第14話 その頃、王都では①
通常なら国王陛下しか座ることの許されないその玉座に、カルロス第二王子は頬杖をついて腰かけていた。
金髪に金の瞳、そして繊細な人形のように整ったその顔に浮かぶのは、玉座に座る高揚感などではなく、ふて腐れたような表情だった。
長い足をだらしなく広げて座るカルロスの姿に、玉座の間にいる神官長や騎士達は内心顔をしかめているが、抗議することなど許されない。現在王都内に居る最大の権力者はカルロスであり、国王陛下からはなんの音沙汰もないからだ。
「……なんだと? あの偽物聖女が民達からの支持を得ているだとっ!?」
文官からの報告に、カルロスは声を荒げる。
玉座の前の床で頭を垂れている文官は王子の怒鳴り声に震えながらも、地方からもたらされた情報を読み上げた。
「はい、聖女キヨコ様は……」
「だからあの女は偽物だ!」
「は、はいっ。に、偽の聖女は地方貴族の屋敷や平民達のもとを回り、聖具を分け与えて各地の障気を浄化しているとのことです。
また、エリック様が『すいどう』なるものを各家に設置したことにより、誰もが井戸や川まで水を汲みに行く作業から解放され、汚物にまみれていた通りが綺麗になったため、さらに市場に人の外出が増え、経済が活発になっているそうです。
この『すいどう』なるものを提案されたのが偽の聖女らしく、人々は彼女に絶大なる信頼を寄せております」
「なんだとっ! あんな奴が人心を得てしまったら、俺とフェリクス叔父様の計画が台無しではないかっ! 光の聖女を使って人心を集め、偽の聖女を召喚するなどと馬鹿げたことをした陛下や兄上をクーデターで追い落とす手はずだっただろうが!」
激昂するカルロスに、文官はさらに追い討ちをかける。
「そ、その噂を伝え聞いた王都の民達が、いつ偽の聖女が王都にやって来て浄化をしてくれるのか、いつ『すいどう』をくれるのかと騒いでおりまして……」
「そんな奴等は黙らせろ! 叔父様に私設軍を出してもらえばいい」
「不満は平民だけではなく、貴族達からも出ております……」
「フンッ。どうせ全員俺より身分は下ではないか。公爵家だろうと黙らせろ、いいな?」
「し、しかし、カルロス殿下……!」
そこへ優男フェリクス王弟が現れた。
元婚約者からの呪いによって十年間眠り続けたせいか、実年齢よりもずっと若く見える。
フェリクスはカルロスに声をかけた。
「カルロスよ、いい機会ではないか。光の聖女を使おう」
「叔父様」
フェリクス王弟の言葉に、カルロスは神官長の隣で縮こまっている少女へ視線を向ける。
栗毛色の髪の少女は、自分の話題に移ったことに怯え、おどおどと視線を揺らしていた。そんな彼女を支えるように、神官長が少女の肩に手を置いた。
「あの女を使うとは、どういうことですか?」
「もともと光の聖女に障気を浄化させるデモンストレーションをさせる予定だっただろう。それを王都の民達の前でやらせればいい。こちらには本物の光の聖女が居るのだという話を広げれば、田舎の噂話など掻き消えるさ」
「なるほど! さすがはフェリクス叔父様です!」
素直に尊敬の眼差しを向けてくるカルロスを、フェリクスは内心で嘲笑う。
本当に扱いやすい馬鹿である。
そこへ神官長が声をあげた。
「カルロス第二王子殿下、フェリクス王弟殿下、私からひとつお願いがあります」
「なんだ、神官長?」
「どうか……光の聖女であらせられるプリムローズ・ランジェス様の浄化作業に、私の同行をお許しください。彼女には支えが必要です」
「……いいんじゃないかな、カルロス。神官長がついている方がより聖女らしいだろう」
「そうですね、叔父様。よし、神官長よ、光の聖女の浄化作業に同行することを許可する!」
「ありがたき幸せ」
カタカタと震える少女を隠すように神官長は前へ出て、深くお辞儀をした。
(隙を見て、彼女をキヨコ様達の元へお連れしなければならない)
今この少女を守ることが出来るのは、この老体である自分だけなのだから。
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