第17話 その頃、王都では②
「カルロス様! フェリクス王弟殿下! 緊急事態です!」
「なんだい、騒々しい」
「貴様っ! 俺と叔父様が今対策会議を開いているのが見てわからんのか!?」
「もっ、申し訳ありません……! ですが……!」
偽物聖女を追放して以来、王都の状況は悪化の一歩を辿っていた。
王都を漂う障気は日に日に濃くなり、平民の間では疫病も流行り始めていた。
一時浄化されたはずの王城も、古くから勤める侍女達が一斉退職をした辺りからまた障気が発生するようになってきた。
障気が濃くなるにつれて、貴族も平民もカルロスやフェリクスに不審の目を向けるようになってくる。
異世界から召喚した聖女を王都から追放したのは間違いだったのではないか。国王陛下や王太子様達の方が正しかったのではないか。
その証拠のように、地方からはキヨコ達の功績が伝わってくる。
上下水道や水洗トイレ、聖女御用達の洗剤の評判はすさまじく、新たに建設されたゴミ処理場と公衆浴場の噂は瞬く間に広まった。
本来なら地方の民よりも先に与えられるはずだった恩恵が、今だ王都の民には与えられていない。
その不満の矛先が向かうのは、やはりカルロスとフェリクスだった。
二人は連日顔を付き合わせ、光の聖女をどこに派遣すれば民達が落ち着くのか、必死で頭を悩ませていた。
こんなはずではなかったのに。
光の聖女が現れたことにより、国王陛下達が推し進めた異世界からの聖女召喚が無駄だったと判明されたはずだったのに。
国王陛下の失政を民に訴えかけ、扇動し、クーデターを起こして国王陛下もエリック王太子もその権力から払い落とせるはずだったのに。
なぜか光の聖女はたいして障気を浄化できず、日に日に空気は澱むばかりだった。
「ですが平民達が王宮の前に集まり、『異世界から召喚された聖女を連れ戻せ』と騒ぎ立てておりまして……!」
そんな中もたらされた民達の反旗に、フェリクス王弟は眉を寄せた。
カルロスは文官を怒鳴りつける。
「そんな奴等などフェリクス叔父様の私設軍で追い払えばよいではないかっ!」
「カルロス……! お前は黙っていろ!」
フェリクスはあまりに考えなしの甥に、ついに声を荒げる。
「叔父様……?」と恐る恐る尋ねるカルロスに、フェリクスは舌打ちをする。
「ここで民に怪我でもさせてみろ! 民を味方につけることが叶わなくなるだろうが! だからお前は馬鹿なんだ、カルロス!」
「お、叔父様……」
「おい文官! もっと詳しく状況を話せ!」
「は……はいっ。……民達は武装しております。国王陛下派の貴族が武器を流したという噂があり、このまま争えば死人が出てしまいます」
「ああっ、くそ、忌々しい。とにかく一度、王宮前の状況を見に行く!」
「フェリクス叔父様、お、俺もご一緒に……」
「お前なんぞ付いてきたって何の役にも立たんわ! クソ、馬鹿だから使ってやろうかと思っていたが、馬鹿だからこそ非常事態にはただのお荷物にしかならんじゃないか……」
フェリクスはぶつぶつ言いながら、椅子から立ち上がる。報告を伝えに来た文官に先導させながら部屋から退出していった。
カルロスは呆然と叔父の背中を見送った。
▽
「……さあ行きましょう、プリムローズ様」
「神官長……、あの、この騒ぎはいったい……」
騒ぎが起こっている城の正門から離れた、小さな門扉のそばに神官長と光の聖女プリムローズは立っていた。
民とフェリクス王弟の私設軍の緊迫した雰囲気がこちらの門にも伝わり、プリムローズはおろおろと正門の方に顔を向けてしまう。
「大丈夫ですよ、争いは起こりませんから」
「神官長はこの事態が起こることを知っていたのですか……?」
「王宮の前に集まっているのは平民ではありません。国王陛下が指示を出して、レイトン公爵家の私設軍に平民の振りをさせているのです。彼らは一流の軍人ですから、頃合いを見て逃げ出します」
「まぁ、そうなのですね……。よかった」
「私たちは今の隙に逃げましょう。城下へ降りれば馬車が用意されておりますから」
「はっ、はいっ。あの、でも逃げるとは、どこへ……?」
「もちろん、国王陛下達のもとですよ」
神官長とプリムローズは顔が見えないよう、ローブを深く被ると、城から抜け出した。
こうしてカルロス第二王子とフェリクス王弟はさらに窮地へ陥るのであった。
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