変える世界

第6話 トラメス町


村道で1泊して、お昼ごろ町についた。


町はぐるっと城壁で囲まれており、入口は東西南北に計4つあるらしい。

入口には門番が常駐していて、出入りする人間の確認・手続きをしている。

村人たちは幌馬車から降り、順番に手続きを終えて町に入った。

町の中は石畳が敷き詰められ、随分と歩きやすかった。



町には複数の宿泊用広場があるらしく、そのうちの1つに案内された。

すでに大小さまざまな仮設テントが設置されている。

近くには共同入浴場があり、そちらも使用していいとの事だった。

町中も自由に見て回っていいと言われていたので、何人かは荷物をテントに置いて出かけるようだ。

レグノワも初めての町を見て回ろうと思い、荷物を置くためにテントに入る。

中には寝袋とランプが置いてあった。

荷物を置いたレグノワは広場の入口から通りを見まわす。


(どこから見て回ろうかな?)

「レグノワ君!」

広場の入口でキョロキョロしていると、聞き覚えのある声に呼び止められた。

声が聞こえた方を見ると、少し離れた場所からグランがこちらに駆けてくる。

「良かった、まだここにいたか」

「?何かあったんですか?」

不思議そうにレグノワがきくと、グランが申し訳なさそうな表情かおをして言う。

「あー、それが、ギルドマスターが会いたがっていてな。今から一緒に冒険者ギルドまで来てほしいんだが、…どこか行く予定だったか?」

「いえ、町を見て回ろうかと思っていただけなので、大丈夫ですよ」

頷いたレグノワに、ほっとしたようにグランが笑った。

「そうか、ありがとう。こっちだ、ついて来てくれ」


─────


前を歩いていたグランは、大きな通りにある、剣と盾のマークが掲げられた大きな建物の前で足を止めた。

「ここが冒険者ギルドだ」

そう言ってギルドの中に入っていくグランの後についてレグノワも中に入る。

(2階建て、かな?それにしては天井が高いな)

レグノワは初めて見るギルド内を興味深く見まわした。

壁に貼られた大きな地図と、それを挟むように設置された複数の掲示板が目にはいる。

(大きな地図だ、後で見たいな。僕でも見ていいのかな?)

グランに置いて行かれないように小走りで付いていき、階段を上ると『ギルドマスター室』と書かれたプレートが下がっている扉があった。



『ギルドマスター室』の中には2人の男女がいた。

部屋の奥に大きめの机とイス、部屋の中央に低めの長テーブル1つと2人掛けソファが2つ置かれている。

グランはレグノワを部屋の中に入るように促し、そのまま外で待機するようだった。

イスに座っていた男性が立ち上がり、にこりと笑いかけてくる。

「初めまして、俺の名前はヴェヒター。このトラメス町にある冒険者ギルドのギルドマスターだよ。よろしくね」

「レグノワです。よろしくお願いします」

男性、ヴェヒターに向かって頭をさげる。

「彼女は、副ギルドマスターのクレア」

「初めまして、宜しくお願い致します」

紹介された女性、クレアが頭をさげる。

「よろしくお願いします」

「どうぞ、そこのソファに座ってくれ」

レグノワがすすめられたソファに腰掛けると、向かいにヴェヒターが座った。

クレアは紙束と筆記具を持って、ヴェヒターの後ろに控えている。

「さて。早速で悪いけど、改めて村での出来事をいくつか確認させてほしい。主に盗賊団との戦闘に関してなんだけど、大丈夫かな?」

「はい、大丈夫です。…自分でも何が起こったのかわからないこともあるんですけど――」



レグノワが盗賊団を気絶させた時の事を話し終えると、ヴェヒターは感心したように頷いていた。

「へぇ、なるほど…」

「何か、分かりましたか?」

「うん。君の身体に起きた不思議な出来事は、スキルか魔法が発動したんだろうね」

「スキルか、魔法」

レグノワは自分の足元から全身を包むように黒いもやが出ていたことを思い出した。

「君は鑑定したことが無いんだったね?まあ強制じゃ無いし、自分のスキルや魔法を知らない人も結構いるよ」

「そうなんですか」

「うん。さて、君に確認したかったことは以上だけど、レグノワ君は何か質問はあるかい?」

ヴェヒターは柔らかく笑みながらレグノワの目を見つめる。

「あ、えっと…鑑定ってどこで受けられますか?」

「鑑定は基本的にギルドで行っているよ。ギルドに登録するときには必ず鑑定を行う決まりがあるからね、設備が整っているんだ。もちろん、登録しない人も受けられるよ」

「…あの、鑑定にお金はかかりますか?」

「調べるだけなら無料タダだよ。証明書を発行する時は、お金がかかるけど」

「証明書、ですか?」

「そう、証明書。鑑定内容が書かれていてね、貴族のお屋敷とか高級品店に勤める時に必要になったりするんだ。お互いに安心できるようにってね」

「…なるほど。何かあったとき、疑うのも疑われるのも嫌ですからね」

「そうそう。君は理解が速いね、いいことだよ」

「そ、うですか?…ありがとうございます」

にこりと笑って褒めるヴェヒターに少し照れ臭くなった。

「鑑定だけなら今からできると思うけど、どうする?」

「えっと、じゃあ、お願いします」

「わかった。クレア」

笑顔のまま頷いたヴェヒターはクレアに声をかける。

「はい。少々お待ちください」

クレアも頷き、部屋を出ていく。

「そうだ、レグノワ君」

「はい」

「君の鑑定の結果をグランにも見せたいんだけど、いいかな?」

「はい、大丈夫です」

「よかった、ありがとう」


ノック音が聞こえクレアの声が聞こえた、ヴェヒターが入ってくるように返事をする。

「お待たせしました」

クレアが道具を抱えたグランと共に入ってくる。

「ありがとう。テーブルに置いてくれ」

「おう」

グランが道具をテーブルに置いて、また部屋を出ていこうとする。

「あぁ、グラン。君も一緒に結果の確認をしてくれ。」

「ん?俺もか?…レグノワ君はいいのか?」

「ちゃんとレグノワ君に許可はもらってるよ」

グランはレグノワを心配そうに見てきた。

「はい。大丈夫ですよ」

「…そうか、わかった」


グランが頷いたのを見計らって、クレアが説明を始める。

「これが鑑定の魔道具です」

厚めの板の上に透明の半球体が乗っかっているような形をしていた。

「この半球体に手のひらを乗せると鑑定が始まります。鑑定中は半球体が光りますが、熱くなったりはしないので安心してください。光が消えると鑑定終了です。判明したスキルや素質のある魔法の内容は、中にセットされている専用の紙に写されて出てきます」

「乗せるだけでいいんですか?」

「はい、魔力を込めたりする必要はありません」

「わかりました」

「じゃあ、レグノワ君。どちらの手でもいいから乗せてみてくれ」

「はい」

レグノワは手を乗せてみる。

すると、説明通り半球体が光りはじめた。

10秒ほどで光が消えて、板の側面から紙がスッと出てくる。

「よし、鑑定できたね。レグノワ君、内容を確認してくれるかい?」

「はい、えっと…」

レグノワは紙を手に取って、写された文字を見る。

(そういえば、文字を習ったことなかったな…でも、前の世界で使ってた文字にそっくりだ。一緒なのかな?)

「すみません。文字は何度か見たことがあるんですけど、完璧じゃなくて…」

「それは…すまなかったね。配慮が足りなかった」

「いえ、大丈夫です。内容を教えてください」

レグノワは申し訳なさそうな表情かおをしているヴェヒターに紙を渡し、内容を教えてもらう。


―――――――――

 スキル 

 ・隠密

 ・探知探索

 ・鑑定

 ・身体強化

 ・魔法強化

 魔法

 ・闇魔法

 ・氷魔法

 ・雷魔法

―――――――――


「鑑定内容は今言った通りだよ」

鑑定結果をみたヴェヒターは少し険しい顔をしながら教えてくれた。

一緒に内容を確認してくれた2人の様子もちょっとおかしい。

「隠密スキルは持っていると思っていたが5つもあるとは…」

グランは今にも頭を抱えてしまいそうだ。

「闇魔法…」

クレアも少し考え込んでいる。

その様子を見たレグノワは少し不安になってしまう。

「あの、何か問題が?」

「スキル1つ1つは珍しくないんだけど、少し数が多いかな。大体の人は多くて3つ位だからね。隠密に関しても珍しくないけど、犯罪に巻き込まれやすい」

「犯罪に…」

「魔法の方は氷魔法と雷魔法は珍しくないけど、闇魔法は珍しいかな。使える人間は確認されているだけで大陸内に数人しかいないよ。まあ、珍しいって言われてるから、素質があっても隠しているだけかもしれないけどね」

「そうなんですね…」

(闇魔法は前の世界で得意だったな。その影響かな?)



パン!パン!



いきなり目の前から聞こえた破裂音にビクリと肩が跳ねる。

ヴェヒターが大きく手を叩いたようだった。

考え込んでいた様子のグランとクレアも驚いていた。

「さーて、みんな。ぼんやりしている場合じゃないよ。レグノワ君」

「はい」

「君はスキルも多いし、素質がある魔法もいくつかある。だから、冒険者登録してみないかい?」

「おい、ヴェヒター!」

思わずといった様にグランが声を上げる。

「まぁまぁ、とりあえず話を聞けって。いいか?グラン。考えてもみろ、これだけのスキルと魔法素質だ。鍛えなければ暴走してしまう可能性もあるし、犯罪に巻き込まれるかもしれない。最低限、自分の身を守れる位にはなった方がいい」

「それは、確かにそうだが…」

グランはちらりとレグノワを見る。

「冒険者登録すれば堂々と鍛えてあげられるし、ギルドとしても手助けしやすい。それに犯罪組織だって、冒険者となれば手も出しずらいだろ?」

「う"ぅぅん…」

「もちろん、レグノワ君の意思が最優先だよ」

ヴェヒターはレグノワに向き直り、しっかりと目を合わせてきた。

「どうだい?レグノワ君。冒険者にならないかい?」


(確かに…ヴェヒターさんの提案はいいかもしれない)

(この世界にいるかもしれない2人を探しに行きたいから旅には出るつもりだったけど、身体を鍛えるのは必要だろうし、スキルや魔法も今のままでは不安だ)

(これからお金も必要になってくるだろうし、冒険者になるのはいい選択かもしれない)


「僕、会いたい人たちがいるんです。どこにいるかは、わからないんですけど」

「それは、旅に出たいということだね?」

「はい。…旅をする冒険者っていますか?」

レグノワが冒険者登録に前向きなのを感じ取ったのか、ヴェヒターはどことなく嬉しそうに笑った。

「もちろん!むしろ冒険者の半分くらいは旅の冒険者だよ」

「そうなんですね、よかった。えっと、登録には何が必要ですか?」

「冒険者登録には鑑定の他に、武器や防具などの装備も確認するよ。鑑定は終わってるから、後は装備品だね」

「装備品…」

(持って無いよ、そんなの)

「そんな不安そうな表情かおしなくても大丈夫だよ。後でグランに装備品を売っている店を案内してもらうといい」

苦笑するヴェヒターにそう言われ、思わずグランを見ると笑って頷いてくれた。

「おう、任せてくれ」

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

レグノワは安心した様に笑った。

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