リ・プレイ

みねっち。

第1話  神社

「田舎だなぁー、山に山に山。何もないな」 


一人車を走らせながらそんなことをつぶやいていた。

今日は2024年9月8日23時00分

俺は滋賀県の紅祇山(あかがみやま)の神社を目指して車を走らせていた。

この神社の最奥にある願いの石碑は何でも願いを叶えてくれるらしい。俺は直感的にビビッと感じたのだ。

昨日の夢もそういうことだったに違いない。


「騙されたと思って来てみなさい」


あの言葉が、声が、景色が、まだ頭にこびりついている。

その時見た石碑の特徴、周囲の景色の記憶を頼りにネットを探し回り、おそらくこの神社だと特定した。


「俺もバカだよな、こんな直感なんかでここまで来るなんて」


鼻で笑い、額に滲んだ汗を左手で拭った。


9月に入ったのも関わらず猛暑は絶賛継続中だ。昼に発熱したアスファルトが夜になると溜め込んだ熱気を空気中に放出する。それがこの蒸し暑さを生んでいるのだろう。半袖になりたいところだが蚊のせいでそんな事もできない。


現地に到着すると、神社はとんでもないやはり山の中にあるのだろうと確信した。神社の入り口の鳥居は周辺の木に半分覆いかぶさるように佇んでいた。そこから見える果てしない階段は真夜中ということだけで不気味さを増している。

車から降り、虫除けスプレーを入念に振り撒くと鳥居へと歩いていった。





階段は全部で何段あるのだろうか。

そんなことを考えながら俺は登り始めた。

ただ足元の一段一段を見ながら登っていた。息はどんどん上がっていき、足はもつれていく。


「5年前ならこんな程度笑っているくらいか?」


過去の自分に負けてはならないと踏ん張りつつ、しかし勝てる要素など一つもないことを分かったうえで自分に言い聞かせていた。

なぜ自分はここまで落ちぶれてしまったのだろう。と

考えていた。


二百段くらいだろうか足が階段に引っかかり転落しかけた。手すりを持っていなければ確実に落ちていただろう。


「まだまだ…」


自分に言い聞かせ、再度登り始めた。


あと三段…二段…一段…

最後の一段を力強く踏めこみ両足を並べるとようやく登りきったことを確信した。

全身から溢れ出た大量の汗とどれだけ呼吸をしても静まらない鼓動が高校の頃を思い出させた。

振り返ると階段の左右に生えた木の間から白光を放つ月がこちらを覗いている。


「なんか、今日は何かを変えれる気がするんだよな」


そんななんとなくの直感でここまで来たのだ。

この神社の奥にある願いの石を目指して。





















ドタドタドタッ…


「ん?なんだ?」


背後から焦った足音が聞こえた。不審に思い、思わず振り返った瞬間だった。


するともうその人は目の前に居た。

しかしその人は後方を見ながら走っている為、こちらの存在に気づいていないようだ。


「お前も邪魔だ!!」


勢いよく走ってきた彼は思いっきり俺にぶつかってきた。


「うわっ」



突き飛ばされて体が宙に舞う。背中から階段に落ちた俺はそのまま一番下まで転落していった。



駐車場に止めた車がぼやっとした視界に映る。


「走馬灯も見せてくれないんだな…」


死ぬってこういうことなのかな。

少しずつ視界が狭まっていく。ダメだ。もう意識が。

振り絞って起こしていた頭が地面についた。



カチ…


時刻はちょうど0時を指していた。


俺の生まれた日だ。

























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