第11話 馬鹿な男と卑怯な男



「同じように育てたつもりだったけれど、やっぱり長男には厳しく次男には甘くなっちゃったのかしらぁ。エリックとカルロスは全然違う性格に育っちゃったのよねぇ」


 王家直轄地の『別荘』とは王都のものよりちょっとこじんまりしただけの大きなお城だった。

 王妃様はこの地で王子二人の妊娠中を過ごし、出産も育児も行ったそうだ。そしてエリックとカルロス第二王子がある程度大きくなってから王都の城に戻ったらしい。それ故ここは思い出の土地なのだ。


「はぁ、あの子達が小さい頃に着ていたお洋服を見ると、頑張ってお乳を与えていたことを思い出すわ……。このおもちゃはカルロスのお気に入りだったわねぇ」


 王妃様は切なそうに言う。


「カルロスは小さい頃はお兄ちゃんっ子だったんだけど、成長してからは自分が馬鹿であることに気付いちゃったのよね。それでエリックに嫉妬するようになっちゃったの。

 わたくしはカルロスが馬鹿でも可愛い息子には変わりなかったのだけど、本人は馬鹿じゃなくなりたかったんでしょうねぇ。それでフェリクスの策に乗っちゃうところがやっぱりお馬鹿なんだけど……」

「王妃様はカルロス王子が除籍決定されたのはもちろんショックだったんですよね?」

「うーん、それはどうかしら?」


 部屋中に王子達の幼少期の物を広げながら、王妃様は首を傾げる。


「遅かれ早かれって感じがするし……。カルロスはたぶん、権力の関係ないところで力仕事でもしていた方が幸せに暮らせると思うのよね。馬鹿だから」

「そういうものですか?」

「うん。あの子はきっと汗水垂らして働いた方が、今日もごはんがうまいって単純に喜ぶと思うわ。陛下もそれが分かっていたから、除籍させようと思ったのよ。本気で罰したいなら幽閉の方がカルロスにはきついもの。一ヶ所でじっと出来ないのよ、あの子」


 カルロス王子に対する除籍は、以外と愛のある処罰だったらしい。


 王妃様はおもちゃや育児グッズを広げるだけ広げると「やっぱり無理ぃ!」と叫んだ。


「わたくしには捨てられないわ! あの子達の小さい頃の思い出とか、育児中のことを色々思い出して、無理だわ。捨てられないわ、キヨコちゃん~」

「じゃあこっちは諦めて、マタニティードレスの《リサイクル》を進めましょう」

「そうね! 子供のものよりずっと罪悪感がないわ!」





「フェリクスはのぅ、昔から卑劣な男じゃったんじゃ」


 国王陛下はフェリクス王弟から贈られた品を倉庫からどんどん発掘しては、私に手渡して《リサイクル》させた。


「子供の頃から権力を振りかざしては城の者達に辛く当たってなぁ、儂が窘めるとすぐに母上に泣きつくんじゃ。母上にいかにも儂が悪いように説明して、儂がなにを言うても母上は信じてくださらんかった。本当にクソガキじゃったし、母上は毒親じゃった……」


 まぁ、もう母上も亡くなっておるし、どうでもいいんじゃが、と国王陛下は続ける。


「母上に気に入られとったフェリクスは、王位を後押しするために公爵家の娘と幼少期から婚約しておったんじゃ。

 それなのにフェリクスは十五の時に男爵家の娘と浮気したあげく、婚約者をボロクソに捨てよった。

 それに怒った婚約者は、フェリクスに呪いをかけて、十年の間アヤツを眠らせ続けたんじゃ。そしてフェリクスが二十五で目覚めたときには……すでに儂が王位を継承しておったというわけじゃ」

「その公爵家の婚約者さんはどうなったんですか?」

「浮気をしたフェリクスも悪いが、十年もの年月を無駄にさせた婚約者も悪いと、前国王陛下は判断を下し、彼女を修道院送りにさせた。しかし修道院へ向かう途中に馬車事故が起きて、そのまま帰らぬ人となった」


 それ、かなりの確率で前王妃様の仕業なんだろうなぁ……。


「ちなみに浮気相手のご令嬢は……?」

「平民落ちしたが、隣国の大商人の元へ嫁いで今も優雅に暮らしておるらしい。あれは母上以上の女狐じゃったな」


 国王陛下は遠い目をした。


「とにかくフェリクス王弟は今でも王位に未練があるんですね」

「カルロスを傀儡にして実権を握りたいんじゃろう。じゃが、アイツではこの国は良くならんからな」


 もう馬鹿をやっても尻拭いしてくれる両親はいないし、フェリクス王弟はクーデターが成功しない限り、処刑の運命からは逃れられないんだろう。


「ああ、思い出したらますます腹が立ってきたぞ。これもりさいくるじゃ! アイツが儂に押し付けてきた悪趣味なコート! 生地にしたらそのまま寄付に回してくれ!」

「はーい」


 そうして不要物の粗方が別荘からなくなった頃、王太子であり勇者のエリックと剣士のシスが王家直轄地へと到着した。

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