで、容姿や髪色は皆、バラバラだった。


「そうなんだよ。なんでも、王様と一緒に【黒の大陸】に渡ればそれだけで大金をくれるらしいからさ。お金に目が眩んだ人達が大勢参加してるってわけ。だから、ほら、いかにも航海に向いてなさそうな人達ばっかりでしょ?」


「ふむ。確かにその通りらしいな」


 声の主にテンタは改めて辺りを見回す。

 集められている人々の服はどれも痛んでおり、何日も着回しているのが嫌でも分かる。日頃からちゃんとした食事にありつけていないのか、肉付きは悪く骨が浮き出ていた。

 これでは普通に海に出るのも心配だ。


 普段、入ること出来ない城に足を踏み入れ、あわよくば何かおこぼれを手に入れようとしているだけだろう。

 やる気のなさを隠すことなく日陰で眠っている者もいた。


「ま、だから、何かしら選定が入ると思うから覚悟しといた方がいいぜ? あんた、弱そうだから特別に教えてやるよ」


「……とかいう、君も向いているとは思えないけども。そして、独り言に反応をしてくれてありがと」


「え、あれ、独り言だったの!? なんだよ。答えちまったじゃん」


 背後に立っていたのは年端も行かぬ子供だった。

 年齢は10才前後。アレフと同い年くらいだろうか。

 身長は150センチ程度でテンタの胸に顔があった。

 何よりも目を引くのは――全身傷だらけの身体。

 腕も顔も全てに傷が付いていた。

 傷だらけの人物にテンタは己の過去を思い起こす。【処刑人】を捨てる覚悟を持たせてくれたシャドラのことを。

 シャドラは元気だろうかと考えていると、


「……あ、ひょっとして傷のこと~? 凄いもんね、この傷」


 傷が凄くて見入っていると少年に勘違いされてしまった。


「いや、そういう訳ではないのだが」


「いいよ、隠さないで。へへ、実はさ、俺、昔、1人で【黒の大陸】目指したみたいでさ。その時にこの傷が付いたんだ」


「なるほどね。それならば、確かに生きているだけで凄いと言えよう。ただ、君を見ていたのは、昔を思い出していただけさ」


『仮面』の力を持たない少年が生きて帰っただけでも奇跡と呼べよう。テンタだって触手が無ければ生きて帰れたかも怪しいのだから。

 故に全身の傷は勲章だと考えている少年は、テンタの言葉に食いついた。


「昔? 昔になにかあったのか?」


「ああ。私を救ってくれた傷だらけの英雄だよ」


 テンタの言葉に、猫のように目を丸めながら、


「やだなー。英雄だなんて。俺はあんたを助けた記憶はないよ~!」


 と、長年の友人が如くテンタの腰を叩いた。


「……あってたまるか。その当時、私は君の年齢だったんだからね」


「なんだよ、真面目だな~。もっと気楽に行こうぜ? おっさん」


「私は少し人里から離れて暮らしていたからね。あと、それから私はおっさんではない。テンタだ。クルス・テンタ」


「俺はイルだ。よろしくな!」


 イルはそう言って小さな手を差し出した。

 手の平まで傷だらけの手をテンタは握る。小さいが皮膚は固く骨ばっていた。傷だらけなのは海で怪我をしたからだけでない。

 相当な修練を積んでいる。


 握った手を離したアレフが聞く。


「そう言えば、テンタと一緒にいた子供は参加しないのか? 俺と同い年くらいだから仲良くなれるかな~と思って、話しかけたんだけどいないのな」


「残念ながら彼はただの道案内だよ。ここには参加しない」


「ちぇ。なーんだ。つまんねーの」


 イルが口を尖らせ、足元にあった石ころを蹴る。弧を描いて宙を飛び、地面に落下したところで、「ドォン」と大砲のような音が響いた。

 テンタは咄嗟に周囲を見渡し攻撃に備えるが、どこからも攻撃はない。

 数秒の感覚を開けて第二砲の音が響く。

 音の間隔が徐々に短くなっていく。

 砲撃音に警戒心を高めるテンタに、イルが笑いながら音に負けぬように声を張る。


「これは太鼓ってヤツの音だよ! テンタ、知らないのか?」


「……さっきも言った通り、私は人里離れていたし、色んな国を転々としていたからね」


「あん!?」


 太鼓の音で聞き取れなかったのか、背伸びをして顔を少しでも近付ける。

 テンタも声を張ろうと息を吸い込んだところで、太鼓の音が止んだ。


「私は、色んな国を点々としていたからね!」


 音が止んだことで大声を上げるテンタが注目の的になる。だが、周囲の視線など気にせずにテンタは話を続ける。

 周囲の視線などお構いなしだった。


「しかし、まあ、なんと大きな音を出すモノがあるな。ふふ、この世界でコレなんだ。【黒の大陸】にはどれ程、私の知らぬモノがあるのだろうか」


「テンタは変わってんな……」


「変わってる? 私がかい?」


「ああ。この国はさ、周囲に合わせるのが美学っていうか常識なんだよ。今みたいに注目されても平然としてるのすげーよ」


「ふむ。別に大したことはないさ。注目をしようとしたのは彼らで、大きな声で話そうとしたのは私だ。誰も大声で話してはならないとは言ってないから、それだけのことだ」


「やっぱ、変だよテンタ」


 イルが笑うと広場の前方に建てられた城から、1人の男が姿を見せた。城の最上部。周囲を囲う様にして作られた縁側に立つ羽織を着た男。

 彼が今回の【黒の大陸】の侵攻を企画した王だった。


 誰しもが現れた王の言葉に耳を傾ける。

 広場に集まった人々を見下ろした王は、自分の権力によって集まったことに満足そうに頷きながら声を降らす。


「今回は私の元によく来てくれた。だが、弱い人間はいらん! 俺が話をするのはそれからだ!」


 王が言い終わると同時に、広場が殺気で満たされる。しかも一つではない。会場の半数にも近い数の人間が殺気を持っていた。

 生死を掛けた戦い――修羅場を潜り抜けた人間であれば直ぐに気付く。

 殺気を纏った人間たちは腰に付けた鞘から刀を引き抜き、近くにいる人間に向けて躊躇うことなく振り切った。


「なるほど、そういうことか……」


 テンタもまた、狙われた1人だった。横に立っていた男が刀を抜き切りかかる。しかし、その動きは大雑把で素人に毛が生えた程度。

 能力を発動させるには十分すぎる時間だった。

 テンタはその場を動くことなく、手の平から触手を生み出し地面に打ち付ける。地面を弾いた触手はその勢いをもって、刀を振るう人間の顔を打つ。

 下からの反撃を意識していなかったのか、その一撃で「ガクっ」と気絶し倒れ込んだ。


「さて、と」


 自身に向けられた刺客を倒したテンタは、同じく刺客を向けられたであろう参加者たちを見る。

 分かりやすい殺気。

 素人に近い剣の技術。

 これならば、殆んどの人間が無事だろうと思っていたのだが、広場に生み出された光景はテンタが予想していたモノとは大きく掛け離れていた。


「い、痛ぇ……」「死にたくねぇ……」「助けてくれぇ」


 そんな声と共に、血を流した人々が多く、中には声すら上げられぬ傷を負った人もいた。

 自分の足で立っているのは刺客を覗けば数人程度。

 返り討ちに合わせたのはテンタを除けばもう一人だけだった。


「ありゃ、予想より多くやられてんな~。な、テンタ!」


 それは横に立っていた少年――イル。彼もまた自らの血を一滴も流すことなく刺客を倒していた。『仮面』の力を持たぬ少年がどうやって無傷で防いだと言うのか。

 無傷で当然とばかりにイルは言う。


「ま、金欲しさにやってきた奴らだからしょうがないか。逆を言えば、自力で立ってる奴らだけが本気で【黒の大陸】を目指してるってわけだ」


「その通りだ少年!!」


 イルの言葉が聞こえたのか、城から指をさして肯定する。

 広場に集まっていた人間の内、実際に募集によって集まっていたのは半数だけだった。集まった人間に対して、1人の刺客を差し向け実力を試す。

 それが王が腕試しとして用意した課題だった。


「同じ武装をした人間が半数を締める違和感に気付く注意深さ。そして、突然の襲撃を防げるかどうか。この程度も出来ない奴らは付いてきても邪魔だだけだ!」


 王の言葉を腕を組んでイルが何度も頷く。


「そりゃ、気付くでしょ。この形状の『刀』を持つのはこの国だけ。これだけ色んな格好をしてる奴がいるのに、武器が同じとか怪しすぎんのよ」


 確かに冷静になって辺りを見ると、その振る舞いや格好は違和感があった。

 なるほど。

 イルは予め攻撃が行われると予想していたがために、無傷で対応することが出来たのか。もっとも、子供が大人に勝つために相当な訓練をしていることに変わりはないのだろうが。

 幼いながらも歴戦の策士が如き洞察に感服するテンタ。


「たく、それすらも見抜けたのは俺とテンタだけということだな」


「へ?」


 尚、テンタはそんなことは全く気付いていなかった。


「なーに惚けてんだよ。じゃなかったら、流石に無傷じゃないだろ? ましてや、テンタは気絶までさせてんだからよ」


「いや、全く気付いていなかった」


「はぁ!? マジかよ! だとしたら、テンタ何者!?」


 イルが驚きの声を上げる。

 だが、その問いにテンタが答えるよりも先に、「何者だろうと強ければ構わん!」と言う王の言葉に遮られてしまった。


「ま、待ってくれ!!」


 その時だった。

 最前列にいた男が、傷だらけの身体を必死に支えながら立ち上がり、王を求めて手を伸ばした。


「俺は絶対に役に立つ。だから、頼む!! 俺を連れてってくれ!!」


 攻撃を防げなかった。

 課題はこなせなかった。

 それでも、やる気だけはあると、痛む身体を起こして叫ぶ男。やる気だけであれば――広場に集まった中でもっとも優れてると言えよう。

 だが、王が求めているのはやる気のある人間ではない。

 強い人間だ。

 弱い人間が生きていること自体が不快だった。


「……やれ。よくも、弱いくせに私の城に足を踏み入れたな。それが貴様の罪だ」


 見る価値もないと、立ち上がった男の声に背を向ける。それが合図になったのか、近くにいた刺客が手にしていた刀を大きく振り上げた。

 刀が男の首を切り裂こうとした瞬間、


「がはッ!!」


 武器を持つ刺客が大きく後方にへと吹き飛ばされた。

 腹部と頭部。

 二か所に打ち込まれた強い衝撃で、城壁にへとぶつかり意識を失う。


「気に入らないね」


「気に入らねぇ」


 刺客に攻撃を加えたのは1人の男と1人の少年だった。

 腕から不気味に伸びた触手で腹部を殴ったのはテンタ。

 そして頭部へと攻撃を加えたのは――傷だらけの少年、イルだった。その手には小さな正方形が握られており、それを用いて遠距離での打撃を加えたようだ。


「「ん?」」


 テンタとイル。同じ行為を取った2人が互いに顔を見合す。顔を見合わせると、すぐに離れた場所からの攻撃手段に目を奪われた。


「って、おい! なんだよ、それ! 滅茶苦茶気持ち悪るくね?」


 触手を見てテンタから距離を取る。

 対するテンタは、


「なんだ、それは!?」


 イルが手に持つ、小さなボックスに触れようと触手を伸ばした。


「ちょ、ちょっと待てって! それをこっちに近付けんなよ!」


「そんな汚いモノみたいな態度を取られると傷付くではないか! 大丈夫! そんなに汚れたモノではない……はず!!」


「はずって、なんだよ! ほら、よく見ろ! なんか湿ってんぞ!?」


「いやー、そうなんだよ。これ、私も伸びて便利だな。ということしか分かってないから、なんで濡れてるんだろうね?」


「だったら、尚更そんなものを近付けるな!」


「だって、イル君が持ってる武器が気になるじゃないか」


「分かった。渡す、渡すから引っ込めてくれ」


「ふむ……。それならば仕方ない」


 触手を引っ込めた時、「私に逆らうな!」と王が刺客たちに指示を出した。

 刀を握った男たちが攻めてくる。


「丁度いいや。どうせ見るなら、俺の力を見せてやるよ!」


 イルは手に持った正方形を構える。

 よく見るとそれは完全な四角ではなく、正面が窪んでおり、背面には突起のようなモノが取りつけられていた。

 イルが突起物を強く押し込むと、「カシュッ」という音が響くと同時に、迫ってくる1人の刺客が吹き飛んだ。

 コロコロと小さな物体が地面を転がる。

 触手を伸ばしてテンタが拾う。


「これは――ガラス玉?」


「そ。特性の『ガラス弾』だ!」


 イルは得意気に自身の武器を見せつけるように、突起物を押す。その都度、ガラス弾を補給するのか、上部に手を当てガラス弾を押し入れる。

 補充しては放出を繰り返すイル。

 一撃の威力は日々、鍛錬をしているであろう大人達を吹き飛ばす威力。威力こそ申し分ないが、多勢との戦いには不向きなようだ。


「……ちっ。ちょっとばかし、数が多いか」


 補充している間に距離を迫られる。近づいてきた男の刀を、身体を逸らして躱す。イルは小柄な体躯を生かし、自身の攻撃範囲であるミドルレンジを保つが、いかんせん、相手の数が多すぎる。

 捉えられるのは、時間の問題だ。


「力は見せて貰ったから、私も手を出すとしようか――」


 不利になる前に、イルに加戦しようとするテンタだったが、


「必要ねぇぜ」


 イルに手を出すことを拒否された。


「しかし、どうやってその武器でこれだけの相手を? 現に押されてるように見えるのだが――?」


「安心しろ。こうすりゃ、全部が解決するさ。拡張カスタマイズ――連射」


 テンタの問いに答えるように、イルは言う。

 イルが手にしていた正方形が、より歪なモノにへと変化する。

 まるで竜の首のような拡張部品が上部にある補充部分にへと取りつけられ、一度に補充できる弾丸の数を増加させる。

 連射機能に特化した形状のようだ。

 その証拠に迫ってきた刺客たちを弾丸を補充することなく倒して見せた。

 数十人の刺客を1人で倒したイルは、天守閣から顔を覗かせる王を指差した。


「俺はあんたみたいな奴が気に入らねぇ。だから、お前をぶっ飛ばす!!」




「やれるもんならな……! おい、早く出て来い!」


 王は眼下に叫ぶと、1人の老人が姿を見せた。


「……全く、人使いの荒い王様だこって」


 ゆらゆらと静かに歩く。

 その所作にテンタもイルも、警戒を強める。この老人は強いと本能で分かっていた。

 表情を強張らせた2人に老人は笑う。


「こんな老人で、片腕も失った男をこき使うとは、酷いと思わんかね?」


 敵に向けて問う老人を王が叱責する。


「余計なことを言うな! お前は、我が国の中で最も修羅場をくぐり抜けてきた鬼才! 片腕を失ってもなお、勝てる奴はいない天才ではないか!」


「だから、それが荷が重い看板って訳ですよ」


 不満を口にするが隙は一切見せない。

 片腕で刀を引き抜き肩に担ぎ、テンタとイルに視線を交互に移したのちに、背の高いテンタを見つめた。


「やれやれ。儂はこんな子供とは戦いたくないのでな――。そこのお主を倒したら勝ちとはしてもらえんか?」


 いくら、王の命令と言えど子供とは戦えない。

 老人の子ども扱いにイルが身を乗り出す。


「はぁ!? お前の相手は俺だよ、おっさん!」


「そう言うな。相手は私を指名しているのだ。が、しかし、私は君よりもその上の王を倒したいのでね――ここは任せたよ、イル君」


 指名をされようと決めるのは自分。

 いつものように、我の道を突き進むテンタは、王の立つ場所まで触手を伸ばし、一気に移動を試みる。


「行かせませんぞ!」


 未知の触手に、躊躇うことなく腰を落とし跳躍と共に刃を振るう老人。

 迷いのない動作。

 これまでの経験と死んでもいいと言う覚悟が老人にはあった。

 だが覚悟だけなら、ここに集まってきた人間も同じ。

 ヒュン、ヒュン、ヒュン。

 連射されたガラス玉が老人を襲う。


「それはこっちの台詞だっつ~の!」


 空中で上体を捻った老人は、飛来する全てのガラス玉を刀で弾き飛ばして見せた。

 地面に足を付けた老人が刀を杖代わりに膝を伸ばした。


「ほう。面白い武器を持っておるわい」


「だったら、俺を無視すんなよな。それとも、子供に負けるのが嫌だから逃げてんのか?」


 挑発するように武器を空中に投げて「パシッ」と掴む。

 不敵な笑みに老人の視線が厳しくなる。


「……口の悪い餓鬼ですわい。じゃが、儂は嫌いじゃないわい」


 動きを止めた老人に王が救いの声を上げる


「おい! そんな餓鬼はいいから、俺を助けろ!! 化物がこっちに来てるんだぞ!!」


「化物なんて酷いではないか。私はこう見えても人間なのだよ?」


 身体から数本の触手を伸ばして揺らす。

 その光景にイルは、「いや、充分、化物だろ」と呆れていると――。


 シュッ。


 刃がイルを襲った。


「チッ!」


 手にしていたボックスで攻撃を防ぐが、子供と老人と言えども力に差があるのか、軽々と吹き飛ばされた。


「戦いにおいてよそ見は死を意味しますじゃ。【黒の大陸】を目指すのであれば、もっと経験を積んでからの方がいいですぞ?」


 刀を鞘に収めて背を向ける老人。

 勝負あったと思っているようだ。

 床に転がる瓦礫を蹴り飛ばし、イルはゆっくりと立ち上がる。


「おいおい。攻撃を防御されてんのに、勝ち誇るって、それこそ経験が浅いんじゃないのか? 俺を倒したきゃよ、ちゃんと心臓が止まってるのを確認してからにしろよ!!」


 イルは横に拡張された箱を取り外し、基盤となる武器の前方に取り付ける。

 正方形の角と角がズレ、それはまるで、八芒星のような姿だった。


「……先ほどの一手で実力が見えぬとはの」


 老人はイルのガラス球を全て弾いた。

 つまり、イルの武器は通じない。

 イルが遠距離で、尚且つ奇妙な武器を使うのは埋められぬ腕力を補うためだその武器を封じられたのだから勝負にすらならない。


 老人は笑うが――。


「それは、これを受けてからにしな!!」


 イルはトリガーを押す。

 放たれたガラス玉は――。


「なっ!!」


 老人は咄嗟に防御をするが、握った刀を吹き飛ばし、顔面を捕えた。

 威力も速度も先ほどの攻撃とは格段に上がっていた。


「ば、馬鹿な……。先ほどより、早いし、重いじゃと!?」 


 驚愕と共に倒れた老人にイルは勝ち誇る。


「俺のこいつは、付け方で威力、連射、命中を調整できるのさ。相手の武器を決めつけるなって、いい経験になったんじゃないのか?」


「……。生意気な餓鬼ですじゃい」


 老人は意識を失った。

 この勝負――イルの勝ちだった。


「さてと、あいつはどこ行ったのかな?」

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