第5話 馬車にて


朝起きて朝食を食べた後、荷物を持った村人たちが町と村を繋ぐ村道付近に集まる。

そこには幌馬車ほろばしゃが何台か用意されていて、みんな次々と乗り込んでいく。

(初めて見たけど、大きいな。10人は余裕に乗れそう)

レグノワは最後に乗り込み、一番後ろに座る。

しばらくして、幌馬車ほろばしゃがガタリと動き出す。

レグノワが乗ったのが最後だったらしく、後ろから馬に乗った冒険者たちがついてくる。

(護衛、なのかな?町まで行ったことないけど、途中で魔獣とか出るのかな?)


─────


だんだん村が遠くなる。

ぼんやりと外を眺めていたレグノワに隣から声がかかる。

「大丈夫かい?」

声が聞こえて、隣を見ると心配そうな表情かおをしたおばあさんがこちらを見ていた。

(誰だっけ?思い出せない)

答えないレグノワに他の人も心配したらしく、前に座っていたおばさんは飴を差し出しながら声をかけてくれる。

「これ、食べるかい?」

「えっと、ありがとうございます。…いただきます」

レグノワはもらった飴を少し眺めてから口に含んだ。

(甘い、懐かしい味がする)

飴をくれたおばさんをじっと見ながら、記憶をたどる。

(あ、そうだ。向かいの家に住んでいた人たちだ。よく手作りのお菓子をくれたっけ)

おばさんは、またぼんやりとしはじめたレグノワにますます心配そうな表情かおになった。


「ありがとうねぇ」

「…え?」

ぼうっと前を見ていたレグノワに、おばあさんがお礼を言ってきた。

(ありがとう?なにが?)

何故お礼を言われたのかわからなかったレグノワは、おばあさんに視線を移す。

おばあさんはレグノワの目をしっかりと見つめて、もう一度言った。

「助けてくれて、ありがとう。あなたのおかげで私たちは今生きている。他の人たちもそう思ってるわ」

おばあさんはレグノワに優しく微笑む。

他に乗っていた村の人たちも、こちらを見て頷いていた。

「え、ぁ」

レグノワは言葉が返せなかった。

(…僕は礼を言ってもらえるような人間じゃない)

そして顔を上げていられずに、俯いてしまう。

(たしかに、結果だけ見れば助けたことになるかもしれないけど、本当に助けてくれたのは冒険者たちだし)

彼らは村の人たちのために色々な事をしてくれた。

(…それに、1番生きててほしかった2人はもういない。僕がぼんやりしてたせいだ。あの時もっと早くあいつを殴ってれば)

レグノワは後悔に押し潰されそうだった。


そっと背中に暖かいものが当てられる。

「そんなに自分を責めてたら、あなたのおばあちゃんたちも悲しむわ」

優しいその声にゆるゆると顔を上げた。

おばあさんがレグノワの背中をゆっくりとさすっている。

(そういえば、この人ばあちゃんと仲がよかったなぁ)

ふと、いつも優しく笑いかけてくれた祖父母の顔を思い出した。

(…じいちゃん、ばあちゃん。ごめんね)

じわじわと視界が歪んでく、とっさに顔を下げる。


(寂しいなぁ)


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