第20話 その頃、王都では③



 国王陛下が明日の早朝からレイトン公爵家の私設軍と共に王宮へ攻撃を開始する、という話がカルロス第二王子とフェリクス王弟のもとに届いたのは昼過ぎのことだった。

 門も窓も締め切られ、空気の流れのない城内は人々の緊張と焦燥でさらに騒がしくなる。


「クソォオッ!」

「叔父様……」


 フェリクスが机の上にダンッと拳を叩きつけ、血走った目で城の正門の方を睨み付けた。国王陛下がすでに間近に迫っているのが透視でもできているかのように、憎々しげに。


 カルロスはそんな叔父を見て、心の真ん中がぽっかりと空洞になったような気持ちになった。


「カルロス、お前は私に似ているよ」と幼い頃笑いかけてくれたのは叔父だった。

 兄のエリックに比べて才能もなければ努力も好きではない自分を、手放しで可愛がってくれたのは叔父だけだ。父も母もカルロスに第二王子としての役割を求めたが、叔父だけは「苦手なことより得意なことを伸ばせばいいさ」と優しくしてくれた。愚かであることを許してくれた。


 けれど今にして思えば、叔父はカルロスが愚かであることを受け止めてくれたのではなく、愚かで居続けて成長しないようにコントロールしていたのだろう。その方が都合が良かったから。


 息子のように愛されていると信じていたかった。

 ただ傀儡として見下されていたなんて信じたくなかった。


 けれどもう駄目なのだろう。

 馬鹿なカルロスでさえフェリクスの次の言葉が予測できてしまう。


「カルロスよ、お前は城内に居る騎士を率いて、正門前に敷かれた陛下の軍に夜襲をかけてくるんだ」

「……フェリクス叔父様は、どうなさるのですか?」

「私か? 私は城内でお前の勇姿を応援しているとも」


 自らの私設軍に守られて、隠し通路から逃げ出すのだろう。カルロスが囮になっている間に。


 カルロスはぐっと唇を噛み締め、泣くまいと目に力を入れた。

 カルロスの愚かさに付け入ったのはフェリクスだが、フェリクスのせいでカルロスが愚かだったのではない。カルロスの愚かさはただカルロス自身のせいだったのだから。


「わかりました、フェリクス叔父様。叔父様に勝利を捧げます!」


 馬鹿は馬鹿なりに自分の尻拭いをするしかあるまい。

 カルロスはそう決心するとフェリクスの前から退いた。





 もちろんカルロスの夜襲は成功するはずもなく、また国王陛下に行動を見破られていたフェリクスもまた、呆気なく捕らえられた。


 そもそも国王陛下が明朝に攻撃するという情報さえ本物だったのかどうか、怪しいものである。

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