第19話 魔王城
仲間に加わったプリムローズのおかげで人数も増えたし、なにより王都の情報が得ることができた。
王都では私達が居なくなったあともずっと障気に悩まされているらしい。
プリムローズは光の魔力を確かに持っているが、それは障気を浄化できるようなレベルのものではないらしく、どうすることも出来なかったそうだ。
それなのに追放された私達が地方をどんどん浄化させ、人々の生活水準を上げたために、王都の民達はカルロス第二王子とフェリクス王弟に不満を持つようになった。
そこへ国王陛下の指示を受けたレイトン公爵家の私設軍が平民の振りをしてデモを繰り返し、カルロス達を追い詰めて現在彼らは王宮に籠城中。
その隙に国王陛下が王都に入り、レイトン公爵家に本陣を敷いて、王都上下水道工事と洗剤のばらまき政策を推し進めているらしい。
どういうことだろう、国王陛下の思惑がわからない……。
「カルロス第二王子達を放っておいて、なぜ上下水道工事を始めたのかしら?」
私の疑問にエリックが答える。
「たぶん陛下はフェリクス王弟殿下をおちょくりたいんだと思う」
「おちょくる……」
「王都が浄化されて民達の生活水準が上がったのに、国の中心である王宮が一番障気に溢れて汚れているだなんて、皮肉的だろう?」
「なるほど……」
「周りがきれいなドレスを着ているのに、自分だけボロを纏っているみたいな状況になったら、プライドの高いフェリクス王弟には耐えられないから、結局籠城をやめて出てくると思う。そうしたら捕まえて処刑する流れなんだと思うよ」
国王陛下の性格なら、相手を陥れるために回りくどい方法を取っても不思議じゃない。
「もしかしたら今頃すでに、王都の方の決着がついているかもしれないね」
エリックはむしろそうなって欲しいというように呟いた。
預かり知らぬうちに解決していたら楽だもんねぇ。
▽
スターロックに頼んで魔族に声を掛けてもらい、ゴミ拾いの人員を募集すると、結構な数の魔族が集まってくれた。
集まった魔族の半分は冷やかしみたいだったけど、残りの半分は真剣にゴミの処分に悩んでいたらしい。どうもゴミの下に自宅が沈んでいるので発掘したいそうだ。確かにそれは切実な問題ね……。
エリックとシスとアクロイドが、集まった魔族達と共にゴミ拾いをすることになった。そっちはゴミの量が多いけれど集めてゴミ処理場まで運んでしまえば片付くから、比較的簡単だ。ゴミ処理場の職員が、今では浄化された魔の森で待機してくれているし。
私とプリムローズは彼らと別れて別行動することにした。
スターロックの案内のもと、魔王城の大掃除に向かうのだ。
▽
「これが魔王城だよ~」
「ゴミに隠れて見えないんですけど!? 入り口どこ!?」
「ひぇぇぇ、キヨコさん、スターロックさん、ほんとにこのゴミの山に突入するんですか!?」
私とプリムローズはあんぐりと口を開けた。
スターロックの案内なしではまず入り口すら見つけられなかったと思う。壁もほとんど見えない位ゴミが積み重なり、床などあるのかどうかすらわからない。そういう状況だった。
もはや全部捨ててしまいたいけれど、ここは魔王のお城だ。
ペットボトルやピザの箱、スナック菓子の袋など、一目瞭然のゴミだけど、捨てるには家主の許可がいる。
私達は魔王のいる玉座の間へと向かった。
玉座の間はやはりゴミで覆われていた。
玉座というかネット通販で買ったであろうリクライニングチェアーが真ん中に置かれており、その周辺にデスクトップモニターやらゲーム機やら雑誌や漫画が積まれていた。
ハンモックや寝袋や人をダメにする系のビーズクッションなども点在し、電子レンジや冷蔵庫や電気ケトルなども手の届く範囲に設置されている。電気はどうなっているのかしら……。
そしてゴミ、ゴミ、ゴミの山。
魔王はここで、完全に引きこもり生活をエンジョイしているらしい。
「魔王様~! 人間の国から勇者や聖女がゴミ拾いにやって来てくれましたよ~! 城の掃除しても大丈夫ですよね?」
スターロックがゴミ山のあちらこちらに向かって大きな声を上げるが、なかなか魔王の姿が見つからない。「これはどっかで埋もれてるな……」と彼は呟くと、リクライニングチェアー周辺のゴミを重点的にひっくり返し始めた。
そしてようやく魔王の白い手を見つける。
「魔王様、ゴミの中で寝ないでくださいよ。死にますって」
スターロックに引っ張り出された魔王はーーー赤い髪の絶世の美女だった。
少しつり目勝ちな目元は睫毛がバサバサで、唇もぷるぷるしている。ゴミ溜めなどまったく似合わない、とんでもない美人だった。
「あれ、どうしたんだ、スターロック。今日は会議とかなかっただろ?」
「かくかくしかじかでお掃除係をお連れしましたよ」
「なに? そいつはすごいな……」
寝ぼけた感じで目元を擦る魔王はとてつもなく色っぽかったが、ボンッキュッボンのナイスバディーをジャージに捩じ込んだ、残念美女だった。
魔王は冷蔵庫から500mlのコーラを取り出すと、私達に一本ずつ配ってくれて、パーティーサイズのポテチを開けてくれた。歓迎の印らしい。だけど正直ゴミ溜めで飲食したくないなぁ。
けれど私以外は気にせずキャップを開けてコーラを飲んでポテチを食べている。プリムローズは初めてのコーラにゴッフゥと噎せた。
「妾が魔王だ。お前達が城を掃除してくれるっていうのは本当か?」
魔王は少年のような喋り方だったが、声まで色っぽかった。ゴミの中で暮らしてさえいなければ、同性の私でさえ頬を染めただろうに。なんて勿体無い御方だろう。
私は魔王の問いかけに頷いた。
「はい。私がキヨコ・アオベで、こちらにいるのがプリムローズ・ランジェスです。魔王城の掃除に参りましたので、ゴミを捨てる許可さえいただければすぐにでも始めます」
「そっか。じゃあ頼むよ。あ、でもこの部屋のどこかに妾の王冠と魔剣があるはずだから、それは取っておいてくれ。あと玉璽もあったかな……」
国宝レベルのものまでゴミに沈んでいるのね……。
私は遠い目になりながらも了承した。
「他にも重要そうな物が見つかったらお渡しします」
「うん、よろしくー。あ、ねぇねぇ、掃除終わったら一緒にバーベキューでもしない? 網とかコンロとか注文しておくから! お肉も何頼もうかな~」
まだネット通販をするつもりらしい魔王を尻目に、私は腕捲りをする。プリムローズも気合いを入れたようにギュッと拳を握った。
ついに魔王城
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