第18話 魔界
ゴミ処理場が出来てからの私達の進行は早かった。
エリックとアクロイドが合流できたことにより二人から四人に増え、作業効率がぐっと上がったし、なによりゴミ処理場の職員達がゴミ収集を請け負ってくれるようになったのだ。
そもそも私を含め、この勇者パーティーの共通点は『障気に耐性がある体の持ち主であること』らしい。
普通の人間では障気の中では体調を崩すので、障気の蔓延する魔界になど足を踏み入れることも出来ないのだそう。
そのためこの魔の森の掃除に、私の
けれど私達勇者パーティーの四人だけでも地道に清掃活動を続けていれば、障気が浄化される。浄化された土地なら他の人たちも足を踏み入れることができるので、ゴミの運搬ができるということだった。
なので一々ゴミを自分達でゴミ収集場へ運ばずに済むだけで、かなりの時間の節約になった。
その上、アクロイドに「ゴミをガーッと集められるような大型の道具が欲しい」と、小型のブルドーザーのような物を想像してねだったら本当に作ってもらえた。森の木々の間をぐいぐい通れてゴミをがっつり集められるので、エリックやシスにも好評だった。
そして予定よりも早く魔の森の浄化が終わり、ついに魔界へと突入することになった。
▽
魔界はもはやゴミの埋め立て地のような有り様だった。
草木などの植物は完全に姿を消し、延々ゴミで作られた砂漠が広がっている。
しかもそのゴミはやはりどこか見覚えのあるものばかりだ。
ペットボトルに冷蔵庫に電子レンジ、大量生産された洋服達、パソコンにスマホ、スナック菓子の袋に紙パック、お酒の空き缶など……。どれも日本で当たり前に見かけていたもの達だった。
「いったいどうして、こんなに日本の物があるのかしら?」
「これがキヨコの居た世界にあった物なのか? すげぇな、ガラスじゃねーのに透明で、すごく軽いな」
シスはペットボトルを掴み、興味深そうに顔を近づけていた。
「とにかく一歩ずつやるしかないな。みんな、頑張ってゴミを集めて魔界を浄化していこう」
エリックの言葉に私達は返事をすると、魔の森の時と同じようにまた地道にゴミ拾いを始めた。
▽
私達がゴミ拾いを続けていると、前方に第一村人を発見。
黒い外套を身に纏ったなかなか色っぽい感じの男性が、「やぁ」とこちらに手を振っている。
ゴミの砂漠を渡ってやって来たその魔族に、私達は身構えた。エリックとシスは剣を鞘から抜き、アクロイドもいつでも攻撃魔術を放てるように姿勢を正していた。
「あ~、やめてくれよ、そういう攻撃体勢は。俺はただ君たちを労いに来ただけなんだからさ。あ、俺はインキュバスのスターロックっていうんだ。よろしくね」
「労い? なぜ魔族が魔界にやって来た私達を労うというんだい」
エリックが勇者らしく一歩前に出て、インキュバスのスターロックと対面する。
スターロックは「だってさぁ」と可笑しそうに唇の端を上げる。
「君たち、わざわざ魔界のゴミ掃除してくれてんでしょ? さすがは噂に聞く勇者達だなって。ボランティア精神に溢れているなって、俺、すごく感動してるんだよ」
「……なにが狙いだ?」
「え? え? なんでそんなに俺のこと敵視してるの? あ、コーラでも飲む? スナック菓子もあるよ! 魔界の掃除してくれるお礼にあげるよ、ねっ?」
「……スターロック、君は私達が魔界の浄化をしても構わないのか?」
エリックからの質問に、スターロックは首をかしげた。
「浄化って、ゴミ拾いのことだろ? むしろ助かるってのが魔族側の言い分だよ。俺たちは魔王様からなんでも好きなものを貰えるんだけど、貰ったあとのゴミの処分に困っていたのさ」
スターロック曰く、これら魔界のゴミは以前はなかったのだそうだ。
普通に草木溢れるのどかな大地が広がっており、魔族はみんなのんびりと暮らしていた。
だがある時、魔王が異世界へと召喚されてしまったらしい。
魔王を召喚した人間は「悪魔よ、俺をいじめた奴らを呪い殺してくれ。そうすれば代償に俺のクレジットカードを渡してやる!」と言ったらしい(この辺りで私は魔王の召喚先が、私が元居た世界であることを察した)。
魔王は召喚主の願いを聞き届け、彼の復讐を果たすとクレジットカードを貰ったそうだ。そして魔王はこちらの世界に帰る際、魔界にネット通販が届くよう時空を弄ったらしい。
それ以来魔王は色んな日本人に召喚されてはクレジットカードを貰い、ネット通販三昧なのだそうだ。
配下である魔族達にもなんでも注文してくれるので、魔界では物が溢れ、ゴミの山が出来、すでに自分達の手に負えない域にまで来てしまったのだという。
ちなみにそのクレジットカードは魔王を召喚した人間が死んでも、その召喚主の子孫や縁者に半永久的に請求が行き続けるらしい。
なにその呪いのカード。怖すぎ。
「だからさ、勇者達が魔界をまた元の土地に戻してくれたら本当にありがたいってわけ」
スターロックの言い分は分かった。
私達は汚すだけ汚した部屋をなぜか勝手に片付けに来たボランティアだと思われているということは、本当によく分かった。
だがしかし、魔界のゴミVS勇者パーティー四人ではいつ浄化が終わるのかまったくわからない。とにかく作業人数を増やさなければ。
私はスターロックに尋ねた。
「魔族達にも手伝ってもらわなくちゃ作業が終わらないわ。魔族の中にも掃除が出来る人っているの?」
「いないからこんな有り様になったんだよ」
「じゃあ、まずはゴミ拾いから教えなきゃいけないわね……そのあとエリック様とシスとアクロイドと手分けして魔族に掃除のやり方を教えないと……」
考えるだけで気が遠くなりそうだ。
せめて掃除を教えられる人員がこちらにもっといればいいのに……。
でも、障気の蔓延した魔界で活動できる人間なんて私達くらいしか……。
そう悩んでいた私達の元へ、一人の援軍がたどり着いた。
「はぁ、はぁ、……やっと、勇者様達に追い付きました……っ!」
障気が蔓延する魔界にやって来たのは、一度だけ見たことのある栗色の髪の美少女だ。
少女を見て驚いているエリックとシスを尻目に、私は彼女に呼び掛けた。
「あのー、確か光の魔力の聖女様ですよね……?」
彼女はコクンと頷く。
「はっ、はい! プリムローズ・ランジェスと申します! 弱小すぎてなんの役にも立たない光の魔力持ちですが、障気に対する耐性だけはあるので、神官長に頼まれて皆様の援軍に参りました。ゴミの運搬作業でも雑巾がけでもなんでもしますっ。よろしくお願いします!」
こうして神官長のナイス判断により、掃除の出来る人間が一人増えたのである。
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