第3話 忘れていた事
「んん…」
(?、ここ、どこ?…テント?)
レグノワはテントの中を見まわしながら身体を起こした、なぜ自分がテントで寝ているのかわからなかった。
(うーん?…あ、そうか昨日、村が襲われて、それで……それで?)
「?なんか、忘れてるような?」
昨日と同じような不安感と違和感を感じる。
(とりあえず、外に出よう)
寝袋をたたんでテントから出る。
どこからか漂ってくるいい匂いにお腹がなった。
(太陽の位置が高いな、結構寝てたんだ。疲れてたのかな?)
白いテント群の入口にいる冒険者にあいさつをしながら広場の中心に向かうと、昨日は無かったイスとテーブルが設置されているのが見えた。炊き出しが行われているようだ。
列に並び、湯気が立っている具沢山のスープを貰う。
空いている場所に座り、ゆっくり食べ始める。
(…あったかい。おいしい。)
スープは数種類の野菜とベーコンが入っていて、優しい塩味のホッとする味だった。
周りで同じようにスープを食べている村人を観察する。
(みんな疲れた顔してる……当たり前か)
自分のスープに意識を戻し、また食べ始める。
スープが食べ終わり器を返したころ、大柄な男性冒険者が木箱に乗って広場を見渡しているのに気づいた。
その冒険者は、広場にいた人たちの気を引く様に軽く手を叩いて話し始める。
「食事中にすまない。俺の名前はグラン。トラメス町に所属する冒険者だ。疲れているところ申し訳ないが、村の被害確認のために話を聞かせてほしい。」
大声を出している風ではないのに、不思議と声がよく聞こえる。
(スキル、とかいうやつかな?)
「強制というわけではない、話せそうな方はこちらのテントへ来てほしい。」
そう言って、剣と盾のマークが描かれたテントを指さす。
グランは村人たちが頷いているのを確認してから
「協力感謝します。」
と、一度礼をして木箱から降りる。
(あのテント、昨日案内してもらった時は無かったな)
(どうしよう)
先ほどのテントには、すでに村人が何人か入っていったので、今行ってもすぐには話が出来なさそうだった。
(じいちゃんとばあちゃん探そうかな?それとも1回家に行く?)
レグノワは立ち止まって考える。
(うーん、とりあえず家に行ってみよう)
―――――――
自分の家に近づくと玄関が壊れているのが見えた。
(え?なんで?)
小走りで家に近づく。
「…あ、え?」
ふと、思い出した。
レグノワ自身が、扉ごと侵入者を吹っ飛ばしたのを。
家に近づくにつれて錆臭い匂いが濃くなる。足が止まって、冷汗が出る。
(あぁ、そうだ、あの時)
赤に
つばを飲み込み、息を吐く。
頭を振って、無理やり足を動かした。
壊れた玄関から、そぅっと中を見る。
「…………は」
夢であってほしかった、怖くて嫌な夢であれば。
2人の人間が、いや、祖父母が重なり合って、血溜まりの中、倒れている。
ピクリとも動かない。
最後に見た、あの時のままだった。
足から力が抜け、玄関にへたり込む。
(い、やだ)
信じたくなかった、動かない2人を見たくなかった。
(いやだ、いやだよ…)
膝を抱えてぎゅうっと小さくなる、うつむいて目をきつく閉じる。
忘れていた、じゃないと きっと 動けなかった
死にたくなかった、死なせたくなかった
殺したかった、でも殺さなかった
…あいつらと、同じになりたくなかった
「ふ、うぅ…」
閉じた目が熱くなる、涙があふれて止まらない。
レグノワは動けなくなってしまった。
―――――――
どれくらいそうして居ただろう?
「おい、どうした?」
低い声が聞こえる。
「大丈夫か?」
目を開け、ゆるゆると顔を上げる。
どこかで見た大柄な男性が、レグノワの顔を覗き込んでいる。
「どこか怪我でも…っ!」
低い声が不自然に途切れた。
「…ちょっと、ごめんな」
身体が宙に浮き、揺れている。
(ふわふわ、する)
もう、なにも考えたくなかった。
ゆっくりと目の前が暗くなる。
―…―…―…―
グランは夕方の見回り中にうずくまって動かない少年を発見した。
近くにあった2人の老人の遺体を見て息をのむ。
反応の鈍い少年を慎重に抱きかかえて広場に戻った。
(あの2人はこの子の身内だろうか?ずっと遺体の前にいるのは良くないだろう。それにしても、いつからあそこにいたんだ?身体が冷えてしまっている。)
急いで少年を救護テントに連れていき、医者に診てもらう。
「…うん。怪我はないね、少し体温は低いけど大丈夫。眠っているだけみたいだよ」
「そうですか。…よかった」
その言葉にグランは少し安心する。
「身内らしき人物の遺体の前にいたなら、ショックで精神が不安定になっているのかもね。昨日の様子を他の人たちに確認したほうがいい」
「はい。そうします」
「今日はこのまま救護テントに寝かせておこう。何かあったらすぐに対応できるように」
2人はベッドに横たえた少年を見る。その顔には涙の跡が残っていた。
―…―…―…―
レグノワは見たことのない場所にいた。
白い丸テーブルをはさんで自分と誰かが座っている。
(?、見たことある気がする。誰だったっけ?)
その誰かはゆっくりとカップを傾け、なにかを飲んでいる。
(ここはどこだろう?自分は何をしていたっけ?)
「…まだ、ぼんやりしているようだね。」
心地よい、柔らかく優しい声が聞こえた。
「いろいろ疑問は有ると思うけれど、とりあえず、私のことは覚えているかい?」
「えっと、?」
「ふむ。では、自己紹介からしようか。私の名前はサルディオ」
目の前の人物としっかり目が合う。
「この世界の創造神だよ」
―――――――――――
とある世界では、各地で国同士の小競り合いや争いが増えていた。
それと同時に他国に勝つため異世界から『便利な道具や強い人間』を召喚する特殊な魔法が行われていた。
召喚された人間の中で、身目のいい人間は権力者に献上され、その他の者は魔道具などで操られ、強制的に戦場に送り込まれた。
召喚魔法は次元に穴を開けてしまう危険な行為であった。
神は世界が崩壊する危険性と、異世界人の扱いに怒りと悲しみを覚えていた。
神は各地の権力者たちに警告をした。
異世界人を身勝手な理由で呼び出し、ひどい扱いをするものではない。
召喚魔法は世界に穴を開ける危険な行為だ。このままでは世界は壊れてしまう。と
しかし権力者たちは神の警告を信じず、それどころか『他国の妨害だ!』と争いは激化していってしまった。
次元に穴を開け続け、呼び出した異世界人にひどい扱いをする人間たち。
神は嘆いた。
「…もうこの世界にまともな者は残っていないのか?」
世界を見渡す。と、魔人たちの国が目についた。
この国の者たちだけは、1度も召喚魔法を行っていないようだった。
さらには、他国で召喚された異世界人を保護し守っていた。
そのことに少し安心すると同時に、罪なき魂だけは救うことにした。
神は夢で魔人の国の王に会いに行った。
王は驚いていたが、神を信じているようだった。
「もうじきこの世界は壊れてしまう。警告したが遅かった」
王は諦めた顔をし、神は悲しげにうつむく
「だが、罪のない魂は救いたいと思っている」
そう言って王に水晶玉のようなものを渡す。
「これは魂を回収するための道具だ。魔力を少し流し込むだけで起動する。
お主を含め、この国の者たちの魂は消してしまうには惜しい。
世界が終わるとき、使ってくれ。創り直した新しい世界で、新たに生を授けよう」
感謝を伝えて道具を受け取った王は1つだけ質問させてほしいと言った。
「この世界に連れてこられてしまった異世界の人々はどうなるのか?」と
神は答える。
「異世界の者たちの魂は別に回収する。肉体ごと無理やり世界を移動させられているせいで魂が傷ついているのでな、生きて元の世界に帰ることは出来ない。ただ、魂だけならば、どうにか元の世界に帰すことはできるだろう」
王は悲しそうな顔をしてうつむく。
「…時間だ」
その声を聴いた王はハッと顔を上げ、
目を覚ます。
いつも寝ているベットの上だった。
「今のは、夢か?」
ノックが聞こえたが反応できずにいると、腹心2人が部屋に入ってくる。
いつもと違う様子の王を心配している2人に顔を向ける。
ふと、何かを握っていることに気づいた。
夢で神に渡されたものだった。
―――――――
ついに世界の終わりがやってきた。
神は好き勝手していた権力者たちに再び声をかける。
『この世界のすべてを壊す。生き残るものは、誰もいない。』
―――――――
「これが世界の終わりか…」
バルコニーの手すりを握りしめ、王が呟く。
見上げる空は雲ひとつ無くどこまでも高く青い。
いつもであれば清々しく、さぞ気持ちがいいだろう。
「せぇっかく神様とやらが警告してくれたのになぁ」
後ろに控えていたガタイの良い男が呆れた声を出す。
ビシ、ビシリとガラスが割れるような音が辺りに響き渡る。
「全くですね、これだから聞く耳を持たない馬鹿は嫌いなんですよ」
同じく控えていた神経質そうな男が怒りと苛立ちを含んだ声で吐き捨てる。
何かがパラパラと落ちてくる。
遠くから民衆の恐怖に染まった悲鳴が聞こえてくる。
城のバルコニーから見えるのは、逃げ惑う人々。
強く手すりを握りしめた。
「いつもしわ寄せを受けるのは、罪の無い民達だ」
大きく息を吐き、また空を見上げる。
ビシビシっと一際大きく音が響く。
三人が見上げる空は
雲ひとつ無く
どこまでも高く青く
そして、ヒビ割れていた。
空が割れて 落ちてくる。
王は懐から神に渡された魔道具を取り出す。
魔力をこめると、やわらかく輝きだした。
徐々に輝きが増し、目が眩む程の光が辺り一帯を包み込んだ。
――――――――――
「思い出せたようだね」
「はい、自分はなぜここに?」
「村が襲われたことは覚えているね?」
レグノワは頷く。
「祖父母が目の前で殺された君は、無意識のうちに思い出さないように記憶に蓋をした。でも、再び2人の死を認識した時に強制的に思い出してしまいショックで気を失ってしまったんだ」
レグノワの様子を見ながらサルディオは続ける。
「君の精神は壊れてしまう寸前だった。だからここに呼んだんだよ」
「…あれは現実、だったんですよね?」
「うん。君の祖父母が亡くなってしまった事実は変わらない。…どうする?」
「え?」
「このまま目覚めても現実は続く。2人の死に精神が壊れてしまいそうな程のショックを受けたんだ。現実に帰りたくなければ、そうしよう」
「それは、どういう…?」
「つまり、ここで死んでしまうかい?」
「………」
(どうしようか、じいちゃんとばあちゃんは、もういない)
サルディオは静かにレグノワの答えを待っている。
「…もう少しだけ、生きてみます」
レグノワの答えを聞いたサルディオは優しく微笑んで立ち上がり、レグノワの前まで歩いてくる。
「そう言うと、思ったよ」
レグノワの目元を、サルディオの暖かい手が覆う。
「起きてしばらくは感情の感覚がマヒするだろうけど、一時的な防衛反応だから心配しなくていいよ」
「はい」
「3人揃ったら頼みたいことがあるんだ」
意識が遠のいていく。
「待っているよ…」
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