第12話 合流



「馬鹿を説得しようなんて時間のかかること、今の私には出来ませんよ。なにせ私は王太子であり障気と戦う勇者ですから。忙しくてたまりません」

「あっはは、そもそも馬鹿は話を聞かねえから馬鹿って言うんだよ! これは戦略的撤退ってやつだ、王様!」


 エリックとシスは二人だけで馬に乗って王家直轄地までやって来たらしい。

 エリックは王族なんだからもっと護衛が必要なんじゃないかと思ったけれど、武力のない人間が勇者認定されているわけもないので、私はふーんと二人の話を聞いていた。


 この場に居るのは国王陛下と王妃様、アクロイドと私、そして到着したばかりのエリックとシスだ。

 二人は私とアクロイドを見ると、「良かった」とホッとしたように笑った。


「大丈夫だと思ってはいたけど、カルロス達から偽物扱いの上に王都追放を食らったと聞いて、とても心配してたんだ。怪我もなさそうだし、顔色もいいようだ」

「アクロイドだって攻撃系の魔術を使えっからそんなに心配することはねぇって、俺が言った通りだったろ? それにキヨコはガキの癖にふてぶてしいからな、馬鹿や卑怯者なんかにそう簡単にやられはしねーって」

「でも弟が本当に申し訳なかった。弟の代わりに私から謝罪させて欲しい」

「別にいいですよ、王都追放くらい」


 異世界拉致より全然罪が軽いって。あんたらが謝罪すべきはマジでそこだからね。

 どれだけ衣食住の保証があり、なんだかんだこの人達に馴染んできたとて、その事実に関してだけは別である。


 国王陛下はエリックに王都の状況を報告させた。


「私たちが上下水道に関する視察から城へ戻ってくると、フェリクス王弟の私設軍によって城は占拠されたあとでした。衛兵や騎士団の中でも貴族出身の者達はほとんどが王弟によって買収されたようです。

 私とシスは急ぎ神殿で神官長に会い、カルロスとフェリクス王弟のクーデターについて説明しておきました。共に陛下のもとまで逃げることを薦めましたが、光の聖女が現れたのなら庇護しなければならないと。光の聖女の奪還するために城へ潜り込むと話しておられました」

「そうか、神殿側が光の聖女とやらを匿ってしまえば、民達を扇動するマスコットもおらんからな。そうでなくとも馬鹿どもに少女が利用されるのは忍びないわい……」


 国王陛下、めちゃくちゃダブスタである。

 馬鹿どもに利用されるために拉致られた見た目十五歳の私がここにおりますよ!

 光の聖女とやらもあと半年も早く魔力を覚醒させてくれていたら、私が拐われることもなかったんだろうに。私はなんて運のない女だろう……。


「それで陛下、これからどのように動くおつもりですか?」

「こちらに来てから地方をいくつか見て回ったが、王都よりもこちらの方が障気が濃い。聖女キヨコによる浄化が急務じゃ。光の聖女とやらが王都の浄化をしてくれている間に、地方に手をつける。上下水道の工事もこちらから始めるぞ」

「そうですね。助けを求める民はこちらにもいる。ならば順番を変えても問題はありませんね」


 エリックたちはそのまま上下水道工事に関する会議に移ったので、私と王妃様は部屋から退室した。

 私は私でこの城から《清掃》を地道に続けなければならない。


「キヨコちゃん、別荘の侍女をもっと募集しましょうか? こっちはお城ほどの人数が居ないから大変でしょう?」

「そうですね……。募集はせめて、ここにすでにいる侍女達の掃除教育を終えてからにして欲しいです」


 いきなり増やして全員を掃除教育するのは大変だ。まずはこの城の侍女に免許皆伝して、侍女から新人侍女へと掃除技術を受け継いで欲しい。私の負担的に。


 私の返答に、王妃様は「わかったわ」と頷いてくださった。

 そこで王妃様と別れ、掃除道具を取りに行く。


 力仕事担当も欲しいんだよねぇ。

 シスはこっちでも頼めばやってくれるかしら? それとも明らかに足りないエリックの護衛だろうか。うん、護衛だろうなぁ。

 力仕事担当も探さないとなぁ、と私は思った。





 エリック達が王家直轄地に着いてから二週間。

 この地域での上下水道工事に関する人材や資材や財源確保やらで城内が慌ただしい頃、私は地道にカビや水垢や油汚れと戦っては勝利し、少しずつ聖域を拡大させていた。

 しかしやはり、まだ侍女達の教育は終わらず、家具を移動させてくれる体力のある人材も確保が出来ておらず、進みは遅かった。


 この別荘の掃除が終わるのにどれくらいかかるだろうかと、目の前が暗くなりかけたときーーー王都の城から私が育て上げた侍女集団お掃除シスターズが十数名の衛兵を伴って到着した。


「モニカ……ヘレナ……キャシー、ナンシー、ハンナ、皆……どうしてここへ……!」

「王城はカルロス殿下とフェリスク王弟殿下の手に落ちました。ですが私たちと、ここにいる平民出身の衛兵たちは国王陛下と聖女キヨコ様への忠誠を胸に、城を抜け出して参りました! どうぞご命令ください、キヨコ様。我々は貴女にすべてを捧げます!」

「そんな危険をおかしてまでやって来るなんて……、まったくあなた達ったら……」

「キヨコ様……」

「もうっ、最っっっ高の私の友だわ……!」

「ありがたきお言葉ですわっ!」

「さぁ、私たちは戦うわよ。腐海に飲み込まれたこの地を、人間も動物も植物もみんな健康に暮らせる土地に戻すのよ!」

「はいっ! 私達はどこまでも付いていく覚悟ですわ!」


 こうして私は戦力を増やし、戦いに没頭した。

 侍女集団と力仕事を任すことのできる衛兵達を従え、聖域を拡大させ続ける。


 私達は戦う。

 私達の暮らす地が、平和で安全でゴミも汚物も埃もカビも油汚れも水垢もなく心から笑って暮らせることを祈りながらーーー。

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