第13話 お掃除革命
王家直轄地のお城の掃除は王都から来た侍女集団と衛兵達の半数と、もともとこちらのお城に使えていた侍女達にお任せすることにする。
私は残りの侍女集団と衛兵をつれて、ついに地方貴族の屋敷へ突撃大掃除をしに行くこととなった。
まずは一番近い、王家直轄地の貴族街へ。
王家の別荘があるだけあって、有力貴族の別荘もいっぱいである。
別荘なんだから一年のほんの一時しかいないのだし、そこまで汚れていないのでは……と楽観視していたが、そんなことはなかった。別荘に一年中暮らしているマダムの屋敷もあれば、ほとんど住んでないけれど倉庫扱いで足の踏み場もないほど物に溢れた屋敷もあった。
私は国王陛下からの勅令を持って屋敷に突入し、どうにか掃除をさせてもらった。
大抵の人は最初ものすごく抵抗する。
「そこは聖女様にお見せできる場所ではありませんから!」「お願いです、一日だけお待ちください!」「駄目です、そこは鍵が壊れていて開きませんから……!」「み、見ないでぇぇぇぇ!!」
泣きわめく人々を説得し、「どこから手をつければいいのかわからない」「ゴミなんて何もないわ。全部要るの」「もしもの時のために取っておいているんです」「思い出があるんです」と言う話をただひたすら聞きながら、まずはカーテンを洗い、窓を拭いていく。
そして貴族達の警戒心を取るために、
「捨てたくないのなら何も捨てなくていいんですよ」
と慈愛の微笑みを浮かべながら、ただひたすらに《清掃》した。
するとピカピカになった窓や、石鹸の香りがするカーテン、磨いて明るくなった壁に、貴族達は決まって感心するのだ。
「あら……空気が違うわねぇ」「我が家の壁は本当はこんなに綺麗な色だったのか……」「聖女様のお陰でお部屋がピカピカになったけれど……もしかしてここにある物は邪魔なのではないかしら?」
綺麗な部屋に似つかわしくない不用品に気がつき、貴族達はおずおずと物の選別を始める。
「これ、本当はあんまり気に入ってなかったの」「ここが壊れていて、もう修理も出来なくて……」「今ある物全部捨てて、この綺麗な部屋にピッタリの家具でも買っちゃおうかしら」
そこで私の出番だ。
貴族本人に要不用を選ばせつつ、取っておくものは《整理整頓》して、捨てるものは《分別》、捨てるには勿体無いものは《リサイクル》だ。
私が貴族の相手をしているうちに、連れてきた侍女集団にはその屋敷の者達に掃除の技術講習を行ってもらう。衛兵は力仕事だ。
行く先々の屋敷にそうやって掃除革命を起こしながら、私達は貴族街を回っていった。
▽
貴族街の掃除が粗方終わると、次は平民達の家である。
平民達の家の汚れは、王族や貴族のように大量の物で溢れていることが原因ではなかった。彼らの家の大半が慎ましく暮らしているので、飾り物や着ない洋服などないのだ。
問題はやはり井戸が少なく、綺麗な水が潤沢に使えないことと、糞尿処理問題だった。
これを根本的に解決できるのはエリックたちによる上下水道工事だけだろう。
工事開始の目処は立っているらしいので、私がするのは工事が終わるまでの糞尿処理くらいだろう。
私は平民達から糞尿を買い取って肥料にし、その肥料を無料で配ると言うお触れを国王陛下に出してもらった。
のちのち水洗トイレを導入することの妨げにならないよう、糞尿を買い取る価格は子供の一日のお小遣い程度に設定しておいた。
それこそお菓子を買いたい子供や、パンを買いたい物乞いの老人、少しでも家計の足しになるかなと大人達が糞尿を持ってきてくれるようになった。そして《リサイクル》した肥料は、農家から家庭菜園をする人まで幅広く貰いに来るようになり、町は少しずつ綺麗になって栄養のある土地が拡大していった。
その頃になると、無事に上下水道の工事が始まった。
各家庭に無料で水道と水洗トイレを設置するという、この国には油田が何個もあるのだろうか……と思ってしまうほどの大盤振る舞いの工事は、それはそれは大人気だった。
エリックはわざわざ「この工事の発案者は聖女キヨコである」と明言したので、私の知名度も鰻登りである。
この大波を逃してはならない。
私は速攻で洗剤の実演講習を始めた。
上下水道の整った地域から、広場やその地域の神殿で掃除の素晴らしさを語り、洗剤の使用方法を伝授していく。
ちなみに洗剤は魔術師がこれからもどんどん大量生産して各地に配送してくれるので、神殿を受け取り場所にして無料で配布することになった。
最初は瓶や容器で洗剤がもらえて、無くなったら空の容器を持ってきてくれればそこに洗剤を詰めてくれるという仕組みだ。これならあまりゴミが出ないだろう。
上下水道工事と聖女印の洗剤のおかげで、王家直轄地の障気はどんどん浄化していった。
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